The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB34] 教員養成における性教育指導の学習効果

ラーニングバイティーチング形式による理解度の変化に着目して

郡司菜津美 (国士舘大学)

Keywords:主体的・対話的学び, 性教育, 教員養成

問題と目的
 現在,大学の教員養成の段階で,どの教員にとっても必須である性教育指導に関する必修カリキュラムは組まれておらず,教員志望の学生らが性教育に関する指導スキルを十分に身につけていないまま現場に出て行くことが課題となっている(天野ら,2001:西田ら,2005:児島,2015:長田ら,2016)。つまり,性教育の「指導方法がわからない(佐光ら,2014)」まま教壇に立つ教員を養成し続けていることになる。そこで,本研究では,教員志望の学生が,性教育の適切な指導スキルを身につけられるプログラムを開発することを目指し,学生が模擬授業を行うラーニングバイティーティング形式による性教育指導に関する主体的対話的学びの講義を実施し,その学習効果を検討することを目的とした。

方  法
 2017年7月,首都圏A私立大学の教員免許取得必修科目「生徒指導論」において,受講者84名(男子67名,女子17名)を対象に,「性に関する正しい知識を指導できるようになろう」という課題を与え,ラーニングバイティーチング形式の講義を実施した。具体的には,筆者が高等学校での性教育講演で用いるPPT資料を配布し(内容は①第2次性徴&デートDV,②妊娠と中絶,③性感染症,④性的マイノリティ),4つのグループで構成された1チーム内で内容を分担し,それぞれの資料を元に指導略案を作成,その場で互いに模擬授業を実施させた。授業の学習効果を明らかにするため,授業の前後に性に関する知識(上記①~④に関するもの)を問う質問紙調査(回答は記述式13問と選択式6問の全19問)を実施し,質問内容の回答がわからない場合には「わからない」と記述すること,あるいはその項目を選択するように教示した。それぞれの質問内容に対して①適切に理解していると判断できる回答をした人数,②わからないと回答をした人数,③①における性差について,それぞれ授業前後及び性差に有意な差があるかどうかを,①と②についてはt検定(対応のある),③についてはχ2検定を用いて検討した。

結  果
1. 適切に理解していると判断された回答数
 全19問の性に関する知識を問う項目について,84名の回答を集計した結果,適切に理解していると判断される回答をした人数の平均値は,授業前が1問あたり38.95人,授業後は59.47人であり,授業の前後で適切に理解している回答を記入した人数に有意な差があることが示された(t=6.109, df=18, p<.001)。各質問項目について,最も理解度に変化があったのは,「避妊の確率が高い順序の並び替え」「同性愛者の方が異性愛者よりも性感染症(HIV)に罹患しやすいこと」の2項目であり,授業前の正答率がそれぞれ1.19%,27.38%であったのに対して,授業後は44.05%,63.10%と増加した。
2.わからないと表記された回答数
 1.と同様に集計した結果,授業前は1問あたり24.74人であったのに対して,授業後は5.95人であり,授業の前後でわからないと表記した人数に有意な差があることが示された(t=6.909, df=18, p<.001)。
3.理解度における性差について
 全19問について,適切に理解していると判断された回答を記入した人数について,性差があるかどうかを授業前後で比較した結果,全ての問題において有意な差がみられなかった。

考  察
 本研究では,性に関する内容を検討・模擬授業させるラーニングバイティーチング形式による講義を実施した。その結果,授業前後で性に関する問いに適切に回答できる学生数が増加し,「わからない」と回答する学生数が減少した。これらは,⑴仲間に教授すること (Teaching),⑵仲間の教授を受けること(Learning through Peer Teaching)の効果であることが推測される。指導案を検討し,模擬授業を実施するという授業デザインによって,学生らが主体的・対話的に学んだと考えられる。また,全ての項目について,回答数に性差が見られなかったことから,互いの性別に関係なく,対話的に学習する機会であったことが推測できる。
 本研究での実践は,講義内での学習を目的としたものではなく,教育実習や,教員になった際に現場で活かされるために行ったものである。従って,本実践で得られたことが,学生らの未来の教育実践にどのように活かされて行くのか,そのことを引き続き検討していくことが重要である。

付  記
本研究はJSPS科研費 17K18104の助成を受けたものです。