[PC06] パズル課題解決場面における母子間相互作用と自己制御(1)
発話・視線・身体から捉えた1歳台の母子間相互作用の多様性
Keywords:自己制御, 母子関係, 一歳児
問 題
子どもの自己制御のあり方は,子ども自身の能力的な側面も持つが,同時に周囲の他者や物理的環境も含めた文脈との関係性から考えることもできる。特に幼児期の子どもにとって重要な他者である親との関係は子どもの自己制御にも大きな影響を及ぼす。同時に,親も相互作用の中で発達的変化を遂げるのであり,本研究プロジェクトでは,そうした母子間の関係を「母子の共同発達過程」としてとらえ(竹尾・渡辺・渡部,2015),その関係の発達的変化を明らかにする目的で,1歳10か月から5歳1か月までの子どもの,調査(母親へのインタビュー)および観察(母子共同でのパズル課題解決場面の観察)を縦断的に行ってきた。本報告では,子どもが1歳台におけるパズル課題解決場面の観察データについて検討を行う。
方 法
1歳10か月児の母子4組(以下では,D,E,F,Hの母子とする:男児2組女児2組)に対しパズル課題を実施し,その様子をビデオカメラで記録した。1組の母子(E)に対しては,1歳11か月時にも同課題を実施した。課題は5分の時間制限を設けた場合と時間制限を設けない場合の2つのセッションから構成されていたが,両セッション間で,時間制限を設けたことによる課題解決過程の大きな違いは見られず,分析時には,両者を合わせたデータに対して分析を行った。分析においては,(1)パズル課題解決時の出来事の流れ,(2)母子の発話の数(ひとまとまりの発話を1とする)とその内容,(3)母子の行動の内容,(4)母子の身体的(空間的)位置関係と身体的接触の有無,(5)一つのピース完成時およびパズル全体の完成時における母子の行動に注目した分析を行った。
結 果
パズル解決場面における母子間のやりとりを見ると,母子の組ごとに特徴的な違いがあることがわかる。
Dの母子では,母子間の身体的接触の時間が長くパズルの中のひとつのピースを完成するまでの時間が短い(平均16.8秒),また母親の発話が子どもの発話に比べ多い(Figure 1参照)だけではなく,その内容にも指示的なものが多く含まれていた。お互いを見るといった視線の動きも少ない(Figure 2)。
同様に発話数や相手を見る視線の動きが少ないFの母子では,母子間での身体的接触は少なく,子どもの作業を母親がじっと見守る時間が長い。
それに対して,Eの母子の場合,Figure 1とFigure 2から明らかなように,発話数も相手を見る視線の動きも他の母子に比べて多く,母子間で発話数のバランスがとれているのも特徴的である。Hの母子に関しては,パズルの問題解決からの逸脱時間が長かった。
考 察
4組の母子それぞれに,パズル課題解決の中での特徴的な母子間相互作用が見られた。Dの母子では,母親は子どもの作業に積極的に関与するものの,その関与の仕方には,特に身体的な面での特徴が表れ,逆にEの母子では対話的な相互作用が特徴的であった。また,Fの母子では子どものパズル作業に対して母親が見守る形で淡々と課題解決が進行していた。
今回の調査における1歳台の4組の母子の相互作用のあり方からは,「身体的-対話的」,「積極的関与-見守り」という2つの相互作用の分類軸の存在が考えられる。
付 記
本研究はJSPS科研費 JP21730527(研究代表者:竹尾和子)の助成を受けた。
子どもの自己制御のあり方は,子ども自身の能力的な側面も持つが,同時に周囲の他者や物理的環境も含めた文脈との関係性から考えることもできる。特に幼児期の子どもにとって重要な他者である親との関係は子どもの自己制御にも大きな影響を及ぼす。同時に,親も相互作用の中で発達的変化を遂げるのであり,本研究プロジェクトでは,そうした母子間の関係を「母子の共同発達過程」としてとらえ(竹尾・渡辺・渡部,2015),その関係の発達的変化を明らかにする目的で,1歳10か月から5歳1か月までの子どもの,調査(母親へのインタビュー)および観察(母子共同でのパズル課題解決場面の観察)を縦断的に行ってきた。本報告では,子どもが1歳台におけるパズル課題解決場面の観察データについて検討を行う。
方 法
1歳10か月児の母子4組(以下では,D,E,F,Hの母子とする:男児2組女児2組)に対しパズル課題を実施し,その様子をビデオカメラで記録した。1組の母子(E)に対しては,1歳11か月時にも同課題を実施した。課題は5分の時間制限を設けた場合と時間制限を設けない場合の2つのセッションから構成されていたが,両セッション間で,時間制限を設けたことによる課題解決過程の大きな違いは見られず,分析時には,両者を合わせたデータに対して分析を行った。分析においては,(1)パズル課題解決時の出来事の流れ,(2)母子の発話の数(ひとまとまりの発話を1とする)とその内容,(3)母子の行動の内容,(4)母子の身体的(空間的)位置関係と身体的接触の有無,(5)一つのピース完成時およびパズル全体の完成時における母子の行動に注目した分析を行った。
結 果
パズル解決場面における母子間のやりとりを見ると,母子の組ごとに特徴的な違いがあることがわかる。
Dの母子では,母子間の身体的接触の時間が長くパズルの中のひとつのピースを完成するまでの時間が短い(平均16.8秒),また母親の発話が子どもの発話に比べ多い(Figure 1参照)だけではなく,その内容にも指示的なものが多く含まれていた。お互いを見るといった視線の動きも少ない(Figure 2)。
同様に発話数や相手を見る視線の動きが少ないFの母子では,母子間での身体的接触は少なく,子どもの作業を母親がじっと見守る時間が長い。
それに対して,Eの母子の場合,Figure 1とFigure 2から明らかなように,発話数も相手を見る視線の動きも他の母子に比べて多く,母子間で発話数のバランスがとれているのも特徴的である。Hの母子に関しては,パズルの問題解決からの逸脱時間が長かった。
考 察
4組の母子それぞれに,パズル課題解決の中での特徴的な母子間相互作用が見られた。Dの母子では,母親は子どもの作業に積極的に関与するものの,その関与の仕方には,特に身体的な面での特徴が表れ,逆にEの母子では対話的な相互作用が特徴的であった。また,Fの母子では子どものパズル作業に対して母親が見守る形で淡々と課題解決が進行していた。
今回の調査における1歳台の4組の母子の相互作用のあり方からは,「身体的-対話的」,「積極的関与-見守り」という2つの相互作用の分類軸の存在が考えられる。
付 記
本研究はJSPS科研費 JP21730527(研究代表者:竹尾和子)の助成を受けた。