The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 3:30 PM - 5:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC08] 同じ分母の加減算の習得がゆるやかに進む小学生の事例

大西美香子1, 伊藤康児2, 加藤幸久3 (1.名城大学, 2.名城大学, 3.名城大学大学院)

Keywords:分数, 加減算, 小学生

研究の目的
 小学校段階の算数において,分数は重要な学習内容であるが,分数が分母・分子という2つの数で表記されることなどから,その理解と習熟は難しいとされる(吉田, 1997)。
 本研究は自身の学年よりも低い学年に配当されている算数の課題に多くの誤答を示してきた児童について,分母が同じ分数の加減算問題の習得がゆるやかに進んだ経過を分析し,この児童の数の認知の一面を明らかにすることを目的とする。

方  法
(1) 対象者 B県内のH教室に通う小学生1名。2年生のとき,加減算の習得につまずきが見られたため,教室での学習を始めた。6年生となった現在まで,くりかえし基礎となる内容に立ちもどりながら学習している。本発表については,保護者より承諾を得ている。
(2) 期 間 2018年1月から2月。
(3) 手続き H教室内で対象者が取り組んだ算数学習課題プリントの解答を分析し,また課題に取り組む際の対象者の行動を参考とした。

結果と考察
(1) 仮分数・帯分数を含む加算課題への解答
 Figure 1は和が仮分数になる加算課題への正答例である。分子の加算はできており,分母は変化しないことも理解されていると推測される。
 Figure 2 は分子の加算結果が真分数になり,帯分数の整数部分が変わらない加算課題への正答例である。帯分数が加数,被加数のいずれであっても正答している。
 しかし,Figure 3に示すように,分子を足すと仮分数になる加算課題では,加算ではなく,帯分数の分子の数字を真分数の分子の数字に無理やり入れ替えたと推測される不合理な誤答ばかりとなっている。
 この結果とFigure 4 に示す仮分数を整数に直す課題への誤答とを考え合わせると,仮分数を整数ないし帯分数に変換する操作の理解と習熟が十分でないと推測される。
 ただし,Figure 3 のような混乱は分子の和が仮分数になることを筆記の前に見込んだために生じたと推測されるところから,分母が同じ分数の加算課題にはある程度習熟してきたと考えられる。
(2) 帯分数を含む減算課題への解答
 Figure 5 は帯分数を含む減算課題のうち,計算の結果,帯分数の整数部分が変わらない課題への正答例である。いずれの課題へも正答しており,分子の減算だけですむ課題には習熟している。
(3) 本児の数の認知
 例示のとおり,加減算をしても帯分数の整数部分が変化しない課題,または仮分数のまま答えてよい課題にはつねに正答し,算数学習の遅れを示す本児(現在は小学6年生)も指導を受けて4年生の学習内容をゆるやかながら習得しつつある。その一方で,例示したような不合理な誤答をするのは,同じ量を仮分数,帯分数で表現できることの理解と計算操作の習熟が十分でないためであり,計算に使うべき数が増えると計算が混乱しがちな本児の傾向もかかわっているものと推測される。