The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

Sat. Sep 15, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA02] 発達環境の共同創造

公立相談機関におけるグループアプローチの実践を通して

持田訓子1, 有元典文2 (1.神奈川県立総合教育センター, 2.横浜国立大学)

Keywords:共同創造, まなざし, グループアプローチ

問題と目的
 グループアプローチとは,個人の成長や人間関係の改善,組織開発等を目的として,集団の機能や力動を用いる心理教育の方法の総称である。本研究では,「集団を用いて何らかの活動をしながら人間の心理的成長に対してアプローチするもの」(青野,2002)と定義する。グループアプローチに関する研究は,構成的グループエンカウンターやソーシャルスキルトレーニング等,予め準備されたプログラムの効果を対象とした研究に集中しており,即興的で自由度の高い,遊びや対話場面を対象として検証している研究は未だ少ない。また,対象は小中学生が中心であり,「高校においては,校内研究や授業研究に関する取組が小中学校に比べると低調」(国立教育政策研究所,2010)であると指摘されるように,高校生を対象とした心理教育的な働きかけの効果検証は少ない。
 本研究では,公立の教育相談センターで実施している高校生のグループ相談に焦点を当て,参加者とファシリテーターが対話を軸にグループアプローチの場を共同創造する過程を対象として,その効果を検証し,在り方の提言につなげることを目的とする。

方  法
対象 コミュニケーションの苦手さを主訴として来所相談を行っている高校生5名によって構成された2グループ(以下,Aグループ,Bグループとする)計10名。ファシリテーター2名(心理職,30代及び40代)。
方法 各グループ相談に対し,「参加者としての観察者」(佐藤,2002)の立場で参与観察を行い,活動記録を作成して対話の変容を分析した。全9回終了後に,ファシリテーターに半構造化インタビューを個別に実施し,ファシリテーターの見方・居方の変化を分析した。

結果と考察
 当初のインタラクションは,参加者とファシリテーターとの間に限定されていたが,回を重ねていくと,提示された話題や問いに反応するだけでなく,互いの発言に相槌を打ったり,質問し,応答したりするなど,インタラクションが参加者間に拡大する様子が見られた。Bグループの第3回と第8回の変化を姫野・相沢(2007)による空間的発言連関を援用しFigure 1に示す。
 回が進むにつれ,提示された雑誌の記事を全員で覗きこむなど,対人間距離にも変化が見られ,カードゲームを通して気持ちや状況を説明するなど,個々の発話量も増加した。最終回に向けて「フリートークをしてみたい」「ある程度テーマはあった方がいい」といった意見が挙げられ,第9回では事前に決めたテーマを基にフリートークが行われた。ファシリテーターを介さない参加者間での対話が展開されただけでなく,失敗談を語り,共感し合うなど,対話内容にも深まりが見られた。記事やゲームを媒介として,自身の言動が肯定的に受け止められる体験を重ねることにより,グループアプローチの場が,コミュニケーションに苦手さを抱いている参加者にとって,安心して語れる場となりつつあると推察された。これらのことから,グループアプローチという営みを通し,参加者が支援の対象ではなく,この場を共に創る主体となって,自身を語り,他者を受け止め,語り(ストーリー)を再構築するなど,グループアプローチそのものが発達していくことが示唆された。
 ファシリテーターへのインタビューでは,初期には「どこまで介入するか」といった居方についての葛藤があったが,後期には「もっと(参加者に)任せていいんだとわかった」「委ねてみたら,いろいろな姿が見えた」といった気づきが得られたことが共通して語られた。支援者であるファシリテーターも,参加者と共にこの場を創る中で,成長・発達していると見受けられた。

まとめと今後の課題
 Holzman(2009 茂呂訳2014)により「生成(becoming)の活動は個人の活動ではない。社会的で,集合的な,アンサンブルによる活動である」と示されたように,参加者とファシリテーターが共に創るグループアプローチは,まさにアンサンブルであり,個々の参加の仕方は多様であった。「メンバーに多様性があることは,その組織そのものの発達の機会である」(有元,2016)と捉えるファシリテーターのまなざしによって,個々の多様さが尊重され,参加者の発達を支えたと推察される。対話を軸に共同創造するグループアプローチの実践は,単なる足し算に留まらず,対話という相互作用において起こる創発,言わば集団的発達に可能性を見いだした最近接発達領域を具現化する一つの形であり,ファシリテーターを含めた参加者全員の発達に寄与すると考察される。
 「今,ここ」で起きている事象をどのように見るか,ファシリテーターの予測や期待に基づく可視不可視の存在は否めない。今後はデータの詳細な分析を行い,参加者とファシリテーターがどのようにストーリーを共有し,再構築していくのかを明らかにすることで,グループアプローチという発達環境を共同創造する過程に迫りたい。