[JE01] 学校適応を促す発達障害カウンセリングについて考える
自己理解アプローチ,相談支援,アセスメントの活用
Keywords:発達障害カウンセリング, 学校適応, 自己理解
企画趣旨
発達障害児に関する相談支援には,独自のカウンセリング技法・コンサルテーションがあるものと考えられる。その独自性や実践課題について検討していく。発達障害児への相談支援(発達障害カウンセリング)の特色として,①障害特性や支援ニーズを把握するアセスメントが重視される,②学習面,生活面,対人関係面,行動情緒面といった学校生活行動における多面的な視点から支援ニーズを抽出していく,③本人,保護者または担任教師などのクライエントの障害理解と障害受容(あるいは自己理解)について把握する,④多領域・多職種の専門家などによる連携が効果として強調される,⑤具体的な支援(指導)計画の立案を重視する,が強くみられ,①~⑤の各々の状況や結果などに応じて,対応の方針や支援手立てを考案または変更している。一方で,学校不適応といった困難な状況(クライエントと環境との相互作用によって生じている二次的な問題)に対して優先的に対策を講じる,④支援体制として,教師らのチーム援助や学校と家庭の連携が効果的であることが指摘される。本シンポジウムでは,発達障害児のよりよい学校適応を促すことと自己理解(障害理解を含む)の関連,問題解決などに向けた支援体制つくり,そうした視点から発達障害カウンセリングについて考える。
効果的に発達障害カウンセリングを行うためのアセスメントとは
熊谷 亮
発達障害児の相談支援を行うには,まず支援ニーズを特定することになる。その際,第一に子ども本人が抱く困難感に着目することが重要である。その一方で,他者との関わりの中で,本人は学校生活に困難感を抱いていないものの,周囲がその言動に対して困惑する例も多くみられる。そのため,本人自身の感じ方と同様に他者の認識も重要な観点であり,学校適応の視点で考えると,その両者の折り合いをつけていくことが求められる。
小学校段階の子どもの場合,「子ども本人の思いを代弁する形で」教師や保護者・スクールカウンセラーなどによる他者評価によって障害特性や支援ニーズを把握することが多い。小学校段階の子どもの支援ニーズは多動性・衝動性やこだわりの強さに起因されるような外在化問題として現れることが多いため,他者評価によってニーズを把握することが比較的容易である。しかし,中高生になると外在化問題から,対人関係を含めた感覚の過敏さや心身の不調といった内在化問題に変化していくことが多く,支援ニーズを他者評価からは把握しづらくなる。その一方で,子どもの自己評価によって本人の感じ方を把握する場合にも,自身の困難感を漠然と認識しているにもかかわらず,言語表現スキルの低さから自分のニーズをうまく表現することが難しい。あるいは,自己理解の低さから普段の学校での実態と自己評価が大きく乖離している場合もある。そのため,発達障害児の場合,自己評価を用いる際にはその実施方法に留意する必要があると考えられる。上記を踏まえて,本シンポジウムでは自閉症スペクトラム障害のある中学生を対象とした実践を通してアセスメントから支援計画の立案までのプロセスについて話題の提供を行いたい。
軽度知的障害生徒の自己理解のためのキャリアカウンセリング
李 受眞
特別支援学校高等部は軽度知的障害のある生徒が増え続けており,加えて,支援ニーズの多様性・複雑さへの対応が難しくなっている。特に,通常学級を経由している者が多く,障害受容の難しさや学校不適応などが課題とされている。就労に向けた学校全体のキャリ教育はカリキュラム開発やユニークなプログラムが開発されて充実する一方で,個に応じたキャリアガイダンスは不足している。自己理解とは,自分自身の分析を通して様々な面から自己を確認し,客観視できるようになることである。また,自己概念とは,認知的,情動的,行動的側面を含む比較的包括的な概念であり,自己評価や自尊感情は特に自己概念の評価的側面を意味する構成要素である。その自己概念の形成には,自己へのアプローチに加えて,重要な他者を意識することも重要である。これまで,自己理解に関して障害受容や他者意識との関連を検証するものはみあたらない。