The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 3:30 PM - 5:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC20] 学習法講座と家庭学習指導の連動が英単語学習に及ぼす影響

宿題のデザインとフィードバックの仕方に着目して

太田絵梨子 (東京大学大学院・日本学術振興会特別研究員)

Keywords:学習方略, 家庭学習指導, 実験

問題と目的
 有効な学習方略を使っていないがために英単語がなかなか覚えられないという学習者は少なくない。有効な方略の使用を促すための教育実践の一つに,「学習法講座」がある(e.g., 市川他, 2009)。先行研究では,教科学習の授業と学習法講座を連動させることで自発的な方略使用が促されることが示されている(瀬尾, 2017)。しかし,英単語学習の場合,授業よりも家庭学習の中でなされることが多いことから,家庭学習指導との連動による方略利用の促進が必要となる。
 家庭学習指導の中でも宿題は,教師の働きかけ(e.g., 課題の設定,フィードバック)によって学習を方向づけることのできる有効な手段と捉えられる(Epstein & Van Voorhis, 2001)。しかし,従来の研究では,学習量や時間管理といった学習習慣への効果に関心が向けられ(e.g., Xu et al., 2014),学習中の方略使用に与える影響やその指導方法は検討されていない。また教育現場でも,宿題指導の際に具体的な取り組み方の指導やフィードバックは十分なされていないと考えられる。
 そこで本研究では,学習法講座と宿題指導の連動による効果を検討する。具体的には,学習法講座で教授した方略の使用をガイドする宿題デザインの有無と,宿題での方略の使い方に対するフィードバック(以下,FB)の有無を実験的に操作し,家庭学習中の方略使用の変化や,その結果としての学業達成に及ぼす影響を検証する。

方  法
 対象 夏休みに大学で実施された学習法講座に,5日間休まず参加した中学2年生65名。参加者らは,「宿題デザインあり・FBあり群」,「宿題デザインあり・FBなし群」,「宿題デザインなし・FBあり群」の3群に割り当てられた。
 手続き 1日目と5日目は主に英単語テストを実施した。2~4日目の3日間は,英単語学習方略に関する学習法講座を3群全てに実施した。2日目は自己テストをして苦手な単語を集中的に学習する「苦手単語集中法」,3~4日目は例文の中で単語を覚える「例文活用法」がテーマであった。宿題は1~4日目までの4日間,毎日講座後に課した。そのうち1・4日目の宿題は,参加者の自発的な方略使用を測定するため,3群とも白紙のプリントを配布し,「自分が一番よく覚えられると思うやり方で学習してくること」と教示した。2・3日目の宿題は,「宿題デザインあり」の2群に対しては,学習法講座で教授した方略の使用をガイドするようなデザインを施したプリントを配布し,「宿題デザインなし」群には1・4日目と同様に白紙を配布した。また,「FBあり」の2群に対しては,1・2・3日目の宿題の取り組み状況について,方略の使い方が上手な例とあまり良くない例を授業中に全体共有し,さらに個人の宿題プリントに対しても良い点と改善点を記入して返却した。

結果と考察
 分析は全て「宿題デザイン有無」および「FB有無」に関する対比検定を行った。
 方略使用量 1日目の宿題における方略使用量を共変量とした対比分析の結果,苦手単語集中法は2日目,例文活用法は3日目の宿題において宿題デザイン対比が有意であり,いずれも宿題デザインあり群の方が当該方略の使用量が増加していた。ただし,これは方略使用をガイドした宿題における行動であるため,当然の結果と言える。一方,自発的な方略使用を測定した4日目の宿題では,例文活用法についてのみFB対比が有意で(F(1, 61)=4.74, p<.05),FBあり群の方が方略を継続的に使用していた。以上より,宿題デザインだけでは方略使用の定着は難しいが,FBを行うことで,足場が外された後の自発的な方略使用が促される可能性が部分的に示唆された。
 英単語テスト得点の伸び 宿題デザイン対比のみ有意差が見られ(F(1, 62)=4.84, p<.05),宿題デザインあり群の方が,テスト得点の伸びが大きかった。ただし,方略使用量の推移(Figure 1)から,この結果は4日目の自発的学習の成果よりも,2・3日目の宿題デザインの介入時における直接的な学習効果によるものと捉えるべきであり,学習者自身の力で質の高い方略利用ができるようにするにはさらなる工夫が必要と言えるだろう。