[PA15] ポストモダンにおける大学生の成長モデルと時間的展望獲得に関する探索的研究(4)
3つの成長モデルの4年間にわたる事例研究
Keywords:成長, 不安, 大学生活
問題と目的
本研究の目的は,「大きな物語」を喪失し,価値観が多様化したポストモダンを生きる現在の大学生にとっての成長が,実際どのようなものであるかを把握することにある。筆者らは,女子大学心理学系学部生28名を対象に,彼女らが4年間の学生生活の中でどのように成長するのか,半年~1年程度毎に一問一答形式のインタビューを繰り返し,卒業時までこれを実施した。その大学生活4年間の前半期間における記録を分析した結果,次の3つの変容パターン(成長モデル)を抽出した(川上他,2014;佐久田他,2014)。第1に,将来について気になりだすも現状の目標としては,とりあえず「楽しく」と漠然としたまま日常を過ごすメジャー層:展望欠如日常享楽型,第2に入学当初から卒業後不安に言及することなく,学びに期待しつつ「楽しく過ごしたい」と述べる対極層1:学業日常成長実感型,第3に将来について気になり出す一方で資格などの具体的な目標に言及しだす対極層2:不安切迫型である。本研究では,これら3つの層の学生から代表的と思われるケースを抽出し,ポストモダンの大学生における変容パターン(成長モデル)を,4年間にわたるその成長過程を記述した事例を通じてより具体的に描き出し,成長と不安の観点から再考する。
方 法
事例研究対象者 心理学を専攻する女子大学生3名。メジャー層,対極層1,対極層2それぞれに分類された中から典型的な1名を選んだ。
結果と考察
事例研究の結果,それぞれの事例の成長過程は以下のようにまとめられた。
<展望欠如日常享楽型:事例A>
入学当初,大学生活を「楽しく」過ごしたい,と述べつつも,楽しみにしていることは「特にない」状態で,将来の夢も「まだない」,「卒業できるか」が不安だと語っていた。学年が進行しても「楽しく」(1年秋)「のんびり」(2年春)「とりあえず悔いなく」(4年春)過ごすことを望み,「友人と話す/会うこと」が一番の楽しみと語る(2年春~卒業前)。「とりあえず」が口癖で,将来の夢はほとんど毎回「特にない」と述べ,自分を表現する言葉は4年間変わらず『雑』の一言で,自己イメージが変容する様子は見られなかった。卒業前に4年間学んだ心理学について「色々なことやるなあっていう学問」と回答する等,学びの対象のイメージも漠然としたままであった。卒業時には「就職できてよかった」と語った。このように,長期的な展望を持つことが少ない,あるいは将来的な不安を漠然と抱いても,具体的・計画的にそれに対処する姿勢に乏しいことや,学生生活の過ごし方について深く思考せず,目前の楽しみ(特に交友関係)や課題に心を砕く傾向が窺える。
<学業日常成長実感型:事例B>
入学当初,大学生活への期待について,「有意義に過ごしたい」とあまり長いスパンではない「現状の充実」が語られ,楽しみにしていることとしても「心理学を学ぶこと」と同時に「友達と一緒にご飯を食べたり」と,日常の充実が語られた。これは2年次にも変わらず,「楽しく,勉強もしっかりしながら,友達と仲良くしていきたい」とし,「勉強についていけるか,友達と仲良く過ごしていけるか」の2つが不安となっているようである。4年生春においても,自らを『発展途上』と表現し,「まだまだ頑張れるところがある」と語るものの,卒業前には「勉強も楽しみにしてたんですけど,友達とも一緒に遊んだりとかが結構楽しみでした」と語り,学業と日常的な交友関係の双方の充実に満足感をおぼえていることが窺える。
<不安切迫型:事例C>
大学生活の楽しみについては,一貫して友人関係を挙げている。不安については,1年次はスケジュールを組めるか,朝起きれるかと今の生活時間についての不安が挙げられ,将来に対しては資格を取ってそれを活かした就職と楽観的に捉えている。しかし,2年次になると,資格の力でなく,自分の力で社会に出なければならないことを意識して,将来に対する不安と目標について口にし始める。目標は,2年次では「商品開発」と明確だが,4年次では「人並みに楽しく生きれたらいい」とゆるやかなものに修正されている。自分について,大学生活の最後では「前進」(4年生秋)と多忙で頑張る自分を肯定的に捉えているが,それまでは一貫して,「成長途中。自立できていないから」(1年生春),「中途半端」(1年生秋),「寝不足」(2年生春),「追われてる」(4年生春)と否定的に捉えている。また,自分の成長を実感できないことが窺える。
