[PB74] センター試験による私立大学出願の特徴と年次推移
大学進学意思決定と社会的誘因
キーワード:大学入試センター試験, 進学意思決定, 出願行動
問題と目的
高校生の大学進学への意思決定は,どのようになされているのだろうか。大学入試が選抜的意味を持つ状況では,志願者数と入学定員の間で合否ラインが定まる。現在,少子化で高卒者数は減少している。すると,学力の要因以外の人口動態によっても,出願動向が左右される(内田他, 2014)。
また,センター試験では,1回の受験で多数の私大に出願できるため,受験機会が拡大している。このような社会的な変化は,高校生の進路選択にどんな影響を与えているのだろうか。本報告では,セ試による私大への出願動向から,社会的な要因による進学意思決定への影響について検討する。
方 法
平成20~29年のセンター試験による私立大学への出願動向を分析した。1人の受験者がセ試の成績で,いくつの私大・学部に出願したかという「私大出願件数」をもとめ,その分布を検討した。
結果と考察
私大への平均出願数は,平成20年から漸増傾向にあり,1人当りの出願数は2件台から3件台に増えてきた。1人で出願した件数の,年度ごとの最大値は,80件以上と非常に多かった。また,H24(2012)~H25(2013)年度,及びH29(2017)年度は,さらに極端な多数出願を行った者が見られた。
Figure 1にH20年の出願件数の人数分布を示す。対数頻度分布で底を打つ30件より,多く出願している者を特異的多数出願者とした。そして,この多数出願者が,どの地域に見られるのか検討した。
私大多数出願者の年次的な推移について,地域局在性の特徴に即して,期間ごとにまとめた。
(1) 散発的点在期(H20~23年度) 特定地域への局在性は見られず,散発的に点在。
(2) 被災地局在期(H24~27年度) 東日本大震災の被災地域で急増,3年程で沈静化。
(3) 膨張的拡大期(H28~29年度) 首都圏で先行して急増,その後,他の地域に拡大。
この膨張的拡大期のH28年時の地域分布の様子をFigure2に示す。背景として,大規模私立大学でのブランディング方策,志願者の獲得に向けた
(a) 複数学部セット売りによる検定料の値下げ,
(b) インターネット出願による手続きの簡素化,の2点が,その誘因として指摘された。
多数出願は,より難易度の高い大学への合格には繋がらず,受験方略として得策ではない。出願者が増えると,競争倍率は上昇し,合格率は低下する。個々の受験者は,より多くの合格の機会を手に入れるために多数出願を試みるが,結果的に合格をより難しくしているという矛盾を内包する。
一方,センター試験で私大に出願する実人数は,全国総計では増加だったが,人口の減少が著しい過半数の県では逆に減少していた。ここからは,地域間で正反対の対照的な動向が明らかになった。
付 記
本研究はセンターの理裁費の援助を受けました。
引用文献
内田照久・橋本貴充・鈴木規夫 (2014). 18歳人口減少期のセンター試験の出願状況の年次推移と地域特性 日本テスト学会誌,10(1), 47-68.
高校生の大学進学への意思決定は,どのようになされているのだろうか。大学入試が選抜的意味を持つ状況では,志願者数と入学定員の間で合否ラインが定まる。現在,少子化で高卒者数は減少している。すると,学力の要因以外の人口動態によっても,出願動向が左右される(内田他, 2014)。
また,センター試験では,1回の受験で多数の私大に出願できるため,受験機会が拡大している。このような社会的な変化は,高校生の進路選択にどんな影響を与えているのだろうか。本報告では,セ試による私大への出願動向から,社会的な要因による進学意思決定への影響について検討する。
方 法
平成20~29年のセンター試験による私立大学への出願動向を分析した。1人の受験者がセ試の成績で,いくつの私大・学部に出願したかという「私大出願件数」をもとめ,その分布を検討した。
結果と考察
私大への平均出願数は,平成20年から漸増傾向にあり,1人当りの出願数は2件台から3件台に増えてきた。1人で出願した件数の,年度ごとの最大値は,80件以上と非常に多かった。また,H24(2012)~H25(2013)年度,及びH29(2017)年度は,さらに極端な多数出願を行った者が見られた。
Figure 1にH20年の出願件数の人数分布を示す。対数頻度分布で底を打つ30件より,多く出願している者を特異的多数出願者とした。そして,この多数出願者が,どの地域に見られるのか検討した。
私大多数出願者の年次的な推移について,地域局在性の特徴に即して,期間ごとにまとめた。
(1) 散発的点在期(H20~23年度) 特定地域への局在性は見られず,散発的に点在。
(2) 被災地局在期(H24~27年度) 東日本大震災の被災地域で急増,3年程で沈静化。
(3) 膨張的拡大期(H28~29年度) 首都圏で先行して急増,その後,他の地域に拡大。
この膨張的拡大期のH28年時の地域分布の様子をFigure2に示す。背景として,大規模私立大学でのブランディング方策,志願者の獲得に向けた
(a) 複数学部セット売りによる検定料の値下げ,
(b) インターネット出願による手続きの簡素化,の2点が,その誘因として指摘された。
多数出願は,より難易度の高い大学への合格には繋がらず,受験方略として得策ではない。出願者が増えると,競争倍率は上昇し,合格率は低下する。個々の受験者は,より多くの合格の機会を手に入れるために多数出願を試みるが,結果的に合格をより難しくしているという矛盾を内包する。
一方,センター試験で私大に出願する実人数は,全国総計では増加だったが,人口の減少が著しい過半数の県では逆に減少していた。ここからは,地域間で正反対の対照的な動向が明らかになった。
付 記
本研究はセンターの理裁費の援助を受けました。
引用文献
内田照久・橋本貴充・鈴木規夫 (2014). 18歳人口減少期のセンター試験の出願状況の年次推移と地域特性 日本テスト学会誌,10(1), 47-68.