[PC07] パズル課題解決場面における母子間相互作用と自己制御(2)
課題解決中の出来事の推移と親子の位置関係から捉えた1歳台の母子間相互作用の多様性
Keywords:自己制御, 母子関係, 1歳児
問 題
母子間での共同的な問題解決場面を微視的な視点からとらえようとする研究においては(e.g.,Wertsch, McNamee, McLane and Budwig, 1980; Freund, 1990),多くの場合,その問題解決の過程における制御(自己制御・他者制御)の問題を母親の制御の元になる規範や目標が子どもに内化されていく過程に注目して検討されてきたと言える。一方で,相互作用の中で,どのように母子間の双方向的な制御が成り立っているのかという視点からの検討は少ない。そこで本報告では,母子の共同的なパズル解決場面の縦断的な観察データの中から,子どもが1歳台における観察データについて母子間の相互作用の推移の検討を行う。
方 法
1歳10か月児の母子4組(以下では,D,E,F,Hの母子とする:男児2組女児2組)に対して,パズル課題を実施し,その様子をビデオカメラで記録した。1組の母子(E)に対しては,1歳11か月時にも同課題を実施した。課題は5分の時間制限を設けた場合と時間制限を設けない場合の2つのセッションから構成されていたが,両セッション間で,時間制限を設けたことによる課題解決過程の大きな違いは見られなかったため,分析時には,両者を合わせたデータに対して分析を行った。分析においては,(1)パズル課題解決時の出来事の流れ,(2)母子の発話の数(ひとまとまりの発話を1とする)とその内容,(3)母子の行動の内容,(4)母子の身体的(空間的)位置関係と身体的接触の有無,(5)1つのピース完成時およびパズル全体の完成時における母子の行動に注目した分析を行った。
結 果
出来事の流れ(パズル課題解決行動のまとまりをシークエンスとしてひとまとめにし,その推移についてまとめた)を見ると,各母子において,パズル課題解決における出来事の推移にも母子ごとの特徴が見られた。
特にパズル解決行動からの逸脱との関連で見れば(紙面の関係上,本稿ではDの結果を中心に記載する),Dの母子においては,母子間の位置関係・母子間での身体接触の推移とパズルからの逸脱行動との間に関連が考えられ,同じ位置でパズルを解いている状態から,逸脱行動の前には子どもの位置の移動などの動きが生じるようになっており,同時に,逸脱の前には,身体的接触の時間も少なくなっていた。それに対して,母子Eでは対話的なやり取りの中で突然逸脱が生じ,Fにおいては逸脱が見られなかった。またHでは逸脱の時間が極端に長かった。
考 察
前発表で見られた,母子ごとの相互作用の特徴の違いは,パズル解決場面の推移のあり方においても見られており,比較的パズル解決行動からの逸脱が多いHを除けば,「身体的-対話的」,「積極的関与-見守り」という2つの軸によって分類された相互作用の特徴は,パズル解決場面の推移および相互作用の推移の特徴にも当てはまるものと考えられる。
付 記
本研究はJSPS科研費 JP21730527(研究代表者:竹尾和子)の助成を受けた。
母子間での共同的な問題解決場面を微視的な視点からとらえようとする研究においては(e.g.,Wertsch, McNamee, McLane and Budwig, 1980; Freund, 1990),多くの場合,その問題解決の過程における制御(自己制御・他者制御)の問題を母親の制御の元になる規範や目標が子どもに内化されていく過程に注目して検討されてきたと言える。一方で,相互作用の中で,どのように母子間の双方向的な制御が成り立っているのかという視点からの検討は少ない。そこで本報告では,母子の共同的なパズル解決場面の縦断的な観察データの中から,子どもが1歳台における観察データについて母子間の相互作用の推移の検討を行う。
方 法
1歳10か月児の母子4組(以下では,D,E,F,Hの母子とする:男児2組女児2組)に対して,パズル課題を実施し,その様子をビデオカメラで記録した。1組の母子(E)に対しては,1歳11か月時にも同課題を実施した。課題は5分の時間制限を設けた場合と時間制限を設けない場合の2つのセッションから構成されていたが,両セッション間で,時間制限を設けたことによる課題解決過程の大きな違いは見られなかったため,分析時には,両者を合わせたデータに対して分析を行った。分析においては,(1)パズル課題解決時の出来事の流れ,(2)母子の発話の数(ひとまとまりの発話を1とする)とその内容,(3)母子の行動の内容,(4)母子の身体的(空間的)位置関係と身体的接触の有無,(5)1つのピース完成時およびパズル全体の完成時における母子の行動に注目した分析を行った。
結 果
出来事の流れ(パズル課題解決行動のまとまりをシークエンスとしてひとまとめにし,その推移についてまとめた)を見ると,各母子において,パズル課題解決における出来事の推移にも母子ごとの特徴が見られた。
特にパズル解決行動からの逸脱との関連で見れば(紙面の関係上,本稿ではDの結果を中心に記載する),Dの母子においては,母子間の位置関係・母子間での身体接触の推移とパズルからの逸脱行動との間に関連が考えられ,同じ位置でパズルを解いている状態から,逸脱行動の前には子どもの位置の移動などの動きが生じるようになっており,同時に,逸脱の前には,身体的接触の時間も少なくなっていた。それに対して,母子Eでは対話的なやり取りの中で突然逸脱が生じ,Fにおいては逸脱が見られなかった。またHでは逸脱の時間が極端に長かった。
考 察
前発表で見られた,母子ごとの相互作用の特徴の違いは,パズル解決場面の推移のあり方においても見られており,比較的パズル解決行動からの逸脱が多いHを除けば,「身体的-対話的」,「積極的関与-見守り」という2つの軸によって分類された相互作用の特徴は,パズル解決場面の推移および相互作用の推移の特徴にも当てはまるものと考えられる。
付 記
本研究はJSPS科研費 JP21730527(研究代表者:竹尾和子)の助成を受けた。