日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

2018年9月15日(土) 10:00 〜 12:00 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA62] 学校インターンシップのデザインの検討

参加学生が実践時に抱えていた悩みの変化から

大内里紗 (東京学芸大学大学院連合)

キーワード:学校インターンシップ, 学習環境デザイン, テキストマイニング

問題と目的
 学校インターンシップとは「教職課程の学生に,学校現場において教育活動や校務,部活動などに関する支援や補助業務など学校における諸活動を体験させる」(文部科学省, 2015)取り組みであり,既存の「教育実習」とは異なる位置付けで多くの大学が導入している。中央教育審議会(2015)によると,学校インターンシップでは「理論と実践の往還による実践的指導力の基礎の育成」が目指されている。しかし麻生(2016)は,学校インターンシップの実態として学生・現場教員・大学教員が連携するためのシステムの整備が不十分であると述べ,「理論と実践の往還」のためには学生の「省察」が不可欠であり,また適切な「省察」を促すための体制作りが必要だと指摘している。
 そこで本研究では,教員養成系A大学が学校インターンシップに関する必修科目として設定している「教職実践演習」をフィールドとし,参加学生の省察の一部である実践時の悩みに関する自由記述を分析することで,実践環境のデザインについて検討することを目的とする。

方  法
 本研究は教員養成系A大学心理学専門領域の4年生による公立B中学校における学習支援の実践を調査対象とした。B中学校は非行・いじめ・校内暴力・学級崩壊などの問題を持つ課題集中校であった。実践は2015年から2017年までの3年度に渡って行った。実践内容は一般生徒に対する放課後学習支援を主としたが,実施形式は前年度の反省を元に年度ごとに変更していた。各年度の実施日と実施形式,参加学生数を以下のTable1に示す。また実践開始時には毎年B中学校で事前指導を行っていた。
 全ての年度で学生用の「振り返りノート」を用意し,担当日の最後に記入を依頼した。「振り返りノート」は①本日の取り組み②気がついたこと・感じたこと③生徒の様子・やりとり④申し送り事項・注意事項・困ったこと,以上の4項目で構成されていた。また初年度以降はあらかじめ前年度以前の「振り返りノート」を学生が閲覧できる状態にし,実践に役立てるようにと指示した。

結果と考察
 3年度分の「振り返りノート」を年度ごとにテキストデータ化し,分析ソフトKH Coder-2.00e-を使用してテキストマイニングを実施した。今回はその結果の一部である「④申し送り事項・注意事項・困ったこと」に関する内容を取り扱う。
 分析の結果,全ての年度に共通して学生の悩みは理論的な語よりも実際の活動に関する語が多く抽出された。また,各年度ごとに次のような特徴が見られた。まず2015年度は「理科室のカーテンを閉めた方が集中できる」など,実践時の環境についての記述があった。初年度の実践では環境整備が行き届いておらず,学生により実践しやすい環境の整備を求める意識があったと考えられる。次に2016年度は「授業中,寝ている生徒に声掛けをしても無視される」など,授業場面での支援の難しさについての記述があった。この年度は放課後に加えて通常授業での学習支援をしたことで,授業中に目につく生徒の様子とその生徒への支援の難しさに関する記述が多くなったと考えられる。最後に2017年度は「解答を持っていないと難しい」など,学生が自身の力量不足に責任を感じている記述があった。この年度は前年度以前に比べてスムーズに学習支援が行われた。しかし,それに伴って学習支援における学生の存在意義の検討とその周知の必要性が顕在化したと考えられる。

総合考察
 3年度分の実践経過から,学生が実践時に抱える悩みは実践環境のデザインに応じて変化する事が示唆された。しかし、今回研究対象とした3年間の実施形式の変化は大学の授業担当者が前年度の学生の省察をもとに一方的変更したものであり,学生自身が自らの省察をもとに変更したものではない。今後は実践の当事者である現場教員と学生,中学生が共同で実施形態について検討し,改善を加えていくことができる省察の場の創出することで、学生により「理論と実践の往還」を意識させる実践環境のデザインが必要だと考えられる。