The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 3:30 PM - 5:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC44] ファミリーミュージカルにおける学びとは何か その2

グループクリエイティビティを重視して

吉田梨乃1, 山中瑞穂2 (1.東京学芸大学大学院, 2.金蘭会保育園)

Keywords:グループクリエイティビティ, ファミリーミュージカル

問題提起
 地域文化活性化の主旨のもと,私立大学と基礎自治体の社会施設が社会教育の観点から「文(文化会館)・学(大学)共同事業」としてファミリーミュージカルを継続的におこなっている。本事業の構造は,舞台登壇者と裏方の舞台構成者から成立する。ファミリーミュージカルというと,役者としての登壇がイメージされるが,実際は裏方も含めた準拠集団化が生じる。そしてこの裏方での参加を数年間希望する学生も多数いる。そこで本研究では,事業に参加する大学生の中でも,特に裏方を希望する学生を分析することで,文・学共同事業としてのファミリーミュージカルへの参加動機と一体感の構造を明らかにする。

方  法
・調査協力者:13名(脚本家,演出家,登壇者,裏方)
・インタビュー項目
(1)ミュージカルのメンバーの一体感はどのように生まれるのか?一体感ができるために大切なことは?
(2)ミュージカルの役者さんと裏方さんの一体感はどのように生まれると思うか
(3)ミュージカルの役者さんと裏方さんの一体感を表すようなエピソード

結  果
 脚本,演出家へのインタビューの結果では,舞台登壇者と裏方を意図的に交流させる工夫以上に,演劇という総合芸術を前提に,舞台登壇者と裏方という役割の区別を意図せず,一体感をファシリテートしようとする傾向が示唆される。
 このファシリテートに支えられ,役者と裏方と間に舞台を成功させようとする一体感と責任感が共有される。この共有には「演劇」が持つ一回性の性質と,「観客からの評価」という他者からの承認効果が機能している。一体感と責任感は緊張感や不安と表裏の関係にある。
 こうした構造に支えられ,舞台発表当日を向かえ,それまでの緊張がピークに達すると同時に,観客からの賞賛とその責任からの開放感が様々な強度のポジティブなフロー体験として経験される。なお,一体感に属さない役者も存在することが明らかにされている。「一体感」とは全体主義的な統制感とは異なっている。

考  察
 Sawyer(2014)はインプロ(即興演劇)やジャズで生み出される「一体感」を「グループクリエイティビティ:Group creativity」として概念化している。グループクリエイティビティとは,即興的な創造活動のやり取りの中で葛藤も含めて生み出される活動プロセスであり,それは参加者全員の協働により創発する創造性である。これまで創造性というと,偉大な芸術作品を生みだすように,創造された結果の評価の大きさを意味することが多かった。
 しかし,Sawyer(2014)はジャズの即興演奏のように,創造の結果の評価ではなく,目的に向かう日常的な協働のプロセスを「創造性」と呼んでいる。ファミリーミュージカルにおける学びは,こうした意味での創造性の学びといえるだろう。