The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

Sat. Sep 15, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA69] 中学生における自己の目標設定・振り返りと学級適応感の関連

橋本巌1, 菅太樹#2, 小田哲志#3 (1.愛媛大学, 2.新居浜市立南中学校, 3.愛媛大学)

Keywords:中学生, 目標設定, 学級適応感

問題と目的
 本研究は,中学生の学級・学校適応感調査結果を見た学級担任教師らへのインタビューにおいて,学級の全体像だけでなく,個々の生徒への理解を深め,「個別指導の充実」を目指す必要があるという課題意識が回答されたことから,ひとつの方向として,探索的に,生徒個人による自己の目標設定・振り返りを支援する実践を開発し,目標設定・振り返りの諸側面が,学級適応感とどのように関連するかを分析した試みの報告である。
 目標意識を持つことは,自己内対話の中で自分自身を一つの水路に沿って方向づけることにほかならず,自己を律し,アイデンティティを確立しようとする主体性の発達にとって不可欠の発達課題である(梶田,2004)。また,目標によって自己を方向づける活動は自己制御(自己調整)過程に含まれる。近年,自己制御傾向が社会性・学級適応感や,学習面での動機づけと関連するとの知見があるが,目標設定に視点を置いた生徒の個別支援の実践が学級適応感とどのように関連するか検討することが本研究の目的である。
 
方  法
1 研究参加者と調査手続き 学級適応感(栗原・井上(2010)の学校環境適応感尺度(アセス))の測定は,協力校1校の中学1年生5学級186名が対象。5月,7月,11月に実施。また,目標設定・振り返りの実践は,同学年の1学級37名(男17名,女21名)を対象とした。調査はいずれも担任教師および第二著者により記名式で実施した。研究開始時および調査時に趣旨及び倫理的配慮を説明し,学校と生徒の了解を得た。
2 アセス調査内容 生活満足感,教師サポート,友人サポート,向社会的スキル,非侵害的関係,学習適応感,の6尺度からなる。34項目。5件法。3 学校生活における目標の自己設定と振り返り10月17日から12月18日まで実施し,目標設定とその振り返りとを,各々計10回行った。この一連の取り組みは,第二著者の説明でX週に「目標設定シート」に生徒が記入し,X+1週には,最初にX週の目標に関する「振り返りシート」,次にX+1週の「目標設定シート」を記入という手順を繰り返した。<記入内容と留意事項>(1)目標設定シート:「学習」と「対人関係」に関する上位目標と,各々に対する具体的な行動目標(具体的方策)である「心がけ」を記入させた。この「目標」と「心がけ」は共に1週間単位で変更可とした。また目標設定時には自己の期待や課題を直視して表明しやすいよう,学級担任と第二著者と生徒の三者間だけでの開示・やりとりを約束し,他の級友に目標等が明らかにならないように配慮。各シートには,回収後,励ましの言葉を朱書きし,具体的でない目標等への助言も行った。さらに,忘却防止のため,週の半ば(毎週水曜日)に一旦返却し途中評価させる欄も設けた。(2)目標振り返りシート:項目は,〈目標に対しての達成度> 3件法,〈目標を意識しながら生活することの難易度〉3件法,自由記述にて〈目標を忘れない為の工夫〉,〈目標を意識して生活することの感想〉,であった。また〈心がけに対しての振り返り〉を「近づける目標だった」「改善が必要」の2件法で尋ねた。

結果と考察
1 目標設定と「心がけ」の内容 (1)学習目標は,「テスト結果の向上」,「自分が高めたい教科」,「学習習慣の確立」,の3カテゴリーに大別された。期末テストまでは「テスト結果向上」を目標にする者が多いが,全体では「学習習慣の確立」を目標とする者が最多。また,どの目標でも「学習習慣の改善」を心がけとする者が多い。変更頻度は,目標に比べ,心がけの方が高い。(2)対人目標は,新しい関係形成を目指す「他者への積極的関わり」と既存の友人への配慮を示す「人間関係の充実」に分かれ,後者が多い。
2 振り返り 「目標を持って過ごす感情」の自由記述から,「困難さ・不安」,「達成・成長」,「反省・工夫」のカテゴリーを得た。
3 目標設定・振り返りと学級適応感の相関 各目標・心がけおよび振り返りの自由記述から得たカテゴリーの10週分の出現頻度を合計し,それらとアセス各下位尺度との相関係数を検討した。分析の結果,学習面で「学習習慣確立」の目標設定と「学習適応感」とに負相関,学習心がけの変更頻度と「生活満足感」とに正相関が示された。対人目標の「他者への積極的関わり」は「向社会的スキル」と負相関し,振り返りの「反省・工夫」の頻度は,「学習適応感」や「教師サポート」と正相関した。以上より,生徒の学習面,対人面それぞれの目標設定と振り返りは学級適応感と関連し,生徒理解・支援への活用可能性が示唆された。