The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PC] ポスター発表 PC(01-76)

Sat. Sep 15, 2018 3:30 PM - 5:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号15:30~16:30 偶数番号16:30~17:30

[PC47] 民間団体による学級単位の人権教育支援の継続要因を探る(Ⅰ)

あるNPOについての事例的検討

柴橋祐子 (千葉工業大学)

Keywords:予防的心理教育支援, 民間の人材資源活用, 支援継続要因

 いじめや暴力,児童虐待をはじめ,子どもたちの人権に関わる問題への心理的支援が求められている。その一つとして,子どもが自らを守り,大人に助けを求めることができる力を育む予防的な支援の意義は大きい。近年,子どもの成長発達を支援するNPO等の民間団体が多くみられ,地域のこうした人材資源の活用は,学校の心理教育的支援の普及において大きな鍵を握るといえよう。しかし,その活動実態や継続要因等に関する研究はまだ少ない。本研究では,その一つとして子どもが暴力から自分を守るためのプログラムであるCAP(Child Assault Prevention)を取り上げ,研究者としての立場から活動の実際やプログラム展開に見られる工夫点を明らかにすること,および,スタッフらへのインタビューを通して,支援継続の要因を探ることを目的とする。

方  法
対象者 A県の認定NPO法人(以下当該NPO)のスタッフ及びワークショップ参加児童・生徒。
調査内容と実施時期 <第1期>2016年2月~5月。 学校長及び当該NPOの承諾のもと,実際のワークショップの参加観察を行った。対象は,K県内公立小学校4年生(1クラス)・中学校1年生(2クラス)の子ども向けCAPワークショップ(以下WS)である。また,当該NPOより活動資料を収集し,整理・集計を行った。<第2期>2016 年7月~8月。当該NPOの承諾を得て主要活動スタッフ12名に面接調査を依頼し,最終的に10名から協力同意が得られた。時間は一人あたり30分から1時間で,自治体の建物の一室を借用し筆者が行った。

結果と考察
 ここでは主に前半の第1期の結果について報告し,第2期の結果については別の機会に行う。
(1)当該NPOの活動実績の集計結果から 
 2004年~2015年まで12年間の活動実績を整理した。WS実施回数は,子ども向け4381回,大人向け613回,計4994回,参加者は子ども12万9812人,大人3万4,534人の計15万7348人であった。小学校が全体の90%以上を占める。実施回数は2006年の834回をピークにその後逓減し,20013年以降は200回ほどである。ピーク時はスタッフが手分けをし,ほぼ毎日小中学校を訪れ,数クラスを対象にプログラムを実施していたという。対象校は同じ県内でも地域差が大きく,教育委員会や学校側とつながりがある市では全校対象に何年も継続的に実施され,その一方近隣でも実施要請がない市もある。活動資金は,自治体からの支援,学校内の教育予算,企業の寄付によって従来支えられていたが,この数年は予算削減の中,市民の寄付金に移行しつつある。
(2)CAPワークショップの特徴
プログラム構成:①大人側の理解を促す為,子ども向けWSと必ずセットで保護者・教員向けWSを実施する。②スタッフは3人一組で要請のあった学校を訪問し,特定の子どもではなく,学級全体を対象にWSを行う(1回)。③WSの流れは基本的に一定で「人権の理解→暴力から自分を守る方法についてのロールプレイ(3場面)→個別フォロー」の順に行われる。④就学前や小学校低学年,高学年など発達段階を考慮した内容が準備されている。
「ライブ感」と複数スタッフの存在:年齢も雰囲気も様々な3人のスタッフが,場面ごとに役を替えながら生き生きとロールプレイを演じ,子どもたちが身近な出来事としてそこに引き寄せられていく様子が共通してみられた。さらに仲間が劇に加わると注目はより高まっていった。この「ライブ感」がCAPのWSの大きなポイントといえる。また,複数のスタッフが様々なタイプを演じるため,子どもはその中に共感できる姿を見出ているようであった。場面展開がスムーズでスタッフ間のやり取りもテンポがよく,深刻な問題を扱いながらも重くなりすぎない配慮がなされていた。クラス全体に目を配り,細かなフォローがさりげなく行われる様子もみられ,一人で行う支援との違いがこれらに認められた。

まとめと今後の課題
 CAPの特徴として,一定の基本的な枠組みがあること,学級単位であること,複数のスタッフが演じるロールプレイのライブ感,プログラム構成の分かりやすさが見いだされた。今後は,他の支援の実態も踏まえつつ,時代の流れの中での心理支援へのニーズの変化を検証することが課題である。