[PC42] 過去のいじめ経験が心理社会的適応に与える影響
力の不均衡と繰り返しによる相違
Keywords:いじめ被害・加害, 力の不均衡, 心理社会的適応
問 題
いじめの従来の定義としてOlweus(1993)があるが,この定義には力の不均衡と繰り返しの2つの特徴が含まれる。森田・清永(1986)の定義にも立場の優位性が含まれる。現在の文部科学省(2017)やいじめ防止対策法の定義にはこれらの2つの特徴が含まれていない。本研究では,これらの特徴がいじめ被害や加害に含まれる否かで,過去のいじめ経験から心理社会的適応への長期的影響に違いが見られないか検討する。
方 法
調査参加者 2016年12月から2017年1月まで大阪府下の大学生254名が調査に参加した。回答不備の者を除き249名(男性102名,女性145名,無記入2名)を分析対象とした。分析対象者の平均年齢は19.86歳(SD = 1.19)であった。
質問紙 現在の心理社会的適応を測定するため自尊感情(山本・松井・山成, 1982),社交不安(笹川・金井・村中・鈴木・嶋田・坂野, 2004),特性怒り(鈴木・春木, 1994),主観的幸福感(島井・大竹・宇都木・池見・Lyubomirsky, 2004)尺度を用いた。社会的望ましさを測定するため谷(2008)のBIDR-Jを用いた。その後,中学生の頃の学校でのいじめ経験を測定するため,「中学生の頃,あなたがいた学校や,部活動などで関わりのある学校の児童や生徒のうち自分より(甲)立場や状況にいる相手から(加害の場合は「に」),いやなことをされたり(したり),言われたりして(言ったりして)苦痛をうけた(あたえた)」という項目を設けた。(甲)には「強い」,「対等な」,「弱い」の3通りを入れた項目を作成した。甲(3)×被害・加害(2)個の項目を用いた。強い,対等な,弱い立場や状況については,腕っぷしの強さ,かしこさ,人気のあるなしあるいは人数で勝るか劣るかなどを合わせて判断するよう冒頭で説明文を記した。選択肢は「0:まったくなかった」,「1:ほとんどなかった」,「2:あまりなかった」,「3:たまにあった」「4:ときどきあった」,「5:よくあった」,「6:とてもよくあった」の7件法を用いた。
手続き いじめ項目については被害から加害の順と加害から被害の順を用意した。2種類の調査票を十分にシャッフルし,参加者に集団で配布した。なお,個人を特定しないことや,回答の途中で辞退できることを伝え,調査参加への同意を得た。
結果と考察
欠損値が見られた自尊感情,社交不安,社会的望ましさ尺度,いじめ項目群の4つに関して別個にランダムフォレスト法による欠損値補完を行った。その後,力の不均衡と繰り返しを考慮したいじめ被害・加害から心理社会的適応への影響を検討するためにカテゴリカル回帰分析を行った。いじめの6項目それぞれについて繰り返しがある場合(反復あり)を4点(ときどきあった)以上とし,繰り返しがない場合(反復なし)を3点以下1点以上とした。予測変数は0点を参照カテゴリとしたいじめ経験の12のダミー変数,女性ダミー変数(0:男性,1:女性),社会的望ましさの下位尺度2変数であった。基準変数は方法に示した4種類の心理社会的適応であった。既存の尺度に関する得点は各尺度の項目の平均値とした。分析の結果をTable 1に示した。自尊感情を除いて,強い相手から反復のある被害の場合に偏回帰係数が心理社会的適応の低下の点で有意か有意傾向であった。社交不安では反復のない被害でも有意であった。いじめ被害から心理社会的適応に影響を与える際,従来からの定義に含まれる特徴,強い者と繰り返しが関与するが,場合によっては繰り返しがなくとも影響を与えることも示唆される。対等で繰り返しがない場合に加害との正の関連も少し見られたが,今後,この点も検討する必要がある。
いじめの従来の定義としてOlweus(1993)があるが,この定義には力の不均衡と繰り返しの2つの特徴が含まれる。森田・清永(1986)の定義にも立場の優位性が含まれる。現在の文部科学省(2017)やいじめ防止対策法の定義にはこれらの2つの特徴が含まれていない。本研究では,これらの特徴がいじめ被害や加害に含まれる否かで,過去のいじめ経験から心理社会的適応への長期的影響に違いが見られないか検討する。
方 法
調査参加者 2016年12月から2017年1月まで大阪府下の大学生254名が調査に参加した。回答不備の者を除き249名(男性102名,女性145名,無記入2名)を分析対象とした。分析対象者の平均年齢は19.86歳(SD = 1.19)であった。
質問紙 現在の心理社会的適応を測定するため自尊感情(山本・松井・山成, 1982),社交不安(笹川・金井・村中・鈴木・嶋田・坂野, 2004),特性怒り(鈴木・春木, 1994),主観的幸福感(島井・大竹・宇都木・池見・Lyubomirsky, 2004)尺度を用いた。社会的望ましさを測定するため谷(2008)のBIDR-Jを用いた。その後,中学生の頃の学校でのいじめ経験を測定するため,「中学生の頃,あなたがいた学校や,部活動などで関わりのある学校の児童や生徒のうち自分より(甲)立場や状況にいる相手から(加害の場合は「に」),いやなことをされたり(したり),言われたりして(言ったりして)苦痛をうけた(あたえた)」という項目を設けた。(甲)には「強い」,「対等な」,「弱い」の3通りを入れた項目を作成した。甲(3)×被害・加害(2)個の項目を用いた。強い,対等な,弱い立場や状況については,腕っぷしの強さ,かしこさ,人気のあるなしあるいは人数で勝るか劣るかなどを合わせて判断するよう冒頭で説明文を記した。選択肢は「0:まったくなかった」,「1:ほとんどなかった」,「2:あまりなかった」,「3:たまにあった」「4:ときどきあった」,「5:よくあった」,「6:とてもよくあった」の7件法を用いた。
手続き いじめ項目については被害から加害の順と加害から被害の順を用意した。2種類の調査票を十分にシャッフルし,参加者に集団で配布した。なお,個人を特定しないことや,回答の途中で辞退できることを伝え,調査参加への同意を得た。
結果と考察
欠損値が見られた自尊感情,社交不安,社会的望ましさ尺度,いじめ項目群の4つに関して別個にランダムフォレスト法による欠損値補完を行った。その後,力の不均衡と繰り返しを考慮したいじめ被害・加害から心理社会的適応への影響を検討するためにカテゴリカル回帰分析を行った。いじめの6項目それぞれについて繰り返しがある場合(反復あり)を4点(ときどきあった)以上とし,繰り返しがない場合(反復なし)を3点以下1点以上とした。予測変数は0点を参照カテゴリとしたいじめ経験の12のダミー変数,女性ダミー変数(0:男性,1:女性),社会的望ましさの下位尺度2変数であった。基準変数は方法に示した4種類の心理社会的適応であった。既存の尺度に関する得点は各尺度の項目の平均値とした。分析の結果をTable 1に示した。自尊感情を除いて,強い相手から反復のある被害の場合に偏回帰係数が心理社会的適応の低下の点で有意か有意傾向であった。社交不安では反復のない被害でも有意であった。いじめ被害から心理社会的適応に影響を与える際,従来からの定義に含まれる特徴,強い者と繰り返しが関与するが,場合によっては繰り返しがなくとも影響を与えることも示唆される。対等で繰り返しがない場合に加害との正の関連も少し見られたが,今後,この点も検討する必要がある。