知的障害のある高等部生徒とその担任教師を対象に,自尊感情と他者意識に関するインタビュー・質問紙調査を行った。自尊感情に関する評価で,教師と生徒の認識が一致している群は,本対象者らの平均程度に位置する者が多く,教師との関係性が密で相談できる生徒らであった。他者意識の得点において,得点が低い生徒らは教師もそのことを認識しており得点の一致がみられたが,他者意識が強い生徒らは教師との得点差が大きかった(教師が認識できていないことを示す)。知的障害がある場合,認識力の弱さと表現力の未熟さがあり,生徒-教師関係が密な場合,その両者に充分な配慮をした上で,自己理解(障害受容・認識も含む)や他者意識について把握・理解したキャリアカウンセリングが可能になるものと考える。
保護者との連携を促す教育相談・就学相談とは
上村惠津子
集団適応に困難を示す子どもの学校適応を促すには,子どもの実態を把握し,その特徴に応じた環境を整備することが欠かせない。このような環境整備には,保護者の理解と協力が不可欠であることから,子どもの実態について保護者と共通理解を図ることが支援の第一歩となろう。しかし,共通理解を焦るあまり,集団で苦戦する子どもの観察を保護者に求めたり,病院への受診や相談機関への来談を促したりすると,かえって保護者との関係を悪化させてしまうことも少なくない。保護者との連携を促進しつつ学校適応へ向けた教育相談を展開するには,どうしたらよいのだろうか。
話題提供では,保護者と連携しつつ就学相談を展開することができた2事例を基に,連携を促進できた要因を検討する。
事例1は,保護者と教育相談担当者による教育相談において,就学についての保護者および子どもの意向を確認しながら,その具体化に向けた保護者の動き方を検討した事例である。事例2は,保護者と関係者が集う支援会議において,就学先や関係機関での支援内容を検討した事例である。
これらの事例では,就学先や支援内容の決定向けたプロセスを保護者のペースで時間をかけて進んでいる点が特徴であろう。このプロセスにおいて,保護者は安心して悩み,揺らぐことのできる時間と場所を得るとともに,子どもの支援を具体化する支援者の存在を身近に感じることができたのではないかと思われる。また,このプロセスを通して,子どもの実態の共通理解が保護者と関係者間で徐々に図られていった点も特徴である。
発達障害カウンセリングへのコミュニティアプローチ
氏家靖浩
発達障害カウンセリングが目指すものは児童生徒が抱えている「困り感」の解消であろう。しかし,当の本人が「困り感」を認識していなければ,周囲は支援のしようがない。むしろ,教育指導の対象としてのみ関わることで,本人に不快感を生じさせる可能性さえありうる。つまり実際の教室場面で発達障害カウンセリングが児童生徒と教員にとって支援の機能を持つためには,そこに柔軟な発想が必要とされる。注意欠如・多動症(Attention-deficit/hyperactivity disorder,AD/HD)の高校1年の女子生徒は,授業中に時折ハイテンションになることを教科担当教師から厳しく指導され,教員や友人に対して孤立感や不安感を抱えていた。これに校外から関わっていたコーディネーターが気づき,緊急のカンファレンスを実施し,担任と教科担当のそれぞれがこの生徒に持っていた情報の共有や,厳しい教育指導だけでは行動の改善は見込めないこと,クラスメートも本人との距離感に難しさを感じていることを把握した。何よりも本人がとまどい,孤独に陥っていることが類推できた。そこで,本人から見ても教師チームから見ても,本人にカウンセリング的な関わりで接近することが最も適している教員を選び出し,本人には受容的に関わり,それを足がかりにして本人が困惑していた行動について心理教育的な助言を行い,担任は他の生徒たちに対して,人間関係の難しさをテーマにした生徒指導の中でこの生徒と向き合う際の勘所を含ませた。以後,劇的な改善はないものの本人は教室に適応している。発達障害カウンセリングの視点として,本人を中心にしたコミュニティアプローチの着想を提起したいと考える。
