The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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自主企画シンポジウム

[JD06] 自主企画シンポジウム 6
インプロを全ての教室へ

インプロを応用した学習環境づくり

Sun. Sep 16, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D311 (独立館 3階)

企画・司会:郡司菜津美(国士舘大学)
話題提供:岡本弥生#(神奈川県立向の岡工業高等学校定時制)
話題提供:河邉昌之#(八千代市立勝田台小学校)
指定討論:有元典文(横浜国立大学)
インプロバイザー:清家隆太#(インプロsalon)

[JD06] インプロを全ての教室へ

ーインプロを応用した学習環境づくりー

郡司菜津美1, 岡本弥生#2, 河邉昌之#3, 有元典文4, 清家隆太#5 (1.国士舘大学, 2.神奈川県立向の岡工業高等学校定時制, 3.八千代市立勝田台小学校, 4.横浜国立大学, 5.インプロsalon)

Keywords:インプロ, 学習環境デザイン, 安心感

企画趣旨
 学校での教室空間は,人々のインタラクションが連続する場であり,集団としてどのように上手くやっていくのか,つまり「いっしょに生きる技術」(有元, 2017)を学習する場でもある。Lobman & Lundquist (2007)は,こうしたグループとしての活動に着目し,その活動を学習する方法として,教室でインプロを実践することの重要性を説明した。インプロとは,即興で仲間同士が支え合う,演劇のトレーニングのひとつであり,近年学校現場でも着目され始めている。本企画では,Lobmanらの理論的背景をもとに,日本の小学校・定時制高校の現場で実践された2017年以降のインプロの事例を紹介し,実際にそれらのインプロを体験し,その学習効果を検討してみたい。さらにラップアップとして,インプロバイザーの清家隆太氏を迎え,インプロを通しての学びを参加者全員で体現することを試みたい。なお,本企画はDEE(日本認知科学会:教育環境のデザイン)が主催する。
✳本企画には,動きやすい服装での参加をお願いします。

対人リスクを楽しさに転換する試み―インプロによる場づくりの実際
岡本弥生 
 本校の生徒は,不登校,怠学,発達や知的に関する課題を抱える生徒が多く,他者との関わりを苦手とする者がほとんどである。こうした健康課題は,学校生活だけに止まらず,学校内外での人間関係や恋愛関係,さらには卒後の進路にも大きく影響している。筆者の養護教諭は,この健康課題について保健室等での個別の支援に限界を感じており,集団指導でかれらの課題に取り組める機会を設けたいと考えていた。そこで採用したのがインプロであった。インプロは「アンサンブル,つまりグループとしての活動を学習すること」(ロブマンら, 2007)であり,集団としてその場をどのように創り上げていくのか,そのプロセスを体験できるという特徴がある。他者と関わる場を皆で創造していくことで,安心感のある場づくりが期待できるのだ。本校の生徒が他者との関わりを特に苦手としている現状から,インプロを経験させ,他者と関わることに対する抵抗感を低減させたいという思いがあった。そこで,「誰かと関わることを怖がらない。楽しむ。」ということを目指す発達として,インプロを実験的に試みたのである。最終的には,かれらが他者とより良い関係を築けるようになることを目指しているが,現状の健康課題を鑑み,発達目標に近づいていく第一歩としてインプロを取り入れた。
 本発表では,「ランダムウォーク」「わたし・あなた」「ゾンビゲーム」「カウントアップ」を紹介したい。インプロは,他者と必然的に関わる活動のため,そもそも他者との関わりに苦手意識の高い生徒たちには不安感(リスク)が大きい。そのため,スモールステップで他者と関わっていく度合いを高めていけるインプロを用いた。実践では大学教員及び大学生のファシリテーターが参加し,皆で支えあいながらインプロに取り組んだ。
 本実践では,インプロの学習効果を検討するため,事後アンケートを行った。その結果,参加した生徒の69%が「楽しかった」と回答した(その他は「普通だった(27%)」,「楽しくなかった(4%)」)。普段,本校の生徒は授業や行事への参加意欲が低い傾向にあるため,約7割が「楽しかった」と回答したことは非常に意義のある活動であったと考えられる。また,「安心してできたもの」「ドキドキしたもの」「楽しかったもの」を選択させた結果(複数回答可),後半に行ったゲームほど,「ドキドキしたもの」「楽しかったもの」の回答が増えた。つまり,インプロを実践していくプロセスのなかで,他者と関わるというリスクを乗り越えながら,仲間と楽しむことができたと推測できる。最後に,自由記述欄を設けた結果,「楽しかった」,「またやってほしい」といった肯定的な意見が記述され,日頃のアンケートで自由記述をほとんど記入しない生徒たちの積極的な様子を伺うことができた。このことは,インプロを用いた実践デザインがもたらした結果であり,本校の生徒には効果的であったと考えられる。
 実験的に実施したインプロ実践は,筆者自身をも変化させた。実践前,筆者自身には授業者としてのリスクがあり,失敗体験にさせられない,というプレッシャーがあった。しかし,生徒と共にリスクを乗り越え,共に安心できる場づくりを体験したことで,発達すべきは筆者自身を含むこの集団そのものでもあることを実感したのである。結果として生徒との精神的距離も近づいた。最も大きな気づきは,生徒らが「他者とより良く関わり,楽しむ」力をすでに持っており,それらを発揮する機会・場がなかったのではないか,ということである。これは,スモールステップでリスクを徐々に高めていったことが効果的に働いた可能性はあるが,かれらの健康課題は学習環境とセットであることを思い知らされることとなった。
 現在,新入生を対象としたインプロを実践し,他者と出会い,関わる機会として場づくりを試みている。そこで起きている事象は教育が志向する生徒の発達だけに留まらない,生徒ー教師という集団の発達の必要性への気づきである。当日は発達すべきは誰か,というテーマで議論したい。

