The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB20] 根拠産出トレーニングの効果に関する検討(3)

立場選択の保留はマイサイドバイアスを低減するか

西森章子1, 三宮真智子2 (1.広島修道大学, 2.大阪大学大学院)

Keywords:根拠産出トレーニング, マイサイドバイアス, 大学生

問題と目的
 賛成する主張の根拠(賛成根拠)を考える力に加えて,反対の主張の根拠(反対根拠)を考える力を育てることは,自分の意見を客観的に内省するためにも重要である。しかし,児童から大学生までの幅広い年代において,賛成論の産出に比べ,反対論の産出が困難な傾向(マイサイドバイアス)が確認されている。これまで著者らは,意見生成前の学習課題として「根拠産出トレーニング(以下,トレーニング)」を開発し,効果を検討してきた。このトレーニングは,たとえば「消費税は20%に上げるべきだ」など,反発を招きやすい主張が呈示された場合でも,自己の主張を保留した状態で,根拠を考えるといった特徴を持つ。これまで,トレーニングを経験することで,産出される賛成根拠と反対根拠の増加等が確認されているが,この「主張を保留する」経験が,マイサイドバイアスの低減につながるのかどうかは明らかでない。 
 本稿では,「自己の主張」に即して根拠を考える群(自己立場群)を対照群として設定し,マイサイドバイアス指数(Toplak & Stanovich 2003;小野田2015)を手がかりに,トレーニングがマイサイドバイアスの低減に寄与するのかどうかを検討する。

方  法
対象者 中国地方の私立大学1年生のうち,実験群として29名(男性15名,女性14名),対照群として34名(男性23名,女性11名)が,無作為に割り当てられた。
手続き 2018年1月上旬に,授業内の時間を利用して,第一著者により集団で実施された。
課題の構成 実験は,ワークブックに従って進められた。ワークブックは(1)組み立てメモ課題(事前),(2)フェースシート,(3)練習問題(1問),(4)トレーニング問題(トピックの異なる5問。問題例:「消費税は20%に上げるべきだ」という主張があります。この主張についてできるだけいろいろな根拠を考えてください。),(5)組み立てメモ課題(事後),から構成された。
 このとき(4)のトレーニング問題では,実験群と対照群で教示が異なっていた。具体的には,実験群は「「あなたの主張」をいったん切り離して,どのような根拠があるか,考えてください。」(保留立場)と強調して教示され,対照群は「「あなたの主張」に基づいて,どのような根拠があるか考えてください」(自己立場)と強調して教示された。

結  果
 「組み立てメモ課題」の事前・事後で産出された賛成根拠数,反対根拠数,マイサイドバイアス指数(MB指数,[賛成根拠数−反対根拠数]の差分)の平均値をTable 1に示す。
 まず,群ごとで,賛成根拠数と反対根拠数について対応のある t検定を行ったところ,両群で,賛成根拠数の増加(実験群:t(28)=-4.46 p<.01,対照群:t(33)=-4.55, p<.01) が確認された。反対根拠数については,実験群で増加が確認された(t (28)=-2.34, p<.05)が,対照群では増加は確認されなかった(t (33)=-1.67, n.s.)。
 次に,根拠を考えるときの立場設定とマイサイドバイアスの関連を検討するため,事後問題のMB指数を従属変数,事前問題のMB指数を統制変数(共変量)として,立場設定(保留立場/自己立場)を要因とする共分散分析を行ったところ,群(立場設定)の効果は,有意傾向であった(F (1,60)= 3.55, p<.10, ηp2=.06)。
考  察
 分析の結果,自己の主張を保留した状態で根拠を繰り返し考えることは,賛成根拠だけでなく,反対根拠についても考える力につながることが示された。一方で,自己の主張に基づいて根拠を考えることは,賛成根拠の産出には効果があるが,反対根拠の産出には影響しないことが示された。また,立場を保留した状態で,根拠を考えることは,マイサイドバイアスの低減につながる可能性が示された。これに関連して,「立場を決める」行為自体が,反論の産出を抑制する可能性が指摘されている(小野田 2015)。今後は,この傾向が一貫するのかどうか,対象者の範囲を拡大しながら,トレーニングの効果を検討する必要がある。