[PB11] 子どもの表現プロセスにおける養育者の言葉かけ
3歳児の事例研究
Keywords:言葉かけ, 描画
目 的
本研究では家庭において子どもの描画活動を養育者がことばのやりとりでどのようにサポートしているかを検討した。山形(1988)は幼児の初期描画発達について検討し,養育者の足場造りを支えに,子どもが自力で描画活動を行う様子を示した。また,子どもが表現するプロセスにおける大人がはたす役割を検討した先行研究(片岡,2013)においても,子どもが造形的な表現を生み出す場面での母の役割は,対話を通して子どもとその場で浮上したイメージをともに作り上げるものであったと報告している。先行研究から,子どもの表現プロセスにおいて,大人の言葉は意思の疎通としてのコミュニケーションのみならず,表現を創り出す段階に大きく関わるものであることが明らかとなった。そこで本研究では養育者と子どもが行う描画場面の発話を詳細に分析して,子どもの表現を引き出す大人の発話実態や,描画のイメージが膨らむ発話の流れを明らかにする。
方 法
平成28年9月から平成29年7月の期間,3歳の男児とその父母を対象に家庭での描画活動時の観察記録を行った。定位置に設置したビデオカメラを用い描画活動時の子どもと母親,及び父親の相互交渉の発話を記録した。全26エピソード(総時間数430分)の子どもと養育者の発話を山形(1988)の幼児の初期描画発達の研究で示されたカテゴリーを用いてコード化した。
独立して機能する場面の多い発話機能5つを「描画活動における発話の主機能」と定義,また,他の発話機能と平行して機能する4つを「描画活動における発話の副次機能」と定義した。(Figure 1)子どもと母親,子どもと父親とで各発話機能の出現頻度に差があるかどうかを検討する為,一般化線形混合モデルを用いて参与者間の発話機能の違いを比較した。
結 果
「描画活動における発話の主機能」の下位カテゴリーでは,「描画行為の言語化」(Table 1)「打診」(Table 2)のモデルにおいて養育者が子どもより有意に生起率が高く,「提案」(Table 3)のモデルにおいては子どもの方が養育者より有意に生起率が高いことがわかった。描画内容の言語化,描画方法の言語化については,養育者と子どもとの有意差はみられなかった。また,「描画活動における発話の副次機能」の下位カテゴリーにおいては「評価」(Table 4)で有意に養育者が子どもより高い生起率であることがわかった。依頼については,養育者と子どもとの有意差はみられなかった。また,命名は子どもの発話にはみられたが養育者の発話にはみられず,命名要求は養育者の発話には見られたが子どもの発話にはみられなかった。
考 察
子どもは発話の中で多く「提案」と「命名」をすることで,描画活動を主導しているものと考えられる。養育者は「打診」「命名要求」の発話で,子どもの「提案」「命名」を引き出していた。また,「描画行為の言語化」「評価」で子どもの活動を肯定していた。養育者は子どもの意見を求めたり子どもが描いているものの詳細についての問いかけや細部の描写への言及を通し,子どもの活動における主体性を引き出し,「紙面に色を付ける」という感覚遊び的な行為を「描画」(i.e.,対象を模して表現する )という社会的単位を持った遊びに構成する足場づくりをしていたといえる。また子どもは,描画活動を主導する「提案」と「命名」の発話の中で,自身の日常の生活の中にある絵本や遊びや様々な活動について記憶を再生し構成を考えている様子が窺えた。子どもの表現にふれる大人の言葉は,常に活動を励まし補助する意図的なものである必要はなく,目の前の子どもの姿を受容したごく普通のコミュニケーションも重要な役割を果たしていると考える。
本研究では家庭において子どもの描画活動を養育者がことばのやりとりでどのようにサポートしているかを検討した。山形(1988)は幼児の初期描画発達について検討し,養育者の足場造りを支えに,子どもが自力で描画活動を行う様子を示した。また,子どもが表現するプロセスにおける大人がはたす役割を検討した先行研究(片岡,2013)においても,子どもが造形的な表現を生み出す場面での母の役割は,対話を通して子どもとその場で浮上したイメージをともに作り上げるものであったと報告している。先行研究から,子どもの表現プロセスにおいて,大人の言葉は意思の疎通としてのコミュニケーションのみならず,表現を創り出す段階に大きく関わるものであることが明らかとなった。そこで本研究では養育者と子どもが行う描画場面の発話を詳細に分析して,子どもの表現を引き出す大人の発話実態や,描画のイメージが膨らむ発話の流れを明らかにする。
方 法
平成28年9月から平成29年7月の期間,3歳の男児とその父母を対象に家庭での描画活動時の観察記録を行った。定位置に設置したビデオカメラを用い描画活動時の子どもと母親,及び父親の相互交渉の発話を記録した。全26エピソード(総時間数430分)の子どもと養育者の発話を山形(1988)の幼児の初期描画発達の研究で示されたカテゴリーを用いてコード化した。
独立して機能する場面の多い発話機能5つを「描画活動における発話の主機能」と定義,また,他の発話機能と平行して機能する4つを「描画活動における発話の副次機能」と定義した。(Figure 1)子どもと母親,子どもと父親とで各発話機能の出現頻度に差があるかどうかを検討する為,一般化線形混合モデルを用いて参与者間の発話機能の違いを比較した。
結 果
「描画活動における発話の主機能」の下位カテゴリーでは,「描画行為の言語化」(Table 1)「打診」(Table 2)のモデルにおいて養育者が子どもより有意に生起率が高く,「提案」(Table 3)のモデルにおいては子どもの方が養育者より有意に生起率が高いことがわかった。描画内容の言語化,描画方法の言語化については,養育者と子どもとの有意差はみられなかった。また,「描画活動における発話の副次機能」の下位カテゴリーにおいては「評価」(Table 4)で有意に養育者が子どもより高い生起率であることがわかった。依頼については,養育者と子どもとの有意差はみられなかった。また,命名は子どもの発話にはみられたが養育者の発話にはみられず,命名要求は養育者の発話には見られたが子どもの発話にはみられなかった。
考 察
子どもは発話の中で多く「提案」と「命名」をすることで,描画活動を主導しているものと考えられる。養育者は「打診」「命名要求」の発話で,子どもの「提案」「命名」を引き出していた。また,「描画行為の言語化」「評価」で子どもの活動を肯定していた。養育者は子どもの意見を求めたり子どもが描いているものの詳細についての問いかけや細部の描写への言及を通し,子どもの活動における主体性を引き出し,「紙面に色を付ける」という感覚遊び的な行為を「描画」(i.e.,対象を模して表現する )という社会的単位を持った遊びに構成する足場づくりをしていたといえる。また子どもは,描画活動を主導する「提案」と「命名」の発話の中で,自身の日常の生活の中にある絵本や遊びや様々な活動について記憶を再生し構成を考えている様子が窺えた。子どもの表現にふれる大人の言葉は,常に活動を励まし補助する意図的なものである必要はなく,目の前の子どもの姿を受容したごく普通のコミュニケーションも重要な役割を果たしていると考える。