[PB68] 高校生の将来展望と学校適応
将来展望尺度の開発・利用
Keywords:高校生, 将来展望, 学校適応
目 的
進学・就職など高校卒業後の進路について,生徒の意識を明確にするための様々な取り組みが多くの高校で行われている。こうした取り組みは,生徒の進路意識を明確にするだけでなく,高校生活を進路実現の場と生徒にとらえさせることにより,学習をはじめとした高校生活全般に対する意識の向上を図ることも目的としている。本報告では,進路に対する意識の明確さをはじめとした高校生の将来展望が,学校適応に及ぼす影響について検討する。具体的には,生徒の将来展望を測定する尺度を開発し,将来展望と学校適応との関連について考察する。
方 法
対象:A県立B高校・C高校(両校とも普通科)の生徒1,469名(1年:600名・2年:598名・3年271名)を対象とした。なお,欠損値のない1,386名(男子:735名 女子:651名)のデータを分析に用いた。
時期・方法:2017年11・12月にクラス単位で,質問紙法による調査を実施した。
調査の内容
将来展望(17項目):白井(1994)の「時間的展望体験尺度」,尾崎(1999)の将来展望に関する調査項目を参考に,高校教師5名により決定した。
学校適応:適応に影響を与える「友人関係」(3項目)・「学習」(2項目)・「落ち込み傾向」(2項目)の測定値をそれぞれ適応感要素とした。また,高校生活全般に対する主観的な適応状況を「総合的適応感覚」(2項目)(三島,2006)とした。なお,回答はすべて5件法である。
結果と考察
将来展望に関連した17項目を因子分析し,固有値の推移,解釈可能性の高さから3因子解を採用した(主因子法・直接オブリミン回転)。この3因子について検証的因子分析を行った結果,データに対するモデルの適合は許容できる範囲であった(GFI=.94,AGFI=.91,CFI=.93,RMSEA=.073)。
第1因子は「3年後の自分は,今以上に充実した生活をしている」「自分の将来は,自分で切り開く自信がある」など4項目が高い負荷量を示したことから「肯定的・積極的将来像」因子(α=.76)と解釈した。第2因子は,「前向きな生き方がしたい」「勉強や部活動などで“苦しい”と感じてもがんばることは,自分の将来に役立つと思う」など7項目が高い負荷量を示したことから「向社会的努力志向」因子(α=.81)と解釈した。第3因子は,「高校や大学を卒業した後の就職先など,自分がやりたいことは決まっている」「私には,将来の目標がある」など4項目が高い負荷量を示したことから「将来像・目標の明確さ」因子(α=.86)と解釈した。
将来展望に関連した3因子,適応感3要素,総合的適応感覚の相関係数を求め,相関係数の大きさをもとにして探索的な初期モデルを作成した。
そして,共分散構造分析による分析を行い潜在変数間の関連を検討した。具体的には,データに対する適合度が許容できるモデルを探索し,そのモデルに示された変数間の関連にもとづいた考察を行う。モデルを探索的に変化させ,Figure1のモデルを採用することとした(GFI=.91, AGFI=.89, CFI=.90, RMSEA=.064)。
このモデルによれば,将来展望を高校生に明確にさせることにより,「向社会的努力志向」や「肯定的・積極的将来像」が強まり,「向社会的努力志向」は,友人・学習という側面から適応感に影響を与え,「肯定的・積極的将来像」は,落ち込みや悩みに負の影響を与えることにより,適応感に影響を与える可能性があることが示唆された。
付 記
本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号17K04379)によるものである。
進学・就職など高校卒業後の進路について,生徒の意識を明確にするための様々な取り組みが多くの高校で行われている。こうした取り組みは,生徒の進路意識を明確にするだけでなく,高校生活を進路実現の場と生徒にとらえさせることにより,学習をはじめとした高校生活全般に対する意識の向上を図ることも目的としている。本報告では,進路に対する意識の明確さをはじめとした高校生の将来展望が,学校適応に及ぼす影響について検討する。具体的には,生徒の将来展望を測定する尺度を開発し,将来展望と学校適応との関連について考察する。
方 法
対象:A県立B高校・C高校(両校とも普通科)の生徒1,469名(1年:600名・2年:598名・3年271名)を対象とした。なお,欠損値のない1,386名(男子:735名 女子:651名)のデータを分析に用いた。
時期・方法:2017年11・12月にクラス単位で,質問紙法による調査を実施した。
調査の内容
将来展望(17項目):白井(1994)の「時間的展望体験尺度」,尾崎(1999)の将来展望に関する調査項目を参考に,高校教師5名により決定した。
学校適応:適応に影響を与える「友人関係」(3項目)・「学習」(2項目)・「落ち込み傾向」(2項目)の測定値をそれぞれ適応感要素とした。また,高校生活全般に対する主観的な適応状況を「総合的適応感覚」(2項目)(三島,2006)とした。なお,回答はすべて5件法である。
結果と考察
将来展望に関連した17項目を因子分析し,固有値の推移,解釈可能性の高さから3因子解を採用した(主因子法・直接オブリミン回転)。この3因子について検証的因子分析を行った結果,データに対するモデルの適合は許容できる範囲であった(GFI=.94,AGFI=.91,CFI=.93,RMSEA=.073)。
第1因子は「3年後の自分は,今以上に充実した生活をしている」「自分の将来は,自分で切り開く自信がある」など4項目が高い負荷量を示したことから「肯定的・積極的将来像」因子(α=.76)と解釈した。第2因子は,「前向きな生き方がしたい」「勉強や部活動などで“苦しい”と感じてもがんばることは,自分の将来に役立つと思う」など7項目が高い負荷量を示したことから「向社会的努力志向」因子(α=.81)と解釈した。第3因子は,「高校や大学を卒業した後の就職先など,自分がやりたいことは決まっている」「私には,将来の目標がある」など4項目が高い負荷量を示したことから「将来像・目標の明確さ」因子(α=.86)と解釈した。
将来展望に関連した3因子,適応感3要素,総合的適応感覚の相関係数を求め,相関係数の大きさをもとにして探索的な初期モデルを作成した。
そして,共分散構造分析による分析を行い潜在変数間の関連を検討した。具体的には,データに対する適合度が許容できるモデルを探索し,そのモデルに示された変数間の関連にもとづいた考察を行う。モデルを探索的に変化させ,Figure1のモデルを採用することとした(GFI=.91, AGFI=.89, CFI=.90, RMSEA=.064)。
このモデルによれば,将来展望を高校生に明確にさせることにより,「向社会的努力志向」や「肯定的・積極的将来像」が強まり,「向社会的努力志向」は,友人・学習という側面から適応感に影響を与え,「肯定的・積極的将来像」は,落ち込みや悩みに負の影響を与えることにより,適応感に影響を与える可能性があることが示唆された。
付 記
本研究は,日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)課題番号17K04379)によるものである。