The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 3:30 PM - 5:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC37] 授業実践における教師の技術

教師の能力観と授業の相関研究

高野春樹 (北海道大学)

Keywords:能力, 授業, 教師

問題と目的
 現代では「新しい時代に求められる資質・能力」を育成する授業づくりが求められる。
 先行研究や文部科学省の答申などを参考にして,「能力」を「教科指導を超えて,他教科にも通じる力,あるいは日常生活の中や教師自身の指導の手から離れた後に役立つ力」と定義する。また,「能力観」を「教師が生徒に習得を望む能力に関する考え」と定義する。
 本研究では,教師がどのような能力の習得を望むのか,そしてそのためにどのような授業をしているのか調査することを通して,能力育成を目指す授業がどのようにして実践されているのかを明らかにする。

先行研究
 先行研究では,藤岡(1994)で教師の「ねがい」と授業デザインの関係について述べられている。
「ねがい」とは,授業を通して子どもにどのような力をつけさせたいか,どのような子どもに育ってほしいかといういわば学習課題や教材に対する教師の教育的価値観である(藤江2010)。このことから,教師の能力観が授業に大きく関係していることが先行研究で分かっている。
 しかし,具体的に,どのような授業技術を取り入れると現代で求められている諸能力を習得することにつながるのかは明らかになっていない。

調査方法
 小中高で授業をしている教師206名を調査対象にした。教師の特性,能力観,その根拠,授業技術について質問紙を通して調査した。なお,調査期間は2017年9月~11月である。

結  果
 まず因子分析を行なった。その結果,能力観については「対自的能力」,「対人的能力」の2つの因子が抽出された。 根拠については,「学校の居場所感」,「他者からの要請」,「授業経験」の3つの因子が抽出された。 授業技術については,「知識活用能力型の授業」,「知識習得効率型の授業」の2つの因子が抽出された。
 次に,授業技術因子を従属変数,教師の基本情報と能力観を独立変数とし,交互作用に基づく重回帰分析を行なった。その結果,小学校と高校の教師に有意な交互作用の効果が認められた。つまり,小学校の教師と高校の教師は他の教師と比べて能力観と授業技術の関係の違いに有意差があることがわかった。このことから,生徒の発達段階によって教師の能力観と授業技術の関係が異なることがいえる。
 最後に,小学校と中学校,高校の教師におけるパス解析を行なった。小学校から高等学校まで一貫して,学校の居場所感が対人的能力の能力観を形成していることがわかった。しかし,学校が進むにつれ,対人的能力が両授業技術に与える影響が低下する。特に,高等学校では居場所感をのための対人的能力を両授業技術に反映させることに困難を抱えている。

考  察
 中高生になると友人関係のあり方が変化し,排他的なチャム・グループやスクールカーストの形成が見られる。対人的能力が発達している子どもがカースト上位に立ち(鈴木2012),これらの要因がいじめの温床になっている。「知識を使う能力」の他にも,「能力を使う能力」も重要であるといえる。
 対自的能力であれ対人的能力であれ,それぞれの能力を育成するために,知識活用能力育成型の授業と知識習得効率型の授業が行われている。両者の授業技術は相反するものではなく両立するべきものではないだろうか。知識活用の重要性がよく強調されるが,その前提である知識の獲得を疎かにしてはならない。