[PC49] 失敗経験後の森田神経質者における有効な自己教示的対処
Keywords:森田神経質, 対処的自己教示, アクセプタンス自己教示
森田療法とは,神経症における様々な症状を“とらわれ”という認知・行動の悪循環の結果から捉えた(森田,1928)本邦独自の精神療法である。治療の主眼は,現実生活の感情体験を通した神経症的な認知の自覚・修正であり,それによって“とらわれ”の打破を目指すものである。一般的には入院療法が広く知られているが,近年では精神科外来・学生相談のような入院を必要としないケースにも拡充されつつある,有効な介入法である。
ただし,森田療法における治療理論の実証性は,いまだに十分とは言い難い。結果的に不安が増幅される現象としての“とらわれ”は,独特な表現による構成概念の複雑かつ多彩な結びつきから説明されているため,実際にどのような認知的・行動的対処から構成されているのかは不明な点も多い(清水・清水,2014)。
本研究では,森田神経質者が失敗経験をした後,どのような自己教示的な対処(問題に積極的に取り組む“対処的自己教示”,不安をそのままにする“アクセプタンス自己教示”(松本,2014)を参考)が望ましいのか検討することを目的とした。
方 法
分析の対象となったのは,大学生51名(男性11名,女性40名)であった。平均年齢は20.00歳(SD=1.79歳)であった。各条件の人数は対処的自己教示(以下,Co自己教示)群が26名で,アクセプタンス自己教示(以下,Ac自己教示)群が25名であり,無作為に割り当てた。
質問紙の構成
a)森田神経質尺度:清水・清水(2014)の強迫的構えを使用,7項目,5件法(M=19.3,SD=5.16)
b)状態自尊感情尺度:阿部・今野(2007)から5項目を選定して使用,5件法。
c)心理的ストレス反応尺度(鈴木他,1997)
の「抑うつ・不安」「不機嫌怒り」「無気力」各3項目を選定して使用,4件法。
d)VAS法によって気分状態を測定
「気分の不快感」「不安感」「緊張感」を0~10cmの直線上で回答を求めた。
◆操作チェック項目
e)課題の難易度 f)課題の達成度 g)課題の満足度 h)自己教示の達成度 全て7件法で回答。
◆統制変数
i)数学の得意度 j)数学の自信度 7件法で回答。
Figure 1に本実験における全体的な流れを示した。
結 果
まずb)~c)の各変数についてTimeの主効果を検討したところ,全てT1からT2にかけてネガティブな反応を強めていた。これは,フィードバックが失敗経験として機能していたことを示している。そして,統制変数を投入した上で森田神経質(高・低群)×自己教示(Co・Ac)×Time(1~3)の3要因混合計画による分散分析を行った。
その結果,状態自尊心において有意な2次の交互作用が示され(Figure 2),森田神経質低・高群ともにAc自己教示が状態自尊心の回復(T2<T3)に有効であったことが示唆された。
考 察
森田療法では,不安に対する対処として安易な安心を得ようとする“はからい”ではなく,不安をそのままにしておく“あるがまま”の態度が重要であるとされている。本研究の結果では,森田神経質が高い人々が失敗を経験した後には,Co自己教示ではなく,あるがままの態度を体現するAc自己教示が有効であることが示されていた。
これは,森田神経質者には不安の受容的対処が求められるとの森田理論を支持するものであった。
ただし,森田療法における治療理論の実証性は,いまだに十分とは言い難い。結果的に不安が増幅される現象としての“とらわれ”は,独特な表現による構成概念の複雑かつ多彩な結びつきから説明されているため,実際にどのような認知的・行動的対処から構成されているのかは不明な点も多い(清水・清水,2014)。
本研究では,森田神経質者が失敗経験をした後,どのような自己教示的な対処(問題に積極的に取り組む“対処的自己教示”,不安をそのままにする“アクセプタンス自己教示”(松本,2014)を参考)が望ましいのか検討することを目的とした。
方 法
分析の対象となったのは,大学生51名(男性11名,女性40名)であった。平均年齢は20.00歳(SD=1.79歳)であった。各条件の人数は対処的自己教示(以下,Co自己教示)群が26名で,アクセプタンス自己教示(以下,Ac自己教示)群が25名であり,無作為に割り当てた。
質問紙の構成
a)森田神経質尺度:清水・清水(2014)の強迫的構えを使用,7項目,5件法(M=19.3,SD=5.16)
b)状態自尊感情尺度:阿部・今野(2007)から5項目を選定して使用,5件法。
c)心理的ストレス反応尺度(鈴木他,1997)
の「抑うつ・不安」「不機嫌怒り」「無気力」各3項目を選定して使用,4件法。
d)VAS法によって気分状態を測定
「気分の不快感」「不安感」「緊張感」を0~10cmの直線上で回答を求めた。
◆操作チェック項目
e)課題の難易度 f)課題の達成度 g)課題の満足度 h)自己教示の達成度 全て7件法で回答。
◆統制変数
i)数学の得意度 j)数学の自信度 7件法で回答。
Figure 1に本実験における全体的な流れを示した。
結 果
まずb)~c)の各変数についてTimeの主効果を検討したところ,全てT1からT2にかけてネガティブな反応を強めていた。これは,フィードバックが失敗経験として機能していたことを示している。そして,統制変数を投入した上で森田神経質(高・低群)×自己教示(Co・Ac)×Time(1~3)の3要因混合計画による分散分析を行った。
その結果,状態自尊心において有意な2次の交互作用が示され(Figure 2),森田神経質低・高群ともにAc自己教示が状態自尊心の回復(T2<T3)に有効であったことが示唆された。
考 察
森田療法では,不安に対する対処として安易な安心を得ようとする“はからい”ではなく,不安をそのままにしておく“あるがまま”の態度が重要であるとされている。本研究の結果では,森田神経質が高い人々が失敗を経験した後には,Co自己教示ではなく,あるがままの態度を体現するAc自己教示が有効であることが示されていた。
これは,森田神経質者には不安の受容的対処が求められるとの森田理論を支持するものであった。