The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB64] 縦断データからみた役割取得能力と学校適応の関係

本間優子 (新潟青陵大学)

Keywords:役割取得能力, 学校適応, 縦断研究

目  的
 安藤・新堂 (2013) は,家庭裁判所に在宅事件として送致された非行少年 (平均年齢17.45歳)の社会的視点取得能力は47.4%が段階0および1の発達段階に位置していることを示した。一般青年では段階0,1の出現率は共に0%であることから (石川・内山, 2002),非行少年の約半数は,年齢に比して低次の発達段階に留まっていると言える。本間・内山(2017)は,児童期後期における役割取得能力が学校適応に影響を及ぼすプロセスを示した。これらの結果から,役割取得能力が年齢に応じて発達していないと,学校適応も悪いまま推移することが予想されるが,縦断的検討はこれまで行われていなかった。そこで,本研究では3年間の縦断研究により,役割取得能力が学校適応に及ぼす影響を検討することとした。

方  法
調査対象は公立小学校の3,4年生に在籍する児童(X年)。X+1年(4,5年生),およびX+2年(5,6年生)に同児童に対し,再度調査を行った。欠損値を含むデータを省いた112 名を最終データとし,分析対象とした。内訳はX年当時の3年生51名(男子25名,女子26名), X年当時の4年生61名(男子33名,女子28名),計112名であった。
調査内容 役割取得能力測定課題について(X年,X+2年に実施) 本間・内山(2002b)で作成された課題を使用した。課題は荒木(1988)の木のぼり課題に準じているが,物語の内容は規則場面と対人場面の2種類で作成されている。
教師評定による児童の学校適応について(X年,X+1年,X+2年に実施) 本間・内山(2002a)で作成された教師によるクラス内行動評定尺度より,授業不参加行動(3項目),規則遵守行動(3項目)を用いた。さらにInterpersonal Competence Scale-Teacher (Cairns,et al., 1995)より,向社会的行動(4項目)を用いた。
倫理的配慮 新潟青陵大学倫理審査委員会において審査を受け,承認を得た。


結果と考察
 X+2年後の役割取得能力の発達段階の推移
 X年の規則および対人場面の役割取得能力の発達段階と,X年+2年の発達段階について,個人内で比較を行った。2年後に発達段階が促進している児童については,規則場面については41名(36.6%),対人場面については46名(41.1%)であった。評定の一致率については,規則場面が90.18%,対人場面については91.07%であった。
 X年の規則場面の役割取得能力とX年,X+1年,X+2年に測定した学校適応の関係 規則場面の役割取得能力とクラス内行動についてKruskal-Wallis検定を行った。いずれの年数,変数において,発達段階間で有意差は認められなかった。
 X年の対人場面の役割取得能力とX年,X+1年,X+2年に測定した学校適応の関係 規則場面と同様にKruskal-Wallis検定を行った。各年ほぼ全ての変数間が発達段階間で有意傾向および有意差が認められた(X年:授業不参加行動x2=13.40,規則遵守行動x2=12.39,向社会的行動x2=11.91, df=2, ps <.01, X+1年:授業不参加行動x2=19.01,規則遵守行動x2=16.07,向社会的行動x2=18.48, df=2, ps <.001,X+2年:授業不参加行動x2=3.82,n.s.規則遵守行動x2=9.71,向社会的行動x2=10.11, df=2, ps <.01)。X年の役割取得能力の発達段階は,X年+1年およびX年+2年の学校適応を予測することが示された。
 発達段階の上昇と学校適応の関連 対人場面の役割取得能力について,2年後の発達段階の上昇の有無とクラス内行動についてU検定を行ったところ,有意差は認められなかった。単純に役割取得能力の発達段階の上昇の有無では,学校適応との関連を示すことはできないということが示唆された。
 より詳細に分析を行うため,上昇群に対しては,発達段階の上昇による段階2への到達の有無により2群(段階2への到達:有群,無群)に分類をしなおし,U検定を行った。その結果,クラス内行動の全ての変数で有意差が認められた(授業不参加行動U=118.50,z=-3.06,規則遵守行動U=113.00,z=-3.06,ps <.01,向社会的行動U=97.50,z=-3.24, p <.001)。
 本研究より,成長に伴い自然に役割取得能力の発達段階が促進しても,小学5,6年生で段階2に到達できない場合は,依然,学校適応は低いままであることが示された。年齢に比して役割取得能力の発達段階の低い児童に対しては,早期に役割取得能力への介入を行うことが,児童の学校適応を促進する上で必要であると言える。

付  記
 JSPS科研費16K17457の助成を受けた。