[PC27] 既有知識が説明効果及び説明内容に及ぼす影響
Keywords:既有知識, 説明
問題・目的
学習する際に,テキストを読むだけでなく,読んだ後に説明を行うと,学習者の内容の理解が促されることが,これまで数多くの研究で示されている(Chiら, 1994, 2000; Coleman, 1997; 伊藤,2009)。特に,説明時の発話内容が比較した研究から,テキスト内容について「意味付与的説明」や「説明内容の解釈」といった発話が多く生成されるほど,理解が深まることが指摘されている。
しかし,説明により学習者の理解が深まることは明らかにされたものの,深まる程度の個人差あるいは,深まる程度が異なる学習者の発話内容の違いについては,これまでの研究では吟味されていなかった。学習には系統性と連続性があり,学習内容への理解はこれまで蓄積された知識と関連しているため,学習者が保有している知識が,理解が深まる程度の違いを引き起こす可能性の一つとして考えられる。本研究では,既有知識の視点から,説明により学習者の理解の深まる程度及び説明時の発話内容への影響を明らかにすることを目的とした。
方 法
参加者 中国人大学院生12名(男女各6名)。
事前テスト 事前テストに使用する問題は「分散」と「標準偏差」に関する計12問であった。事前テストの得点を既有知識とした。
学習内容 「分散」と「標準偏差」に関する説明文で,図・表を含めA4の用紙2枚であった。
事後テスト 事後テストに使用する問題は事前テスト同じであったが,問題の順番が異なる。
手続き まず,事前テストに答えるように教示した。その後説明文を読ませ,読んだ後にサクラに内容を説明し教えた。説明後,事後テストを行った。
結 果
プロトコル分析をするため,説明時の発話を文字化し分類した。カテゴリーはTable 1に示した。
学習内容に含まれるポイントを説明時にどれほど説明したのかにより,説明完成度を評定した。
まず,事前テストと事後テストの得点の差を検定した結果,事後テストの得点は,事前テストの得点を有意に上回った(t(11)=7.24, p<.01)。
次に,事後テスト得点から事前テスト得点を引いたものを理解増加程度とし,平均値に基づき,増加H群(5名)と増加L群(7名)に分けた。この2群の既有知識の差を検定した結果,増加L群の既有知識は増加H群より有意に高かった(t(10)=2.87, p<.05)。
説明時のプロトコルと理解増加程度との関連を明らかにするため,各カテゴリーの発話と説明完成度を独立変数,理解増加程度を従属変数とする重回帰分析(stepwise法)を行った結果,説明時に書くことが増加程度に有意な正の影響(β=.48, p<.05),話題導入の発話(β= -.7, p<.01)と説明完成度(β= -.93, p<.01)が増加程度に負の影響を及ぼすことがわかった。
考 察
先行研究と同様に,本研究でも説明の理解促進効果を確認した。また,既有知識レベルにより,理解増加程度に影響を与えることが明らかにされた。既有知識の少ない人は,説明により理解を深めることはできるが,既有知識が少ないため,実際の説明においては,書くことに依存し,話題導入や内容ポイントの説明といった整然とした説明過程を達成するには困難であることが示唆された。
学習する際に,テキストを読むだけでなく,読んだ後に説明を行うと,学習者の内容の理解が促されることが,これまで数多くの研究で示されている(Chiら, 1994, 2000; Coleman, 1997; 伊藤,2009)。特に,説明時の発話内容が比較した研究から,テキスト内容について「意味付与的説明」や「説明内容の解釈」といった発話が多く生成されるほど,理解が深まることが指摘されている。
しかし,説明により学習者の理解が深まることは明らかにされたものの,深まる程度の個人差あるいは,深まる程度が異なる学習者の発話内容の違いについては,これまでの研究では吟味されていなかった。学習には系統性と連続性があり,学習内容への理解はこれまで蓄積された知識と関連しているため,学習者が保有している知識が,理解が深まる程度の違いを引き起こす可能性の一つとして考えられる。本研究では,既有知識の視点から,説明により学習者の理解の深まる程度及び説明時の発話内容への影響を明らかにすることを目的とした。
方 法
参加者 中国人大学院生12名(男女各6名)。
事前テスト 事前テストに使用する問題は「分散」と「標準偏差」に関する計12問であった。事前テストの得点を既有知識とした。
学習内容 「分散」と「標準偏差」に関する説明文で,図・表を含めA4の用紙2枚であった。
事後テスト 事後テストに使用する問題は事前テスト同じであったが,問題の順番が異なる。
手続き まず,事前テストに答えるように教示した。その後説明文を読ませ,読んだ後にサクラに内容を説明し教えた。説明後,事後テストを行った。
結 果
プロトコル分析をするため,説明時の発話を文字化し分類した。カテゴリーはTable 1に示した。
学習内容に含まれるポイントを説明時にどれほど説明したのかにより,説明完成度を評定した。
まず,事前テストと事後テストの得点の差を検定した結果,事後テストの得点は,事前テストの得点を有意に上回った(t(11)=7.24, p<.01)。
次に,事後テスト得点から事前テスト得点を引いたものを理解増加程度とし,平均値に基づき,増加H群(5名)と増加L群(7名)に分けた。この2群の既有知識の差を検定した結果,増加L群の既有知識は増加H群より有意に高かった(t(10)=2.87, p<.05)。
説明時のプロトコルと理解増加程度との関連を明らかにするため,各カテゴリーの発話と説明完成度を独立変数,理解増加程度を従属変数とする重回帰分析(stepwise法)を行った結果,説明時に書くことが増加程度に有意な正の影響(β=.48, p<.05),話題導入の発話(β= -.7, p<.01)と説明完成度(β= -.93, p<.01)が増加程度に負の影響を及ぼすことがわかった。
考 察
先行研究と同様に,本研究でも説明の理解促進効果を確認した。また,既有知識レベルにより,理解増加程度に影響を与えることが明らかにされた。既有知識の少ない人は,説明により理解を深めることはできるが,既有知識が少ないため,実際の説明においては,書くことに依存し,話題導入や内容ポイントの説明といった整然とした説明過程を達成するには困難であることが示唆された。