The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB19] 生徒の記述する力を育成する試み

ブレークスルーの瞬間を文字で表現する取組を通して

荒尾真一1, 山本卓也2, 西山久子3 (1.岡山大学, 2.倉敷市立新田中学校, 3.福岡教育大学)

Keywords:読解力, 自由記述, PISA

課題と目的
 近年,デジタルメディアの普及により,活字離れが問題になっている(メディア接触時間分析2012)。また,PISA(2015)の解答形式の中で特に無答率が高いのは自由記述と分析されている。
 学校現場においても,活字の文章を読むことに苦手意識をもっている生徒が多く見られ,テスト等では同様に自由記述の無答率の割合が高く,記述していても的確さを欠いている場合が見られる。よって,テスト問題は,選択肢や短答式になる傾向があり,それが上記の課題と関連しているとも考えられる。さらに,テストでは課題に答えるために既習事項を適用して文章を構成する必要があることもハードルを上げているのではないかとも思われる。
 そこで,日常生活を素材にして既習事項を直接活用しなくても取り組め,かつ情報を取り出し易い問題文を提示し回答(解答ではない)させる。また,生徒の実態に合わせて徐々にハードルを上げ継続的に取り組ませることにより上記の課題の解決を図ろうと考えた。

研究の方法
(1) 対象及び期間
 公立中学校1年194名,2年243名,3年219名にH29年11月8日から年度末まで,行事がない水曜日の朝学習(8~10分)に計14回実施した。
(2) 具体的な教育操作
 既習事項をできるだけ必要とせず中学1年生の生活体験程度で読み取れる文章を提示し,数問に回答(選択肢,短答式)させ,主にブレークスルーした瞬間を自由記述させる方法を基本形として問題作成をした。
内容は,①説明文から内部構造を問うもの,②あえて物体や行為を分かりにくく説明してその示す事柄を問うもの,③新聞記事から見出しを問うもの,④初めて見る難解な内容から読み取れるか問うもの,⑤2つの文章が矛盾するかどうか問うもの,⑥図表から内容を読み取るもの⑦常識を破る回答を求めるものを採用した。すべてオリジナルである。毎回の生徒の状況を見ながら適度なハードル設定して次の問題を作成した。問題文の文字数は300字程度から開始して順次1000字程度まで増やした。
(3) 調査及び評価
情意的側面(生徒)
 事前調査:4件法で読解に関する30項目
 事後調査:4件法で上記30項目と,この取
組に関する31項目
認知的側面(今回は第4回と第9回を抽出)
 4,9回は新聞記事から見出しを選択肢から選びなぜそれにしたか自由記述でアピールする形式で,無回答,最適解を選ぶ割合,自由記述の内容で比較した。4と9回の間に⑥④⑤②の問題を実施した。

結果と考察(現在2年生のみ分析)
情意面:事前,事後調査で,読解に関する質問事項はほぼ変化は見られなかった。しかし,この取組自体については,13項目中11項目が肯定的にとらえている。
認知面:4回目の時点で自由記述が無答だった生徒22名の内9回目では15名が記述し平均文字数25字(ただし最適解は3名)になった。逆に4回目の時点で記述していた8名が9回目では無答であった。記述の内容が選択肢を選ぶ根拠と文章の内容を踏まえていると思われるものは4回目が96名,9回目が126名で,また,回答の文字数について,特に50字以下だった生徒数が減少し文字数の多い部分にシフトしている(Figure)
 以上により,この取り組みは,特に自由記述が苦手な生徒にとって効果があることが示唆された。ただし,ブレークスルーしたときの自分の気持ちを記述することについてであり,それ以外の形式については①~⑦の自由記述の設問を変えて今後実践していく予定にしている。