[PB28] 教育実習生と実習指導教員の授業認知の比較
教師の待ちや時間感覚に着目して
Keywords:授業認知, 待ち
問題と目的
本研究では,教育実習生と実習生の指導教員の授業認知に焦点をあて,お互いの授業を参観した際にどのような点に着目しているか,特に授業の中での「時間」に焦点を当てて分析を行う。
授業の中での時間に焦点を当てるのには,大きく2つの理由がある。1つは,授業の中ではあらゆる側面で時間という要素が関わってくるからである。授業時間数は「1単位時間」を基本単位として,1単位時間においてどう授業を構成するかに基づいて教科書は作成され,その一方,授業者には45分で収めることが求められている。
もう1つは,時間が重要な要素であるとともに,時間よりも優先することが生じる場合があるからである。例えば,45分で授業を打ち切ることよりも,時間が延びても子どもに思考させる時間や,授業を振り返る時間を確保した方が,子どもの学びにとって重要だと考えられ,優先されることがある,といったことである。いずれにしても,授業の設計・実施・評価において,時間という要素は非常に重要なものである。
また,授業における時間に関わって,テンポやリズムといったことも授業の展開を表現する要素となる。どのようなテンポやリズムで授業を進めていくかが,その授業における子どもの学びにも影響を及ぼすことが考えられる。
授業のこのような側面に焦点を当てた研究としては,澤邉・野嶋(2010)の研究がある。澤邉らは,教師の発問と子どもの反応に対する待ち時間を分析し,2つの学級間の比較において,待ち時間の長さに違いがあることを明らかにした。そして,その待ち時間が,子どもの挙手行動を規定していることを示している。
また浅田(2002)は,発問後の待ち時間を新任教師と経験教師で比較している。待ち時間の平均値は新任教師の方が長くなったが,新任教師の最頻値は0であることを挙げ,新任教師が子どもからの反応を取り上げることに終始してしまい,子どもの考えを取り上げることができていないことを指摘した。
これらの研究から,教師が時間を取ったり,子どもからの反応を待ったりすることは,教師が授業を行う上での実践知としての側面を持つと考えられる。学生が教師の実践知を学ぶ教育実習の場面においても,授業の展開の仕方の一環として,待ち時間のとりかたやテンポやリズムなどを,学び取っていると考えられる。
そこで本研究では,教育実習生と実習指導教員がお互いに授業参観する中で,どのような認識を持ったかに着目し,その違いを明らかにすることを目的とする。
方 法
対象
X大学附属Y小学校における教育実習における,実習生と実習指導教員の相互の授業認知。
研究協力者
1) 教育実習生(2年次,国語科専攻,男性)
2) 教育実習生の指導教員であるY小学校の教諭(教職経験年数22年,女性)
指導教員の担任している6年生の学級で実施。
手続き
教育実習期間中に,教育実習生と実習指導教員がお互いの授業を参観し,参観後,授業における時間に関わる事柄について,気付いたことを自由に話していただく形でインタビューを実施。インタビューを行う際には,刺激材料として「主観カメラ」の映像を使用した。主観カメラの映像は,授業観察者自身の主観的視点から撮影したもので,固定カメラやICレコーダより,授業の際の思考により迫ることができると考えた。
結果と考察
実習生と指導教員の発言を,意味のまとまりのある文により区切り,授業のテンポやリズム,あるいは子どもの反応等を待機する行為についての発言を取り上げ,両者の認知にどのような違いがあるかを分析した。
実習生が行った授業についての両者の発言を比較すると,板書を子どもに書き写させる場面では,実習生は「しゃべらない時間とかっていう時間も大切なんだなあっていうふうに思って,(略)やってみてよかった」とする一方,指導教員は「子どもが待っている感じ」と指摘し,異なる評価をしている。同様の他の場面では,個々の子どもの進度に配慮して時間を決めるのは良くないと実習生が判断する一方,実習指導教員は「そこでもっとスピードアップするといいのに」と評価しているなど,多くの場面で異なる認知,評価をしていることが明らかになった。
付 記
