The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PA] ポスター発表 PA(01-78)

Sat. Sep 15, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PA77] 項目回答における主要な反応スタイルについての再考

分割型クラスタリングによる心理変数における反応スタイルの分類

北條大樹1, 岡田謙介2 (1.東京大学・日本学術振興会, 2.東京大学)

Keywords:反応スタイル, 係留ビネット法, ベイズ多次元項目反応モデル

はじめに
 反応スタイル(response style)とは,調査において回答者の個人特性(測定する構成概念)とは別に,調査項目の回答に表れる項目回答をゆがめてしまう概念をさす。これまでも評定尺度に表れる反応スタイルに関する議論は行われてきた。しかしながら,これまで提案されている反応スタイルの補正法には大きく2つの問題がある。
 1つ目は,これまでの補正法が,カテゴリカルな反応スタイルの型に沿った補正法である。主要な反応スタイルの型に,回答者がどれだけ適合するかを推定し,それによって回答者の反応スタイルを補正していた。しかしながら,これでは,反応スタイルの個人差に応じた反応スタイルの統制が困難であり,反応スタイルの補正が主要な型に沿った補正に限定されてしまう。
 2つ目は,反応スタイルの補正を行う場合,基本的に反応スタイルに影響を与える要因が特定されている,もしくは検討がついている必要があった。このため,調査段階で反応スタイルへの影響を検討していない要因に関する補正を行うことができないことがほとんどだった。

目  的
 上記の2つの問題点を解決したうえで,心理学で頻繁に調査される抑うつ変数と反応スタイルの関係性について検討する。関係性を検討する上で,心理変数に近い健康変数(日常活動・認知・呼吸)と反応スタイルの関係性を検討し,そして,従来の主要な反応スタイル以外の型を発見した,北條・岡田(2018)と比較を行う。最終的に,今後の心理学調査の項目回答における反応スタイルの補正法について議論を行う。

方  法
 本研究では,反応スタイル補正のための調査デザインとして提案された係留ビネット法(Anchoring vignettes,King et al.,2004)とベイズ多次元項目反応モデル(Bolt et al., 2014)に準拠するモデルを用いる。
 係留ビネット法とは,回答者が従来の項目(自己評定項目)へ回答するのに加え,仮想人物について描写した文(ビネット)とその仮想人物について問う項目(ビネット項目)への回答を行う調査法である。そして,このデータにベイズ多次元項目反応モデルを適用することで,回答者個人ごとの反応スタイルを量的に推定,補正することができる。
 本研究で使用するデータは,北條・岡田(2018)でも用いたヨーロッパのSHARE wave1で収集された健康変数(日常活動・認知・呼吸)と心理変数(抑うつ)である(N=2,131)。そして,推定された回答者の反応スタイルに分割型クラスタリングを実施し,回答者を反応スタイルの特徴ごとに分類する。

結果と考察
 北條・岡田(2018)は,健康変数と反応スタイル間の関係性において,中間反応スタイルや黙従反応スタイルを確認した一方で,極端な回答カテゴリを避ける反応スタイルや5件法の回答カテゴリの4に回答しやすい反応スタイルの存在を確認している。そして,前者の2つは,主要な反応スタイルとしてこれまでも補正に用いられたが,後者の2つは,主要な反応スタイルとして扱われず,補正に用いられることも少ないと結論づけた。
 ベイズ多次元項目反応モデルを用いたことで,回答者の反応スタイルの個人差を量的に検討することが可能になった。このため,今後の心理学における調査研究では,係留ビネット法とベイズ多次元項目反応モデルを利用し,回答者の反応スタイルを個人ごとに統制しつつ,回答者の個人特性をより精確に測定することが可能となるだろう。

引用文献
Bolt, D. M., Lu, Y., & Kim, J.S. (2014). Measurement and control of response styles using anchoring vignettes: A model-based approach. Psychological Methods,19(4), 528-541.
北條大樹・岡田謙介. (2018). 係留ビネット法による反応スタイルの分類 ヨーロッパの大規模健康調査を例に. 行動計量学, 45, 13-25.
King, G., Murray, C. J., Salomon, J. A., & Tandon, A. (2004). Enhancing the validity and cross-cultural comparability of measurement in survey research. American Political Science Review, 98(1), 191-207.