The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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自主企画シンポジウム

[JF04] 自主企画シンポジウム 4
学校適応に着目したキャリアガイダンスの新たな展望

思春期から青年期の移行に向けたよりよい援助サービスとは

Sun. Sep 16, 2018 4:00 PM - 6:00 PM D308 (独立館 3階)

企画・司会・指定討論:三浦巧也(東京農工大学)
話題提供:岡田有司(東北大学)
話題提供:齊藤英俊(北陸学院大学)
話題提供:川俣智路(北海道教育大学)
話題提供:荒木史代(福井工業大学)

[JF04] 学校適応に着目したキャリアガイダンスの新たな展望

思春期から青年期の移行に向けたよりよい援助サービスとは

三浦巧也1, 岡田有司2, 齊藤英俊3, 川俣智路4, 荒木史代5 (1.東京農工大学, 2.東北大学, 3.北陸学院大学, 4.北海道教育大学, 5.福井工業大学)

Keywords:学校適応, メンタルヘルス, 発達障害

企画趣旨
 ガイダンスという言葉は,多様な分野において人々が新しい課題に取り組む際の案内あるいは導入などとして用いられる。教育領域におけるガイダンスは,生徒が環境や社会の変化によりよく適応し,その個性や能力を最大限発揮できるように導く教育活動とされている。そして,生徒の社会的自己実現(=キャリア)への主体的な取り組みを促す援助として,学校現場ではガイダンスの充実を図ることが望まれている。従来イメージされる進路面談という狭義のキャリアガイダンスの枠を超えて,生徒の個人的・社会的な発達を促し,確固たるキャリアを形成していくためには,全ての生徒に対する援助サービスとして,生徒の発達段階や時系列に応じた情報や知識等の様々なスキルが求められる。さて,中学・高等学校に在籍する不登校生徒やメンタルヘルスに課題がある生徒,発達障害(その可能性)のある生徒等は,中学生以降になると自分なりに対処方法を考え実行し始める。しかし,問題を的確に捉えきれておらず,対処方法も限定的である場合が多いため,結果として失敗体験を積み重ね,悪循環に陥るケースが示唆される。当該生徒への援助サービスでは,自己の特性を理解し適切な振る舞いを獲得することが重要視されている。加えて,思春期から青年期にかけて生じる環境への移行では,個々の特性に応じて柔軟に対処する能力を養うための援助サービスを提供することが期待される
そこで本シンポジウムでは,学校適応に着目したよりよいキャリア形成の実現に向けた当該生徒への援助サービスのあり方について,例えば中学から高校,高校から大学という移行の視点から模索したいと考える。なお、全ての話題提供は、倫理的配慮に基づく発表・報告がなされる。

「適応の支え」に注目した青年の適応支援
岡田有司
 学校適応に関する研究は蓄積されつつあるが,そこには以下のような課題がある。一つは,学校適応とその関連要因の関係については明らかにされてきたが,多くの場合,学校適応の力動的な側面はあまり考慮されていないという問題である。学校環境への適応が直線的に進むわけではないことを踏まえれば,適応状態が悪化したり,そこから再適応したりといったプロセスも含みこんだ上で学校適応を捉えるための理論的視点が必要であろう。もう一つは,学校適応のゴールをどこに設定するのかという問題である。加算モデル的(岡田,2015a)に学校適応を捉えようとすると,青年には全ての学校生活領域における環境要請に対処することが求められる。明文化されていなくとも,調査書(内申書)や近年の高等教育領域における学習成果アセスメントといった評価ツールは,潜在的にそうしたメタメッセージを含みうる。しかし,全ての青年が学校環境において十全な適応が可能なのか,あるいはそうすべきなのかについては議論の余地があるだろう。
 これらの学校適応をめぐる問題にアプローチする際の視点として,「適応の支え(岡田,2015a)」に注目することが有益だと考えられる。適応の支えにはこれまでに,①学校生活への適応の基礎としての機能,②学校生活に対する動機づけとしての機能,③学校生活において生じた喪失を補償するものとしての機能,④次の活動領域あるいは生活空間に移行する原動力としての機能(岡田,2015b),の4つの機能があることが示されている。
 こうした視点から学校適応を捉えなおすことは,中学校,高校,更には大学と,教科担任制の導入や学校生活における青年の選択肢の幅の拡大を背景に,支援者が個々の青年をトータルに捉えにくくなる状況において,彼らの適応を支援する際にも新たな視点を提供することになるだろう。当日は,適応の支えに基づく適応支援の在り方について皆様と考えてゆければと思う。

