The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB60] 音楽専攻学生の大学進学理由の経年変化について

佐藤典子 (武蔵野音楽大学)

Keywords:進学理由, 経年変化

 大学で音楽を専攻している学生を対象とした進学に関わる調査研究は少なく,音楽専攻の大学生を対象に進学理由や大学における適応について佐藤(2001,2005)が行った調査等を除いて,この領域の情報は十分にあるとは言えない。国内の進学に関する状況の変化の中で,このような音楽を専攻する学生の進学意識に何らかの変化が生じているのかについての情報は更に少ない。本研究では,佐藤(2005)でも取り上げられた進学理由に関する3因子について,経年変化の有無を調べる。

方  法
調査状況と回答者
 過去の調査データの一部を,今回の分析で使用した。まず,1999年および2000年に行われた調査の回答者(音楽を専攻する大学1,2年生)のうち,データの重複を避けるために2年生女子のみのデータを使用した。2009年および2010年に行った調査の回答者(音楽を専攻する大学2年生)については,女子のみのデータを使用した。
 2017年9月に音楽を専攻する大学1,2年生を対象に追加調査を行ったが,今回使用するデータはそのうち1,2年生女子のみのデータを使用した。
 今回の分析に,女子学生のデータのみを使用したのは,音楽を専攻する学生の中で女子学生の占める割合が大きく,量的分析を行う際には,まず女子学生データの分析を行うことが妥当と考えられたからである。
 過去の調査および2017年に新たに行った調査は全て無記名で行い,回答依頼をする際に,回答しない場合や途中で辞めた場合に本人に不利益が生じることがないことを説明した。
 今回の分析には,分析に使用する項目に欠損値の無い回答者のデータを使用したため,1999-2000年は560名,2009-2010年は132名,2017年は64名となった。
分析使用項目の内容
 進学理由に関する回答項目の中から,1999年および2000年の調査データ(2年生女子)を元に因子分析を行い,音楽の能力の高さの自認に関する「能力活用」(3項目),自己と音楽との一体感に関わる「音楽的同一性」(4項目),将来のキャリア等に役立つ知識技能の修得に関わる「将来展望」(3項目)の3つの積極的な進学理由の因子が確認されており,佐藤(2005)で報告されている。
分析方法
 今回は,この3つの尺度の得点として,該当項目の平均値を使用する。この尺度得点について,1999-2000年,2009-2010年,2017年の3つの時期で経年変化が生じているかを確認するために,尺度ごとに一元配置分散分析(3水準)を行った。

結果と考察
 3つの因子の尺度得点の平均値と標準偏差はTable1の通りである。
 分散分析の結果から,「能力活用」のみ有意差が見られた(F(2,753)=6.125, p<.01)。他の因子について有意差は無かった。「音楽的同一性」(F(2,753)=0.103,n.s.)。「将来展望」(F(2,753)=0.053,n.s.)。
 「音楽的同一性」および「将来展望」については,3つの時期で平均値がほとんど変化せず,音楽を専攻する学生の進学理由として安定した傾向を示していることが確認された。
 「能力活用」については,多重比較を行った結果,1999-2000年の得点が,2009-2010年および2017年の得点より高いことが示された。ただし,分散分析の効果量についての指標である偏イータ2乗の値が0.016であることから,小さい効果が認められる(平均値差は小さい)と解釈できる。
 若干の変化はあるにせよ,全体として音楽専攻の学生が大学に進学する理由については昨今の社会情勢の変化の影響をそれほど受けない安定したものであることが示されたと言えるだろう。

引用文献
佐藤 典子 2001 音楽大学への進学理由の認知と進学後の適応について, 教育心理学研究, 49(2), p.175-185.
佐藤 典子 2005 音楽大学への進学理由と進学後の適応に影響を与える諸要因の検討, 教育心理学研究, 53 (1), p.49-61.