(KUMAGAI Ryo, HASHIMOTO Soichi, LEE Sujin, KAMIMURA etsuko, UJIIE Yasuhiro)
発達障害児に関する相談支援には,独自のカウンセリング技法・コンサルテーションがあるものと考えられる。その独自性や実践課題について検討していく。発達障害児への相談支援(発達障害カウンセリング)の特色として,①障害特性や支援ニーズを把握するアセスメントが重視される,②学習面,生活面,対人関係面,行動情緒面といった学校生活行動における多面的な視点から支援ニーズを抽出していく,③本人,保護者または担任教師などのクライエントの障害理解と障害受容(あるいは自己理解)について把握する,④多領域・多職種の専門家などによる連携が効果として強調される,⑤具体的な支援(指導)計画の立案を重視する,が強くみられ,①~⑤の各々の状況や結果などに応じて,対応の方針や支援手立てを考案または変更している。一方で,学校不適応といった困難な状況(クライエントと環境との相互作用によって生じている二次的な問題)に対して優先的に対策を講じる,④支援体制として,教師らのチーム援助や学校と家庭の連携が効果的であることが指摘される。本シンポジウムでは,発達障害児のよりよい学校適応を促すことと自己理解(障害理解を含む)の関連,問題解決などに向けた支援体制つくり,そうした視点から発達障害カウンセリングについて考える。
効果的に発達障害カウンセリングを行うためのアセスメントとは
熊谷 亮
発達障害児の相談支援を行うには,まず支援ニーズを特定することになる。その際,第一に子ども本人が抱く困難感に着目することが重要である。その一方で,他者との関わりの中で,本人は学校生活に困難感を抱いていないものの,周囲がその言動に対して困惑する例も多くみられる。そのため,本人自身の感じ方と同様に他者の認識も重要な観点であり,学校適応の視点で考えると,その両者の折り合いをつけていくことが求められる。
小学校段階の子どもの場合,「子ども本人の思いを代弁する形で」教師や保護者・スクールカウンセラーなどによる他者評価によって障害特性や支援ニーズを把握することが多い。小学校段階の子どもの支援ニーズは多動性・衝動性やこだわりの強さに起因されるような外在化問題として現れることが多いため,他者評価によってニーズを把握することが比較的容易である。しかし,中高生になると外在化問題から,対人関係を含めた感覚の過敏さや心身の不調といった内在化問題に変化していくことが多く,支援ニーズを他者評価からは把握しづらくなる。その一方で,子どもの自己評価によって本人の感じ方を把握する場合にも,自身の困難感を漠然と認識しているにもかかわらず,言語表現スキルの低さから自分のニーズをうまく表現することが難しい。あるいは,自己理解の低さから普段の学校での実態と自己評価が大きく乖離している場合もある。そのため,発達障害児の場合,自己評価を用いる際にはその実施方法に留意する必要があると考えられる。上記を踏まえて,本シンポジウムでは自閉症スペクトラム障害のある中学生を対象とした実践を通してアセスメントから支援計画の立案までのプロセスについて話題の提供を行いたい。
軽度知的障害生徒の自己理解のためのキャリアカウンセリング
李 受眞
特別支援学校高等部は軽度知的障害のある生徒が増え続けており,加えて,支援ニーズの多様性・複雑さへの対応が難しくなっている。特に,通常学級を経由している者が多く,障害受容の難しさや学校不適応などが課題とされている。就労に向けた学校全体のキャリ教育はカリキュラム開発やユニークなプログラムが開発されて充実する一方で,個に応じたキャリアガイダンスは不足している。自己理解とは,自分自身の分析を通して様々な面から自己を確認し,客観視できるようになることである。また,自己概念とは,認知的,情動的,行動的側面を含む比較的包括的な概念であり,自己評価や自尊感情は特に自己概念の評価的側面を意味する構成要素である。その自己概念の形成には,自己へのアプローチに加えて,重要な他者を意識することも重要である。これまで,自己理解に関して障害受容や他者意識との関連を検証するものはみあたらない。知的障害のある高等部生徒とその担任教師を対象に,自尊感情と他者意識に関するインタビュー・質問紙調査を行った。