[準企合] 発達障害への特別支援教育その先へ
教育・心理・医療の統合的展開
Keywords:発達障害, 特別支援教育, 統合的展開
発達障害への支援は,この5年間で急速に展開しています。本シンポジウムは,先端的知見を吸収しながら,日本の教育現場での「広がりと活用(dissemination)」に向けて,以下の観点から,討議を行うことを目的とします。障害への「合理的配慮」とその具体的実践。教育支援の理念と新たな制度設計。アセスメントから支援につなげるシームレスな枠組み。発達支援・教育支援・行動支援のエビデンス。発達障害に関する医学的エビデンス。医療と教育との連携。
話題提供は,それぞれの学会の研究を主導すると同時に,実践現場に常に身を置いて,現状を肌で感じておられる先生方です。各先生には,LD学会,特殊教育学会,小児神経学会,行動分析学会,認知・行動療法学会,発達心理学会などで積み上げられてきた,わが国の学術の先端的な成果についても触れていただきます。
柘植先生には,特別支援学校をはじめとする現在の様々な形態の教育文脈の中で,法と制度と活用しながらできる実践とその成果を,具体的にお話しいただきます。作田先生からは,子どもたちの医療の最前線に立つ医師の立場で,子どもたちのもつ多様な困難とその医療サイドからの解決策,教育との連携の具体例についてお話しいただきます。野田先生からは,多くの子どもたちに適切な教育を行き渡らせるための,クラス全体への支援としての「スクールワイドポジティブ行動支援」,教科学習支援のお話しをいただきます。山本は,幼児期から学齢期にかけて,子どもの発達をシームレスに支える発達支援と教育支援,および,発達のそれぞれの段階で起こりやすい行動問題へのプロアクティブな支援・対応の実践,ICTの活用をお話しします。
特別支援教育のベスト・プラクティスはどのようなものかを,現在の研究・実践を外挿する形で話題提供いただいた後,フロアとの討議へと発展させます。
発達障害研究の深まりと今後
―教育学・心理学の視点から―
柘植雅義
学校教育法の改正や,発達障害者支援法の成立・施行・改正により,発達障害のある子どもへの教育が充実・発展して今日に至っている。
実際の特別支援教育の成果としては,
わが国の学術研究の集大成として『特別支援教育の到達点と可能性:2001~2016』(金剛出版)』が出版された。また,多くの学術誌ではレビュー論文が数多く掲載され,日本LD学会でも,研究内容,方法,波及も蓄積されている(2001~2018)。
このような背景の中で,本シンポジウムでは,以下の内容を話題提供する。
①特別支援教育コーディネーターの役割。②筑波大学附属大塚特別支援学校での実践。
障害者基本計画(2018年4月~5か年),教育振興基本計画(2018年4月~5か年)が,いずれも,ロジックモデルを採用し,種々の指標を明示した。学術研究の蓄積(エビデンス)と活用がますます重要になっていく。この点から,今後の課題として,以下の論点を提案する。
①学術研究の実践・政策への適用を!
Evidence-based Practice, Evidence-based Education Policy
②発達障害の教員免許の創設を!
③大学で発達障害の専門家養成を!
④IEPの法的位置づけを!
