The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 1:00 PM - 3:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB69] 不登校児童の認知と信頼における変化

文献的展望

仁科妃加里 (神戸学院大学大学院)

Keywords:不登校, 認知的特徴, 思考

はじめに
 2017年の文部科学省の調査によると,小・中学校の不登校児童生徒は125,991人であった。不登校児童生徒数は平成25年度から平成27年度にかけては,増加傾向を示している(文部科学省,2017)。不登校となる要因は様々である。古くから指摘されているように親子関係の問題もあるが,今日では,社会的要因も注目されている。いじめとの関係も深く,子どもの貧困などの問題も生じてきている。
 今日まで,不登校の研究や事例報告は数多くなされてきているが,不登校児童は減少していないことは現実的な問題である。特に発達的観点からの検討は少ない。本報告では,近年の国内外の不登校に関する文献考察を通して,今後の不登校についての研究に必要な課題を明らかにする。

不登校児童の信頼感(trust)の特徴と不登校児童のストレス反応に影響を与えるもの
 発達的観点からの研究が少ない中で「不登校児童の自己と他者への信頼感の特徴」や,発達過程での「不登校児童のストレス反応に影響を与えるもの」について明らかにされてきている。橋渡・別府(2003)は,適応指導教室に通う中学生を対象に不登校児童の信頼感の特徴を検討した。その結果,不登校児童は,登校している児童と比較して,自分や他者への信頼感が低く,不信感が有意に高いことが明らかになった。曽山ら(2004)は,中学生を対象に,ストレス反応に影響を与える社会的スキルを明らかにするために質問紙による調査を行った。その結果,「友人との関係づくりスキル」得点は,不登校群が登校群よりも有意に低いことが示された。これらの研究結果は,幼児期からの発達的観点から検討していく必要があろう。
 中井(2016)は,友人関係の中でも信頼感に焦点を当てた調査より,児童が他者へ信頼感を抱いていることは学校適応感の向上に繋がることを主張しているが,不登校児童の他者への信頼感については,特徴が示されているだけで,学校への行き辛さと関係しているかが示されていない。

不登校児童の認知の特徴
 Marija et al(2012)は,不登校児童の認知の特徴を捉えるために,11~17歳の青年に質問紙調査を行った。その結果,不登校児童は,登校している児童より,失敗に対するネガティブな自動思考が浮かんでくる傾向が有意に高いことを示した。そして,失敗に対するネガティブな自動思考と過度の一般化による認知の歪みは,不登校を予測するということをMarija et al(2012)は示唆した。
 Marija et al(2012)の調査では,不登校児童の認知的特徴を広くとらえている。そのため,学校の中では様々な出来事や活動があるが,それら場面に対する認知を細かく捉えることはできていない。また,曽山ら(2004)により,不登校児童にとって友人関係がストレッサーとなることが示されているが,友人関係やそれに含まれる概念である信頼感に対する認知の特徴は検討されていない。そして,青年の認知的誤りの構造はMarija et al(2011)により,明らかにされているが,不登校児童の認知的誤りの構造は明らかにされていない。そのため,不登校児童の他者との信頼感に対する認知的特徴に焦点を当て,他者への信頼感における認知的誤りや認知の歪みを明らかにし,それが学校への行き辛さとどのように関係しているかを検討すべきである。それを検討することで,他者との信頼感を築くとき,および保とうとするときに,どのような思考が浮かんでくるかを明らかにできる。

今後の課題
 海外の研究では,不登校児童の物事に対する全般的な認知の特徴が明らかにされている。認識の発達に関して,Piagetら(1966)は,「形式的思考と具体的諸操作との本質的差異は,後者が現実に中心化しているのにたいし,前者は可能なもろもろの変換をなしえて,それらの思考され演繹された展開にしたがってのみ現実を同化する」と述べている。特に,個々の事例の認知的特徴を捉え,思春期,青年期における思考の発達と関係性(両親・仲間)との関連を検討していくことが重要であろう。そして,不登校児童の認知が彼らの日常生活にどう影響しているかの検討が今後の課題であると言える。