楽しい学級作り大作戦
河邉昌之
 私がインプロを学級に取り入れたのは,児童の人間関係を良くしたいという思いがあったからだ。特に高学年になると,男女間に距離感が生まれたり,一部の友達との関係を維持することだけで学校生活を送ってしまったりする様子が観察される。そんな中,子供の遊びの中心がテレビゲームへと変化している時代に,友達と息を合わせて何かを作ったり,成功させたりする経験をする必要があるのではないか,という学級担任としての思いがあった。この思いに合致した活動が「インプロ」である。インプロの活動は,他者と息を合わせなければ,成功しない。成功したくなるような足場かけを教師がすることで,子供達は必然的に他者と息を合わせようとする。このプロセスを経験させることで,子供達のコミュニケーション力の高まりが期待できるのではないか,と考えたのだ。
 本発表では,「ミートゥー」「私は木です」「イルカの調教」を紹介してみたい。どれも他者と息を合わせ,協力することで創造的に場を作り,人間関係を良い方向へと導くものばかりである。実際に,上記のインプロを実施したことで,子供達には驚くべき効果があった。担任教師の目から見て, 人と人とが無理なく繋がることができるようになったのである。「無理なく」とは例えば,発言の声が大きくなったり,表情が明るく(笑顔に)なったりして,異なる友人と関わる姿がこれまでより多く観察されるようになった。いわゆる,「友達の輪」が広がったのだ。こうした関係性が育まれると,何か活動をしていても,子供達の気持ちがひとつになりやすくなる。最も驚いたことは,普段の授業ではほとんど発表をしない児童が,インプロの活動に積極的に挑戦するようになり,普段おとなしい児童が「やってみよう」と思える場づくりを皆で創造できるようになったことである。結果として,一人一人が元気になり,学級経営が円滑に進むようになった。例えば,席替えやグループ決めなど多くの場面で,教員の「適当」が通用するようになり,体育の時間に体操を行う班を作ると,特定の友達で固まらずに,児童同士でよりよい人間関係を築こうとするようになった。
 こうした児童の変化は,授業者としても変化をもたらしている。当初は,児童の人間関係をよくしたいという思いから,朝の会や帰りの会等でインプロを行っていた。しかし,児童らが互いに互いを支える場づくりができるようになると,教師にとって,インプロが「楽しむための道具」から「楽しんで使える道具」へと変化していったのである。例えば,社会科の農業の単元で,「米ができるまで」の学習内容を,児童自身の体を使って表現させるインプロに挑戦させた。この実践に教師が挑戦できたのは,インプロが児童らにもたらした変化が,教師である私にも変化をもたらした結果であるように思う。
 当日は皆さんと,インプロが楽しい学級作りに貢献する役割について,ぜひ,議論してみたい。