本研究はJSPS科研費16K01102及び16H03071の支援を受けたものです
本研究では,教育実習生と実習生の指導教員の授業認知に焦点をあて,お互いの授業を参観した際にどのような点に着目しているか,特に授業の中での「時間」に焦点を当てて分析を行う。
授業の中での時間に焦点を当てるのには,大きく2つの理由がある。1つは,授業の中ではあらゆる側面で時間という要素が関わってくるからである。授業時間数は「1単位時間」を基本単位として,1単位時間においてどう授業を構成するかに基づいて教科書は作成され,その一方,授業者には45分で収めることが求められている。
もう1つは,時間が重要な要素であるとともに,時間よりも優先することが生じる場合があるからである。例えば,45分で授業を打ち切ることよりも,時間が延びても子どもに思考させる時間や,授業を振り返る時間を確保した方が,子どもの学びにとって重要だと考えられ,優先されることがある,といったことである。いずれにしても,授業の設計・実施・評価において,時間という要素は非常に重要なものである。
また,授業における時間に関わって,テンポやリズムといったことも授業の展開を表現する要素となる。どのようなテンポやリズムで授業を進めていくかが,その授業における子どもの学びにも影響を及ぼすことが考えられる。
授業のこのような側面に焦点を当てた研究としては,澤邉・野嶋(2010)の研究がある。澤邉らは,教師の発問と子どもの反応に対する待ち時間を分析し,2つの学級間の比較において,待ち時間の長さに違いがあることを明らかにした。そして,その待ち時間が,子どもの挙手行動を規定していることを示している。
また浅田(2002)は,発問後の待ち時間を新任教師と経験教師で比較している。待ち時間の平均値は新任教師の方が長くなったが,新任教師の最頻値は0であることを挙げ,新任教師が子どもからの反応を取り上げることに終始してしまい,子どもの考えを取り上げることができていないことを指摘した。
これらの研究から,教師が時間を取ったり,子どもからの反応を待ったりすることは,教師が授業を行う上での実践知としての側面を持つと考えられる。学生が教師の実践知を学ぶ教育実習の場面においても,授業の展開の仕方の一環として,待ち時間のとりかたやテンポやリズムなどを,学び取っていると考えられる。
そこで本研究では,教育実習生と実習指導教員がお互いに授業参観する中で,どのような認識を持ったかに着目し,その違いを明らかにすることを目的とする。
方 法
対象
X大学附属Y小学校における教育実習における,実習生と実習指導教員の相互の授業認知。
研究協力者
1) 教育実習生(2年次,国語科専攻,男性)
2) 教育実習生の指導教員であるY小学校の教諭(教職経験年数22年,女性)
指導教員の担任している6年生の学級で実施。
手続き
教育実習期間中に,教育実習生と実習指導教員がお互いの授業を参観し,参観後,授業における時間に関わる事柄について,気付いたことを自由に話していただく形でインタビューを実施。インタビューを行う際には,刺激材料として「主観カメラ」の映像を使用した。主観カメラの映像は,授業観察者自身の主観的視点から撮影したもので,固定カメラやICレコーダより,授業の際の思考により迫ることができると考えた。
結果と考察
実習生と指導教員の発言を,意味のまとまりのある文により区切り,授業のテンポやリズム,あるいは子どもの反応等を待機する行為についての発言を取り上げ,両者の認知にどのような違いがあるかを分析した。
実習生が行った授業についての両者の発言を比較すると,板書を子どもに書き写させる場面では,実習生は「しゃべらない時間とかっていう時間も大切なんだなあっていうふうに思って,(略)やってみてよかった」とする一方,指導教員は「子どもが待っている感じ」と指摘し,異なる評価をしている。同様の他の場面では,個々の子どもの進度に配慮して時間を決めるのは良くないと実習生が判断する一方,実習指導教員は「そこでもっとスピードアップするといいのに」と評価しているなど,多くの場面で異なる認知,評価をしていることが明らかになった。
付 記
本研究はJSPS科研費16K01102及び16H03071の支援を受けたものです