The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

Sat. Sep 15, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA01] 高校生活への意欲と早期の職業的な目標決定の関係

本城慎二 (東京都立府中高等学校)

Keywords:職業的な目標, 進路指導, 高校生活への意欲

問題と目的
 巷には,若者向けの『やりたいことを見つけよう』,『就きたい仕事を見つけよう』といったコピーがあふれている。生徒たちが何気なく目にする進路関係の様々な媒体でも,そのようなフレーズを目にしないことはない。そして世の大人たちの大多数も『まずは自分のやりたいこと,なりたいものを決めてその目標に向けて努力するのだ。』という話を聞いて育ってきているのではなかろうか。この考え方は学校における進路指導においても依然として根強く残っている。『職業的な目標の明確化,その目標に向けての進路・学習計画の立案,それによる学習意欲の向上。』というとても直線的な指導の流れは健在なのである。『なりたい職業』が決まれば目標が明確になり学業を始めとする学校生活にも意欲的に取り組むことができると考えられているのである。確かに,一般的に人は何らかの目標があるとそれに向けて頑張ろうとする部分があることは否定できない。しかし,現代のように変化の激しい社会において早期に職業的な目標を決めることが,本当に生徒たちの高校生活にとって意味のあることと言えるのであろうか。  
 そこで,本研究では高等学校において早期に職業的な目標を決めることが彼らの学校生活への意欲を高めることにつながるのかをまず検証することとする。

方  法
(1) 対象と時期   
 都内全日制普通科高校1年生79名を対象に2017年5月に調査を実施した。
(2) 調査内容
 以下の4項目よりなる質問紙調査に4件法で回答してもらった。質問項目とその略称を以下に示す。
①『自分が将来何になりたいかが決まっていますか。』(決定)②『自分が,将来何になりたいかが高校時代のなるべく早い時期に決まっている方が良いと思いますか。』(早期決定)③『自分が将来なりたいと思うものが変化することは良くないことだと思いますか。』(職業的な目標の変化)④『あなたは自分が得意ではない教科や直接自分の進路に関係ないように思える教科にも頑張って取り組みたいと思いますか。』(勉強への意欲)⑤『あなたは学校生活の中で様々なことにチャレンジしたいと思いますか。』(学校生活全般への意欲)⑥『あなたはどんなことでも,張ろう,頑張ればできるかもしれないと思いますか。』(挑戦への意欲)

結果と考察
(1) 結果
 ①『将来なりたいものが決まっている,何となく決まっている』と答えた者(以下決定群)は79名中37名であったのに対して,『なりたいものが全く決まってない,あまり決まっていない』と答えた生徒(以下未決定群)42名であった。
 ②決定群の生徒と未決定群の生徒の特徴を比較すると以下のような結果が出た。
 a) 決定群の中で『得意でない科目や直接自分の進路に関係ない科目も一生懸命頑張っている,ある程度頑張っている』と答えた者は6名に過ぎず,逆に未決定群ではそれが10名であった。
 b) 両群とも『なりたい職業の変化』に否定的な者は2名のみで肯定する者が大半であった。
 c) 両群とも『学校生活全般への意欲』について肯定的な回答がそれぞれ30名,31名,『挑戦への意欲』についての回答は10名,11名と両者においてほとんど明確な差を見出すことができなかった。
(2) 考察
 今回の結果から以下のことが考えられる。
 i) 高校1年生の段階で職業的な目標が決まっていることが,学校生活への意欲を高めることにはつながらない。これは,まだ入学したばかりであり卒業後のことについてのイメージも具体的なものではないことが考えられる。このことは上記②のb)で示されたように『なりたい職業の変化』について肯定的な傾向が強いこととも合致しており『将来なりたいものが決まっている』と答えた者でも,それを,あくまで一時的な希望と認識している可能性が高い。したがって『決まっている』こと自体が,勉強する意欲などに強い影響力をもつ程のものになっていないのではなかろうか。
 ii) このことからは,教師が生徒の早期の職業的な目標を固定的に受け止めることの危険性も示唆されていると言えよう。教師はややもすると生徒が発する職業希望に飛びつきそれを固定的にとらえて指導を進めてしまう傾向もあるので十分に留意する必要があろう。