発達障害医療と特別支援教育の連携
作田亮一
発達障害診療では診断と療育相談が主体をなす。当センターでは,さらに乳幼児期からの早期診断と早期介入を試みている。就学前の診療では特別支援教育の必要性・可否に関する相談が多い。養育者の特別支援教育に対する不安,知識不足,障害に関する差別感,特別支援教育に対する過大な期待や不満等,相談内容は多岐にわたる。就学後の問題は,学校環境への適応が難しい場合,通常クラスから通級の利用,特別支援学級への転クラスなどを養育者に提示し検討する。その際,担任や校長が養育者に付き添って外来受診し合同で検討することもある。事例を提示し連携の重要性と問題点を明らかにする。
当センターでは,埼玉県の委託を受けて「発達障害の支援者に向けてSSTとペアレントトレーニング研修」を慶応大学山本淳一と協働で行ってきた。参加は主に保育士・放課後児童デイサービスの支援者であるが研修効果は高く研修会の概要を報告する。
行動支援・学習支援から学校システムを変革する
野田 航
近年,特別支援教育において発達障害のある児童生徒に対する応用行動分析学に基づく支援が広く実践されるようになってきているが,その成果は行動問題の解決から基礎学力に対する支援,学校全体のシステム変革にまで広まりつつある。米国では,スクールワイドポジティブ行動支援とResponse to Intervention (RTI) が広く実践され,双方を統合した多層支援モデルも普及しつつある。わが国においても,ポジティブ行動支援に関する国際組織であるAPBSの承認を受けた「日本ポジティブ行動支援ネットワーク」が設立され,ポジティブ行動支援の研究と実践が行われて初めている。
本話題提供では,これまでに成果が報告されてきているスクールワイドポジティブ行動支援のエビデンスについて紹介し,わが国の実践例を報告する。また,基礎学力 (読み書き計算) 向上のための支援についての実践例も紹介し,発達障害への特別支援教育にとどまらない学校システム変革の可能性について検討する。
発達支援によって特別支援教育を支える
山本淳一
発達早期からの発達支援の効果は,国内外の多くの研究で明らかにされている。しかしながら,日本臨床心理士会の自治体への聞き取り調査(日本臨床心理士会, 2014)によると,3歳での発達障害のスクリーニングを実施している自治体の割合は全体の81%であるが,発達促進プログラムが実施されている自治体の割合は全体の22%にとどまる。子どもたちが,幼児期,児童期,思春期を,様々なことを学習し,安定して過ごすためには,効果のある発達支援を就学期での教育支援にシームレスにつないでいき,同時に問題解決の技法を支援の中に組み込むことが必要である。教育心理学の分野においても,各発達のモジュールに対応した効果的な支援プログラムの開発,効果の実証,地域での活用のPDCAサイクルを繰り返し,よりよい支援を実現させていく研究と実践が必要であろう。
本話題提供では,幼児期,児童期,思春期の発達の節目で必要な支援方法に焦点を当てながら,私たちが行ってきたICT(タブレット・アプリによる子育て支援と専門家育成,コンピュータ支援による学習支援,遠隔地へのコンサルテーションのためのTelehealth)を活用した研究と実践を紹介し,討議する。
話題提供は,それぞれの学会の研究を主導すると同時に,実践現場に常に身を置いて,現状を肌で感じておられる先生方です。各先生には,LD学会,特殊教育学会,小児神経学会,行動分析学会,認知・行動療法学会,発達心理学会などで積み上げられてきた,わが国の学術の先端的な成果についても触れていただきます。
柘植先生には,特別支援学校をはじめとする現在の様々な形態の教育文脈の中で,法と制度と活用しながらできる実践とその成果を,具体的にお話しいただきます。作田先生からは,子どもたちの医療の最前線に立つ医師の立場で,子どもたちのもつ多様な困難とその医療サイドからの解決策,教育との連携の具体例についてお話しいただきます。野田先生からは,多くの子どもたちに適切な教育を行き渡らせるための,クラス全体への支援としての「スクールワイドポジティブ行動支援」,教科学習支援のお話しをいただきます。山本は,幼児期から学齢期にかけて,子どもの発達をシームレスに支える発達支援と教育支援,および,発達のそれぞれの段階で起こりやすい行動問題へのプロアクティブな支援・対応の実践,ICTの活用をお話しします。
特別支援教育のベスト・プラクティスはどのようなものかを,現在の研究・実践を外挿する形で話題提供いただいた後,フロアとの討議へと発展させます。
発達障害研究の深まりと今後
―教育学・心理学の視点から―
柘植雅義
学校教育法の改正や,発達障害者支援法の成立・施行・改正により,発達障害のある子どもへの教育が充実・発展して今日に至っている。
実際の特別支援教育の成果としては,
わが国の学術研究の集大成として『特別支援教育の到達点と可能性:2001~2016』(金剛出版)』が出版された。また,多くの学術誌ではレビュー論文が数多く掲載され,日本LD学会でも,研究内容,方法,波及も蓄積されている(2001~2018)。
このような背景の中で,本シンポジウムでは,以下の内容を話題提供する。
①特別支援教育コーディネーターの役割。②筑波大学附属大塚特別支援学校での実践。
障害者基本計画(2018年4月~5か年),教育振興基本計画(2018年4月~5か年)が,いずれも,ロジックモデルを採用し,種々の指標を明示した。学術研究の蓄積(エビデンス)と活用がますます重要になっていく。この点から,今後の課題として,以下の論点を提案する。
①学術研究の実践・政策への適用を!