自尊感情に関する評価で,教師と生徒の認識が一致している群は,本対象者らの平均程度に位置する者が多く,教師との関係性が密で相談できる生徒らであった。他者意識の得点において,得点が低い生徒らは教師もそのことを認識しており得点の一致がみられたが,他者意識が強い生徒らは教師との得点差が大きかった(教師が認識できていないことを示す)。知的障害がある場合,認識力の弱さと表現力の未熟さがあり,生徒-教師関係が密な場合,その両者に充分な配慮をした上で,自己理解(障害受容・認識も含む)や他者意識について把握・理解したキャリアカウンセリングが可能になるものと考える。
保護者との連携を促す教育相談・就学相談とは
上村惠津子
集団適応に困難を示す子どもの学校適応を促すには,子どもの実態を把握し,その特徴に応じた環境を整備することが欠かせない。このような環境整備には,保護者の理解と協力が不可欠であることから,子どもの実態について保護者と共通理解を図ることが支援の第一歩となろう。しかし,共通理解を焦るあまり,集団で苦戦する子どもの観察を保護者に求めたり,病院への受診や相談機関への来談を促したりすると,かえって保護者との関係を悪化させてしまうことも少なくない。保護者との連携を促進しつつ学校適応へ向けた教育相談を展開するには,どうしたらよいのだろうか。
話題提供では,保護者と連携しつつ就学相談を展開することができた2事例を基に,連携を促進できた要因を検討する。
事例1は,保護者と教育相談担当者による教育相談において,就学についての保護者および子どもの意向を確認しながら,その具体化に向けた保護者の動き方を検討した事例である。事例2は,保護者と関係者が集う支援会議において,就学先や関係機関での支援内容を検討した事例である。
これらの事例では,就学先や支援内容の決定向けたプロセスを保護者のペースで時間をかけて進んでいる点が特徴であろう。このプロセスにおいて,保護者は安心して悩み,揺らぐことのできる時間と場所を得るとともに,子どもの支援を具体化する支援者の存在を身近に感じることができたのではないかと思われる。また,このプロセスを通して,子どもの実態の共通理解が保護者と関係者間で徐々に図られていった点も特徴である。
発達障害カウンセリングへのコミュニティアプローチ
氏家靖浩
発達障害カウンセリングが目指すものは児童生徒が抱えている「困り感」の解消であろう。しかし,当の本人が「困り感」を認識していなければ,周囲は支援のしようがない。むしろ,教育指導の対象としてのみ関わることで,本人に不快感を生じさせる可能性さえありうる。つまり実際の教室場面で発達障害カウンセリングが児童生徒と教員にとって支援の機能を持つためには,そこに柔軟な発想が必要とされる。注意欠如・多動症(Attention-deficit/hyperactivity disorder,AD/HD)の高校1年の女子生徒は,授業中に時折ハイテンションになることを教科担当教師から厳しく指導され,教員や友人に対して孤立感や不安感を抱えていた。これに校外から関わっていたコーディネーターが気づき,緊急のカンファレンスを実施し,担任と教科担当のそれぞれがこの生徒に持っていた情報の共有や,厳しい教育指導だけでは行動の改善は見込めないこと,クラスメートも本人との距離感に難しさを感じていることを把握した。何よりも本人がとまどい,孤独に陥っていることが類推できた。そこで,本人から見ても教師チームから見ても,本人にカウンセリング的な関わりで接近することが最も適している教員を選び出し,本人には受容的に関わり,それを足がかりにして本人が困惑していた行動について心理教育的な助言を行い,担任は他の生徒たちに対して,人間関係の難しさをテーマにした生徒指導の中でこの生徒と向き合う際の勘所を含ませた。以後,劇的な改善はないものの本人は教室に適応している。発達障害カウンセリングの視点として,本人を中心にしたコミュニティアプローチの着想を提起したいと考える。
(KUMAGAI Ryo, HASHIMOTO Soichi, LEE Sujin, KAMIMURA etsuko, UJIIE Yasuhiro)