[PB44] 若年就労者の職場適応を規定する在学中の要因(2)
就職決定後の情緒的SPが就職に関する不安及び入職後の希望に及ぼす影響
Keywords:ソーシャル・サポート, 職場適応, 女子大学生
問 題
藤井(1999)は,就職不安を「職業決定および就職活動段階において生じる心配や戸惑い,ならびに就職活動後における将来に対する否定的な見通しや絶望感」と定義している。そして,就職不安を長期間感じ続けることは,心身にさまざまな悪影響を及ぼす可能性を指摘している。就職の決定は喜びや安心をもたらす一方で,自分の決定に関する迷いや新しい職場で適応する自信のなさなど,様々な不安を生じさせる。そのため,就職後に実現したい願望を明確にし,意欲的に就職先で働くという意識が生まれにくいと考える。片受(2016)は,ソーシャル・サポートが大学生の不安を低減させることを示唆している。これまで友人(同性/異性)や親しい先輩からの就職関連情報を利用し,大学の先生や就職課からの就職関連情報を重視する(下村・木村,1994)といった研究や,職業選択に影響する自己効力感を高めるために,男性は親からのサポート,女性は友人からのサポートが有効である(松田・前田,2007)といった研究はあるが,就職決定後の不安は十分に検討されていないという(石本・逸身・齋藤,2017)。そこで,本研究は,誰から受ける情緒的サポート(以下,SP)が就職決定後の不安を低減させ,入職後の希望を高めるのかというプロセスについて検討する。
方 法
調査対象者 埼玉県内の私立女子大学4年生81名。平均年齢21.9歳(SD=0.8)。2017年1月下旬に集団実施。 *欠損値が多い1名を分析対象外
質問項目 1)SP源:「実際の就職を間近に控えた現在,あなたが抱える就職に向けての悩みに共感を示し,あなたを支え励ましてくれる人」を尋ね,友人,親しい異性,先輩,家族,先生,就職課,社会人という関係性ごとに人数を回答。2)就職に関する不安尺度:石本・逸身・齋藤(2010)及び松田・永作・新井(2008)を基にした30項目を4件法で測定。3)入職後の願望尺度:中西・三川(1988)が翻訳したSuper & Nevill(1986)のVS尺度(Cultural Identityを除く)の項目例を参考に,入職後に実現したい願望を尋ねる項目を自ら作成。26項目,5件法で測定。
結果と考察
就職に関する不安尺度及び入職後の願望尺度について因子分析を実施した(最尤法プロマックス回転)。どちらも6因子構造となった。信頼性も概ね良好であった(下位因子は図1参照。詳細は当日のポスターで示す)。
情緒的SPの種類が,就職に関する不安,入職後の希望に及ぼす影響を検討するため,最尤法による構造方程式モデリング(SEM)による分析を実施した。想定される逐次モデルの中で最も適合度の高いモデルを採用した(図1)。適合度指標は,χ2(111)=122.139,p=.221,GFI=.866,CFI=.973,RMSEA=.036であった。
その結果,以下のことが示された。第1に友人割合が高くなるほど,能力・適正に関する不安が低減し,結果的に異性との出会い願望も減る。また,友人割合が高くなるほど,承認・評価の願望は下がる。第2に親しい異性割合が高くなるほど,人間関係の不安が低減し,信頼獲得の願望は下がるが,自分らしさの願望はあがる。また社会人としての不安も低減し,承認評価への願望は低くなる。さらに,親しい異性割合が高くなるほど,承認評価への願望や自分らしさへの願望は高くなる。第3に,先輩割合はSP人数が多くなるほど高くなり,先輩割合が高くなるほど,能力適正に関する不安があがり,結果として,異性との出会いへの願望があがる。第4に,家族割合はSP人数が多くなるほど減り,家族割合が減るほど,収入への不安が低くなる。第5に,先生割合が高くなるほど,進路決定に関する不安が下がり,信頼獲得への願望は下がるが,自分らしさへの願望はあがる。また,先生割合が高くなるほど,収入への不安や配属への不安が下がる。第6に,就職課割合が高くなるほど,経済的余裕の願望が高くなる。最後に,SP人数が多くなるほど,自分らしさへの願望があがる。
以上より,先述した就職活動中の先行研究と比較すると,家族や就職課のSPの影響力が下がり,親しい異性や先生のSPの影響力が強いことが示された。つまり,就職活動の時期によって,SP源の影響力が変遷していく可能性がある。