Evidence-based Practice, Evidence-based Education Policy
②発達障害の教員免許の創設を!
③大学で発達障害の専門家養成を!
④IEPの法的位置づけを!
発達障害医療と特別支援教育の連携
作田亮一
発達障害診療では診断と療育相談が主体をなす。当センターでは,さらに乳幼児期からの早期診断と早期介入を試みている。就学前の診療では特別支援教育の必要性・可否に関する相談が多い。養育者の特別支援教育に対する不安,知識不足,障害に関する差別感,特別支援教育に対する過大な期待や不満等,相談内容は多岐にわたる。就学後の問題は,学校環境への適応が難しい場合,通常クラスから通級の利用,特別支援学級への転クラスなどを養育者に提示し検討する。その際,担任や校長が養育者に付き添って外来受診し合同で検討することもある。事例を提示し連携の重要性と問題点を明らかにする。
当センターでは,埼玉県の委託を受けて「発達障害の支援者に向けてSSTとペアレントトレーニング研修」を慶応大学山本淳一と協働で行ってきた。参加は主に保育士・放課後児童デイサービスの支援者であるが研修効果は高く研修会の概要を報告する。
行動支援・学習支援から学校システムを変革する
野田 航
近年,特別支援教育において発達障害のある児童生徒に対する応用行動分析学に基づく支援が広く実践されるようになってきているが,その成果は行動問題の解決から基礎学力に対する支援,学校全体のシステム変革にまで広まりつつある。米国では,スクールワイドポジティブ行動支援とResponse to Intervention (RTI) が広く実践され,双方を統合した多層支援モデルも普及しつつある。わが国においても,ポジティブ行動支援に関する国際組織であるAPBSの承認を受けた「日本ポジティブ行動支援ネットワーク」が設立され,ポジティブ行動支援の研究と実践が行われて初めている。
本話題提供では,これまでに成果が報告されてきているスクールワイドポジティブ行動支援のエビデンスについて紹介し,わが国の実践例を報告する。また,基礎学力 (読み書き計算) 向上のための支援についての実践例も紹介し,発達障害への特別支援教育にとどまらない学校システム変革の可能性について検討する。
発達支援によって特別支援教育を支える
山本淳一
発達早期からの発達支援の効果は,国内外の多くの研究で明らかにされている。しかしながら,日本臨床心理士会の自治体への聞き取り調査(日本臨床心理士会, 2014)によると,3歳での発達障害のスクリーニングを実施している自治体の割合は全体の81%であるが,発達促進プログラムが実施されている自治体の割合は全体の22%にとどまる。子どもたちが,幼児期,児童期,思春期を,様々なことを学習し,安定して過ごすためには,効果のある発達支援を就学期での教育支援にシームレスにつないでいき,同時に問題解決の技法を支援の中に組み込むことが必要である。教育心理学の分野においても,各発達のモジュールに対応した効果的な支援プログラムの開発,効果の実証,地域での活用のPDCAサイクルを繰り返し,よりよい支援を実現させていく研究と実践が必要であろう。
本話題提供では,幼児期,児童期,思春期の発達の節目で必要な支援方法に焦点を当てながら,私たちが行ってきたICT(タブレット・アプリによる子育て支援と専門家育成,コンピュータ支援による学習支援,遠隔地へのコンサルテーションのためのTelehealth)を活用した研究と実践を紹介し,討議する。