本研究の目的は,「大きな物語」を喪失し,価値観が多様化したポストモダンを生きる現在の大学生にとっての成長が,実際どのようなものであるかを把握することにある。筆者らは,女子大学心理学系学部生28名を対象に,彼女らが4年間の学生生活の中でどのように成長するのか,半年~1年程度毎に一問一答形式のインタビューを繰り返し,卒業時までこれを実施した。その大学生活4年間の前半期間における記録を分析した結果,次の3つの変容パターン(成長モデル)を抽出した(川上他,2014;佐久田他,2014)。第1に,将来について気になりだすも現状の目標としては,とりあえず「楽しく」と漠然としたまま日常を過ごすメジャー層:展望欠如日常享楽型,第2に入学当初から卒業後不安に言及することなく,学びに期待しつつ「楽しく過ごしたい」と述べる対極層1:学業日常成長実感型,第3に将来について気になり出す一方で資格などの具体的な目標に言及しだす対極層2:不安切迫型である。本研究では,これら3つの層の学生から代表的と思われるケースを抽出し,ポストモダンの大学生における変容パターン(成長モデル)を,4年間にわたるその成長過程を記述した事例を通じてより具体的に描き出し,成長と不安の観点から再考する。
方 法
事例研究対象者 心理学を専攻する女子大学生3名。メジャー層,対極層1,対極層2それぞれに分類された中から典型的な1名を選んだ。
結果と考察
事例研究の結果,それぞれの事例の成長過程は以下のようにまとめられた。
<展望欠如日常享楽型:事例A>
入学当初,大学生活を「楽しく」過ごしたい,と述べつつも,楽しみにしていることは「特にない」状態で,将来の夢も「まだない」,「卒業できるか」が不安だと語っていた。学年が進行しても「楽しく」(1年秋)「のんびり」(2年春)「とりあえず悔いなく」(4年春)過ごすことを望み,「友人と話す/会うこと」が一番の楽しみと語る(2年春~卒業前)。「とりあえず」が口癖で,将来の夢はほとんど毎回「特にない」と述べ,自分を表現する言葉は4年間変わらず『雑』の一言で,自己イメージが変容する様子は見られなかった。卒業前に4年間学んだ心理学について「色々なことやるなあっていう学問」と回答する等,学びの対象のイメージも漠然としたままであった。卒業時には「就職できてよかった」と語った。このように,長期的な展望を持つことが少ない,あるいは将来的な不安を漠然と抱いても,具体的・計画的にそれに対処する姿勢に乏しいことや,学生生活の過ごし方について深く思考せず,目前の楽しみ(特に交友関係)や課題に心を砕く傾向が窺える。
<学業日常成長実感型:事例B>
入学当初,大学生活への期待について,「有意義に過ごしたい」とあまり長いスパンではない「現状の充実」が語られ,楽しみにしていることとしても「心理学を学ぶこと」と同時に「友達と一緒にご飯を食べたり」と,日常の充実が語られた。これは2年次にも変わらず,「楽しく,勉強もしっかりしながら,友達と仲良くしていきたい」とし,「勉強についていけるか,友達と仲良く過ごしていけるか」の2つが不安となっているようである。4年生春においても,自らを『発展途上』と表現し,「まだまだ頑張れるところがある」と語るものの,卒業前には「勉強も楽しみにしてたんですけど,友達とも一緒に遊んだりとかが結構楽しみでした」と語り,学業と日常的な交友関係の双方の充実に満足感をおぼえていることが窺える。
<不安切迫型:事例C>
大学生活の楽しみについては,一貫して友人関係を挙げている。不安については,1年次はスケジュールを組めるか,朝起きれるかと今の生活時間についての不安が挙げられ,将来に対しては資格を取ってそれを活かした就職と楽観的に捉えている。しかし,2年次になると,資格の力でなく,自分の力で社会に出なければならないことを意識して,将来に対する不安と目標について口にし始める。目標は,2年次では「商品開発」と明確だが,4年次では「人並みに楽しく生きれたらいい」とゆるやかなものに修正されている。自分について,大学生活の最後では「前進」(4年生秋)と多忙で頑張る自分を肯定的に捉えているが,それまでは一貫して,「成長途中。自立できていないから」(1年生春),「中途半端」(1年生秋),「寝不足」(2年生春),「追われてる」(4年生春)と否定的に捉えている。また,自分の成長を実感できないことが窺える。