The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB04] 母親を取り巻く子育て環境が母親の育児感情および養育行動に与える影響

大内晶子1, 倉住友恵2, 冨田久枝3, 鈴木公基4, 櫻井茂男5 (1.常磐短期大学, 2.駒沢女子大学, 3.千葉大学, 4.関東学院大学, 5.筑波大学)

Keywords:育児感情, 養育行動, 母親

問題と目的
 母親の育児感情や養育行動が子どもの発達・成長に影響を及ぼすことは,広く知られるところである。本研究では,母親の育児感情や養育行動に影響を及ぼす一要因として,子育てに関わる大人の人数および母親との関係性を子育て環境として取り上げて検討する。

方  法
調査対象 東京都内の幼稚園6園の年中・年長児,ならびにその近隣の公立小学校4校に通う1~3年生の母親1,477名。最終的に分析対象としたのは,すべての項目に回答した1,366名であった。
調査時期 2015年6月~7月。
質問紙 (1)育児感情 荒牧・無藤(2008)の「育児への否定的・肯定的感情尺度」の3つの下位尺度から合計12項目を使用した。(2)子育てにおける自己効力感 新たに4項目を作成した。(3)自尊感情 桜井(2000)の「ローゼンバーグ自尊感情尺度日本語版」の10項目を使用した。(4)ポジティブな養育行動 自己決定理論(Ryan & Deci, 2000)を参考に新たに22項目を作成した。(5)ネガティブな養育行動 三鈷(2008)の「養育スキル尺度」より8項目を抜粋・修正して使用した。(6)子育て環境 「子どもと同居している大人」および「普段家庭で子育てによく関わっている大人」について,「父」,「母」,「父方の祖父」,「父方の祖母」,「母方の祖父」,「母方の祖母」,「その他」という7つの選択肢から該当するもの全てに○をつけるよう求めた。(1)~(5)は全て4件法。質問紙は,対象児のクラス担任を通して配付・回収したが,担任は見ることができないよう配慮した。

結果と考察
子どもと同居している大人の存在が母親の育児感情・養育行動に与える影響 同居している大人の人数(1~4)を独立変数,母親の育児感情・養育行動を従属変数とする1要因分散分析を行った。その結果,同居人数が1名の家庭と比べて4名の家庭の方が「育児への束縛による負担感」が低く(F(3,1248)=3.59,p<.05),「子育てにおける自己効力感」が高かった(F(3,1248)=3.45,p<.05)。具体的に母親以外の誰と同居していることが特に影響するのかについて調べるため,t検定を行った。その結果,「育児への束縛による負担感」を軽くするのは,父方の祖母(t(1273)=2.07,p<.05)もしくは母方の祖母(t(1273)=2.31,p<.05)との同居であった。「子育てにおける自己効力感」を高めるのは,母方の祖母(t(1273)=2.05,p<.05)との同居であった。
普段家庭で子育てによく関わっている大人の存在が母親の育児感情・養育行動に与える影響 普段家庭で子育てによく関わっている大人の人数が,母親の育児感情・養育行動に与える影響について検討するため,子育てに関わっている大人の人数(1~5名以上)を独立変数,母親の育児感情・養育行動を従属変数とする1要因分散分析を行った。その結果,1人で子育てをしていると感じている母親は,2人以上の大人で子育てをしていると感じている母親と比べ,「育児への肯定感」「育児への束縛による負担感」が高いこと(F(4,1263)=5.86,p<.001;F(4,1263)=27.05,p<.001),ポジティブな養育行動である「自信育成」,「関与」,「温かさ」が少ないこと(F(4,1263)=3.76,p<.01;F(4,1263)=5.51,p<.001;(F(4,1263)=5.86,p<.001;F(4,1263)=3.45,p<.01)が明らかになった。具体的に母親以外の誰が子育てに関わっていることが特に影響するのかについて調べるため,t検定を行った。その結果,「育児への肯定感」「子育てにおける自己効力感」を高め,「育児への束縛による負担感」を低めるのに全て影響が見られたのは,父親,母方の祖父と祖母の子育て参加であった(t=2.58~7.51,p<.05)。ポジティブな養育行動である「自信育成」「関与」「温かさ」の全てにおいて有意差が見られたのは,母方の祖母の子育て参加であった(t(1266)=3.19;3.88;2.96,p<.01)。なお,ネガティブな養育行動に関しては,人数の違いで有意差は見られなかったものの,父親の関わりがスパンキングを減らし(t(1266)=2.85,p<.01),母方の祖父・祖母の関わりが感情的叱責を減らす(t(1266)=3.27;2.58,p<.05)可能性が示唆された。
 以上の結果より,ポジティブな育児感情と養育行動が生じやすいのは,実際に子育てや家事を行ってくれる父親と祖母(特に母方)の存在であることが明らかになった。今後は,家族以外のサポートの有無や種類の影響についても検討したい。 

付  記
本研究は,公益財団法人 日本教材文化研究財団の支援を受けて実施した研究の一部を再分析したものである。