付 記
本研究は,H29年度十文字学園女子大学のプロジェクト研究費の助成を受けて実施された
藤井(1999)は,就職不安を「職業決定および就職活動段階において生じる心配や戸惑い,ならびに就職活動後における将来に対する否定的な見通しや絶望感」と定義している。そして,就職不安を長期間感じ続けることは,心身にさまざまな悪影響を及ぼす可能性を指摘している。就職の決定は喜びや安心をもたらす一方で,自分の決定に関する迷いや新しい職場で適応する自信のなさなど,様々な不安を生じさせる。そのため,就職後に実現したい願望を明確にし,意欲的に就職先で働くという意識が生まれにくいと考える。片受(2016)は,ソーシャル・サポートが大学生の不安を低減させることを示唆している。これまで友人(同性/異性)や親しい先輩からの就職関連情報を利用し,大学の先生や就職課からの就職関連情報を重視する(下村・木村,1994)といった研究や,職業選択に影響する自己効力感を高めるために,男性は親からのサポート,女性は友人からのサポートが有効である(松田・前田,2007)といった研究はあるが,就職決定後の不安は十分に検討されていないという(石本・逸身・齋藤,2017)。そこで,本研究は,誰から受ける情緒的サポート(以下,SP)が就職決定後の不安を低減させ,入職後の希望を高めるのかというプロセスについて検討する。
方 法
調査対象者 埼玉県内の私立女子大学4年生81名。平均年齢21.9歳(SD=0.8)。2017年1月下旬に集団実施。 *欠損値が多い1名を分析対象外
質問項目 1)SP源:「実際の就職を間近に控えた現在,あなたが抱える就職に向けての悩みに共感を示し,あなたを支え励ましてくれる人」を尋ね,友人,親しい異性,先輩,家族,先生,就職課,社会人という関係性ごとに人数を回答。2)就職に関する不安尺度:石本・逸身・齋藤(2010)及び松田・永作・新井(2008)を基にした30項目を4件法で測定。3)入職後の願望尺度:中西・三川(1988)が翻訳したSuper & Nevill(1986)のVS尺度(Cultural Identityを除く)の項目例を参考に,入職後に実現したい願望を尋ねる項目を自ら作成。26項目,5件法で測定。
結果と考察
就職に関する不安尺度及び入職後の願望尺度について因子分析を実施した(最尤法プロマックス回転)。どちらも6因子構造となった。信頼性も概ね良好であった(下位因子は図1参照。詳細は当日のポスターで示す)。
情緒的SPの種類が,就職に関する不安,入職後の希望に及ぼす影響を検討するため,最尤法による構造方程式モデリング(SEM)による分析を実施した。想定される逐次モデルの中で最も適合度の高いモデルを採用した(図1)。適合度指標は,χ2(111)=122.139,p=.221,GFI=.866,CFI=.973,RMSEA=.036であった。
その結果,以下のことが示された。第1に友人割合が高くなるほど,能力・適正に関する不安が低減し,結果的に異性との出会い願望も減る。また,友人割合が高くなるほど,承認・評価の願望は下がる。第2に親しい異性割合が高くなるほど,人間関係の不安が低減し,信頼獲得の願望は下がるが,自分らしさの願望はあがる。また社会人としての不安も低減し,承認評価への願望は低くなる。さらに,親しい異性割合が高くなるほど,承認評価への願望や自分らしさへの願望は高くなる。第3に,先輩割合はSP人数が多くなるほど高くなり,先輩割合が高くなるほど,能力適正に関する不安があがり,結果として,異性との出会いへの願望があがる。第4に,家族割合はSP人数が多くなるほど減り,家族割合が減るほど,収入への不安が低くなる。第5に,先生割合が高くなるほど,進路決定に関する不安が下がり,信頼獲得への願望は下がるが,自分らしさへの願望はあがる。また,先生割合が高くなるほど,収入への不安や配属への不安が下がる。第6に,就職課割合が高くなるほど,経済的余裕の願望が高くなる。最後に,SP人数が多くなるほど,自分らしさへの願望があがる。
以上より,先述した就職活動中の先行研究と比較すると,家族や就職課のSPの影響力が下がり,親しい異性や先生のSPの影響力が強いことが示された。つまり,就職活動の時期によって,SP源の影響力が変遷していく可能性がある。
付 記
本研究は,H29年度十文字学園女子大学のプロジェクト研究費の助成を受けて実施された