[PC03] 保育士の指示的・受容的関わりの受けとめと育児ストレスに関する世帯収入別の分析
Keywords:育児ストレス, 世帯収入, 保育士
目 的
日本における相対的貧困率の上昇が指摘されている一方で,就学前の子どもへの影響に関する研究は十分に行われていない。中村(2015)は貧困層の母親は育児ストレスを抱えやすく,保育所の利用に消極的であること調査結果から示している。
大内・野澤・萩原(2014)では,母親が保育士から指示的あるいは受容的な関わりをされていると感じていると育児ストレスが軽減する傾向を示しているが,経済的な状況によって保育士からの関わりによる育児ストレスの影響が異なる可能性が考えられる。本研究では,世帯収入の状況によって,保育士からの関わりの受けとめが育児ストレスにどのような影響を与えるのかを検討する。
方 法
調査方法 調査は2013年7月から8月にかけてX県内の保育所を対象に行われた。各保育所の以上児クラスと未満児クラスの1クラスずつを対象に当該クラスを利用している母親に対して質問紙の配布・回収した。104箇所の保育所より2734件の有効なデータが得られた。
調査項目
世帯収入:世帯収入について10件法(1:200万円未満,2:200万円台,…,10:1,000万円以上)で回答を求めた。
指示的・受容的関わりの受けとめ:保育士らが母親に望ましい育児をするよう指導しているか(指示的),様々な育児のあり方を肯定しているか(受容的)を,それぞれ2項目で5件法にて尋ねた。
育児ストレス:負担感,時間のなさ,不安感をそれぞれ3項目で5件法にて尋ねた。
結果と考察
まず,世帯収入で育児ストレスが異なるのかを検討するために,育児ストレスの項目のみで因子構造を仮定した,階層構造(保育所によるクラスタリング)考慮した世帯収入による多母集団(low群:300万円未満,middle群:300万円~800万円,high群:800万円以上)の構造方程式モデルにより分析を行った。適合度は,CFI=.970,RMSEA=.057,SRMR=.045であった。分析の結果,low群を基準として因子の平均の非標準化解がmiddle群で負担感(-.102,p<.10),時間のなさ(.141,p<.10),不安感(-.158,p<.01),high群で負担感(-.234,p<.01),時間のなさ(.412,p<.01),不安感(-.336,p<.01)となり,世帯収入が高い群ほど不安感や負担感が低く,時間のなさが高い傾向が示された。
続いて,指示的・受容的関わりの育児ストレスへの影響を検討するためにFigure 1のモデルについて同様の構造方程式モデルによる分析を行った。適合度は,CFI=.938,RMSEA=.061,SRMR=.057であった。分析の結果,各母集団の指示的・受容的関わりの受けとめから育児ストレスへのパス係数の標準化解はTable 1の通りとなった。指示的関わりの受けとめは集団によらず時間のなさを軽減する傾向が示された。しかし受容的関わりの受けとめは,high群のみに負担感を軽減する効果が見られた。
日本における相対的貧困率の上昇が指摘されている一方で,就学前の子どもへの影響に関する研究は十分に行われていない。中村(2015)は貧困層の母親は育児ストレスを抱えやすく,保育所の利用に消極的であること調査結果から示している。
大内・野澤・萩原(2014)では,母親が保育士から指示的あるいは受容的な関わりをされていると感じていると育児ストレスが軽減する傾向を示しているが,経済的な状況によって保育士からの関わりによる育児ストレスの影響が異なる可能性が考えられる。本研究では,世帯収入の状況によって,保育士からの関わりの受けとめが育児ストレスにどのような影響を与えるのかを検討する。
方 法
調査方法 調査は2013年7月から8月にかけてX県内の保育所を対象に行われた。各保育所の以上児クラスと未満児クラスの1クラスずつを対象に当該クラスを利用している母親に対して質問紙の配布・回収した。104箇所の保育所より2734件の有効なデータが得られた。
調査項目
世帯収入:世帯収入について10件法(1:200万円未満,2:200万円台,…,10:1,000万円以上)で回答を求めた。
指示的・受容的関わりの受けとめ:保育士らが母親に望ましい育児をするよう指導しているか(指示的),様々な育児のあり方を肯定しているか(受容的)を,それぞれ2項目で5件法にて尋ねた。
育児ストレス:負担感,時間のなさ,不安感をそれぞれ3項目で5件法にて尋ねた。
結果と考察
まず,世帯収入で育児ストレスが異なるのかを検討するために,育児ストレスの項目のみで因子構造を仮定した,階層構造(保育所によるクラスタリング)考慮した世帯収入による多母集団(low群:300万円未満,middle群:300万円~800万円,high群:800万円以上)の構造方程式モデルにより分析を行った。適合度は,CFI=.970,RMSEA=.057,SRMR=.045であった。分析の結果,low群を基準として因子の平均の非標準化解がmiddle群で負担感(-.102,p<.10),時間のなさ(.141,p<.10),不安感(-.158,p<.01),high群で負担感(-.234,p<.01),時間のなさ(.412,p<.01),不安感(-.336,p<.01)となり,世帯収入が高い群ほど不安感や負担感が低く,時間のなさが高い傾向が示された。
続いて,指示的・受容的関わりの育児ストレスへの影響を検討するためにFigure 1のモデルについて同様の構造方程式モデルによる分析を行った。適合度は,CFI=.938,RMSEA=.061,SRMR=.057であった。分析の結果,各母集団の指示的・受容的関わりの受けとめから育児ストレスへのパス係数の標準化解はTable 1の通りとなった。指示的関わりの受けとめは集団によらず時間のなさを軽減する傾向が示された。しかし受容的関わりの受けとめは,high群のみに負担感を軽減する効果が見られた。