メンタルヘルスに課題がある生徒に対する高校から大学の移行期における周囲のサポートとその課題
齊藤英俊
 いじめや不登校の問題は,教育現場の課題である。いじめの問題においては,いじめ経験時のときだけでなく,それを受けた長期間後にも情緒的な不適応や対人関係の問題など精神的・身体的にネガティブな影響を及ぼすことが明らかにされており(坂西,1995;香取,1999;三島,2008),いじめを受けることは,いじめ経験時だけでなく,いじめ経験後においても影響を与えるものであり,経験者のその後の学校適応やキャリアを考える上でも重要なテーマといえる。
 ポスト・トラウマティック・グロウス(PTG)の研究によれば,PTGに関連する要因の1つとして誰かに経験を話すことが指摘されており(近藤,2012:宅,2014),ある意味ではトラウマティックな経験といえるいじめ被害経験においても,いじめ経験を自己成長の経験の機会と捉えている人においては,親や先生といった周囲の大人の関わり,サポートの特徴の1つとして誰かに相談した,話せたことが挙げられており(齊藤,2017),メンタルへルスに課題がある生徒にとって周囲の大人の関わり,サポートは重要である。一方で,いじめ被害経験者にとって,いじめ被害時の親や先生といった周囲の大人の関わりが役立たなかったと感じる傾向もあり(齊藤,2018),どのような関わり方が効果的かを検討する必要がある。
 高校から大学といった移行期においては,親から離れての一人での生活といったこれまでの生活と変化する中で,新たな人間関係の形成や環境への適応といった課題と向き合うことになる。そのような移行期においていじめや不登校経験といった対人関係やメンタルヘルスに課題がある生徒に対して,親や先生といった周囲の大人のどのような関わり方や援助サービスが生徒自身の対処能力を高め,自分のキャリアを形成していく上で必要なのかを検討してみたい。

高等教育,就労への移行を見据えた高等学校の特別支援教育とは?
川俣智路
 小野ら(2013)が述べているように,高校生の時期とは子どもから大人へ移行,学校から高等教育や社会への移行,この2つの移行の時期である。ニューマンら(1988)などの多くの発達心理学者が指摘するように,学童期では技能の習得,遊び,社会的協力などのスキルの獲得が課題となっているのに対して,思春期以降の時期では両親からの自立や職業選択など,スキルに加えて自らの興味関心に基づいて自ら選択していくことが求められる。こうした点から,高等学校における特別支援教育では,スキルの習得や適応支援に加えて,どのようにして自らの行動を主体的に舵とるか(self-directed),そこに自分にとっての意味(Authenticity)を見出せるかが重要となってくるのである。
 しかし,こうした点は狭義のキャリアガイダンスでは重視されず,また高校における援助サービスもそのとき周囲が適切と考えるキャリア設計から逆算されたものが提供されることが少なくない。特別支援教育の文脈での学習・生活環境の整備は情報へのアクセシビリティに偏っており,生徒がどのように自らの考えを表現し共有するか,あるいはどのように学習や社会的行動を動機付けするかといった取り組みのための支援は十分に検討されていないことが多い(川俣,2018)。時には集団に同調するための支援となっている場合も見受けられ,高校生が主体的に自分の興味に基づいて,適切にキャリア形成できるような援助サービスが十分に提供されているとは言い難い。
 本報告では,多様な支援ニーズを持つ高校生を受け入れ,日常生活や授業における支援において生徒が自分で考え選択することを重視し,生徒自身の興味に基づいたキャリア形成を最大限尊重する実践を展開している高校を紹介し,そこから高等教育・就労のためにどのような特別支援教育が必要であるかについて検討したい。

高校から大学,大学から社会への移行-大学における障害学生支援の実践から-
荒木史代
 「平成28年度(2016年度)大学,短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」(日本学生支援機構,2017)では,障害学生数は27,257人(全学生数の0.86%)と増加傾向にある。この障害学生数の増加と平成28年4月の「障害者差別解消法」施行により,各大学では障害学生支援体制の整備が進められている。特に,発達障害学生数は4,150人と障害学生の約15%を占めており,発達障害学生対象の社会的スキル教育(布川・村山,2017),就職・就労移行に向けた取り組み(工藤・小笠原,2017;西村ら,2017)など様々な実践が行われている。
 話題提供者は,学生相談の立場から大学での障害学生支援体制の整備を進めるとともに発達障害学生の支援を行っている。大学入学前の高校との移行支援,大学での修学支援,地域外部機関と連携した就職支援等の実践を通じ,高校から大学への移行という観点から以下の2つの課題,「特別支援教育」から「合理的配慮」への移行,「集団」から「個人」への焦点化,を痛感している。
義務教育・高校段階では学校や保護者主体であった特別支援教育から,大学では学生自ら「合理的配慮」の意思の表明が求められる。例えば,大学入学前に発達障害の診断があるが告知を受けていない学生,あるいは告知は受けていても自身の障害と自己理解が結びつかない学生は,自己理解に基づいた「合理的配慮」の表明が難しい。
 また,実際の就職に向けた活動では,高校までのキャリア教育実践に比べ,より「個人」への活動が焦点化される。例えば,インターンシップや就職活動においては,エントリー,就労体験,報告等すべてのプロセスを個人で取り組むことが求められる。
 これらの課題を検討することで,高校から大学,大学から社会への移行に向けた生徒・学生のキャリア形成における援助サービスの在り方について模索したい。