The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB36] 合唱指導における心理学的アプローチの効果

金子典子1, 金子幾之輔2 (1.豊田市立挙母小学校, 2.大正大学)

Keywords:合唱指導, χ2検定, 動機づけ

目  的
 小中音楽大会のようなイベントは,児童ひとり一人のアイディアと能力を発揮させ,「感謝の気持ち」や「コミュニケーション・スキル」及び「結束力」も高めていくと思われる。確かに当該イベントは経験知として成果を上げているようであるが,その実証性については明らかにされていると言い難い。そこで,本研究では児童の合唱指導において,一連の心理学的アプローチを試み,その効果を検証することを目的とした。

方  法
調査対象者 A小学校4年生 99名   
調査時期  2017年4月~12月
調査手続き 小学校の音楽室で以下のような合唱指導前(第1回~第2回),指導中(第3回~第4回),指導後(第5回~第7回)において,無記名による自由記述式の質問紙調査を行った。
分析方法  7回に亘る質問紙調査で記述された回答について,研究者2名で協議しながら回ごとに肯定的見解と否定的見解の2要因に分類し,7回の回答結果とクロス集計した。そして,(2 × 7)表のχ2検定を行った。

結  果
 Table 1の集計表に基づきχ2検定を実施した結果,項目数の偏りは有意であった(χ2(6)=447.87, p<.01)。そこで,残差分析を行った結果,Table 2にみられるように,第3回目以降(第4回除外)から合唱に対する肯定的見解が増加していることが分かった。

考  察
第1回 合唱の好き嫌いについての児童の回答は,イベントで歌う合唱体験が少なかったことから,肯定感と否定感との間に有意差が出なかったと思われる。
第2回 第1回目と同じく小中音楽大会で合唱することの児童の回答は肯定感と否定感の間で有意差が見出されなかった。これは,小中音楽大会のイメージができていない児童が多かったことによるものであろう。
第3回 当該児童が合唱する予定のCDを聴いた直後における回答は,合唱に対する肯定感が否定感を上回る傾向(.05<p<.10)が見出された。この結果は,CDによる合唱鑑賞,教師の合唱に関する教示など(外発的動機づけ)よって,合唱に対する意欲向上(内発的動機づけ)した児童が増加してきたことによるものであろう。
第4回 児童に合唱練習の様子を撮影したVTRを観察させることによって,当該児童が自分自身を客観視する場面を設けた。その回答結果は,自分や友人の様子に厳しい見方をするなどの否定感を抱く当該児童が有意に多かった(p<.01)。これは,教師の求める合唱水準に到達していない児童自身の気づき(自己洞察)の結果を反映したものといえ,修正する必要があるとの自覚を促進させた修正フィードバックの効果と考えられる。なぜならば,その後の合唱練習によって,水準が相当に上昇し,実際に,本番で好結果が得られたからである。
第5回 本番で好結果が得られたこともあって,本番直後の回答結果は,第4回目の結果とは逆に合唱に対する肯定感が否定感を有意に上回った(p<.01)。
第6回 前述の音楽大会で児童が合唱した様子を撮影したDVDを見ての当該児童の回答結果は,第5回目と同様に肯定感が否定感よりも有意に多かった(p<.05)。しかし,聴いていたお客様に感動を抱かせるようなメッセージを伝えられたか否かなどの高度な水準で評価している児童が少なくなかった。これらは,合唱練習の中で培われた「伝え合う」と「結束力」というA小学校の目標が,この場でも反映した結果ともいえよう。
第7回 音楽大会2か月後の児童の回答結果も,合唱に対する肯定感が否定感を有意に上回っており(p<.01),合唱に対する肯定感が持続されていることが分かった(フォローアップ)。そして,音楽大会における合唱の成功のために激励や協力していただいた友人や家族への「感謝の気持ち」,「コミュニケーション・スキル」「結束力」の高まりなどについての肯定的意見が多かった。

結  論
 本研究では,A小学校4年生の児童99名を対象にして,7回からなる合唱指導に一連の心理学的アプローチを導入し,その効果検証を試みた。その結果、児童の合唱に対する肯定的見解の増加が検証された。今後は,その効果について本研究のような量的検証のみならず,質的内容の検証も具体的に行う必要があろう。