[PC58] 特別支援学校における実物大恐竜図を体感する授業の開発(2)
Keywords:特別支援学校, 実物大恐竜図, 授業
目 的
特別支援学校において,大昔の動物である恐竜を取り上げた授業実践例に着目し検討を行う。
新たに小学部の児童を対象に1)大昔に生きていた動物として,恐竜に興味を持つことができるようにすること,2)自分たち人間よりも大きな動物として恐竜の大きさを体感しつつわかることの実現を目指した授業を開発することを目的とする。
小学部における実践
方 法
学習者:単一の知的障害又は先天性の重複障害があり,特別支援学校小学部に在籍する6名。認知能力等が1歳半から4歳程度と幅がある異年齢集団で,言語による対話が可能である児童は3名,手話やサイン,ジェスチャーを用いる児童が3名である。全員簡単な口頭指示を理解でき,友達や物への興味関心が高まっている児童と自閉的な児童が一緒に活動することが可能である。
手続き:実践は,主指導1名を含めたクラス担任3名が共同で行う。恐竜について知る方法として,日頃から取り組んでいる絵本の読み聞かせで恐竜を題材としたものを扱う。大きさを体感するトリケラトプスの実物恐竜図を用いる際には,危険回避のルールを徹底し安全に配慮することを目的として,児童が在籍する教室で授業を行う。
結果と考察
実物恐竜図を見せる流れとして,絵本「ぼくきょうりゅうになったんだ」(ブラックストーン・ビートン2007)の読み聞かせを行い,本作品に登場する「トリケラトプスのジョンが遊びにきた」と設定した。すると,全児童が拒否することなく実物恐竜図を注視できた。これは,絵本を通して実物恐竜図を見る流れについて見通しを持ち,初見のものに対する恐怖感や不安感を軽減することができたためと考えられる。「お名前は?」「何が好き?」等の児童の質問に,恐竜の鳴き声の音声を流してやりとりをする演出では,驚きつつも興奮して声を出す様子や笑顔がみられた。また,慣れたHR教室で行ったことで「走らない・待つ」のルールを守り,肢体不自由の児童と多動性・衝動性が強い児童が共に落ち着いて実物恐竜図の上に乗り,寝転ぶことができた。各児童が自由に動き回りながら,教師とのやりとりを通してからだの部位を見たり,移動して触ったりすることができた。その中で「僕のほうが大きい」と大きさに関する発言もあった。この児童は大小について学習中で比較内容は間違っていたが,教師が児童よりジョンが大きいことを伝えると復唱することができた。
実物恐竜図を片付ける際には「また来てね」と児童が自発的に声をかける様子がみられ,次回への期待感を持つことができたと考えられる。
事前に行った絵本の読み聞かせは,授業実践前の4日間行い,内容や対象年齢を3段階に分けた絵本を3冊ずつ用意して休み時間に児童が自由に閲覧できるようにした。徐々に知った恐竜の名前を言う,恐竜の鳴き声のセリフをオウム返しする場面がみられ,恐竜に対する興味関心を高める効果があったと考えられる。特に,擬音語や鳴き声が多い「きょうりゅうどーん」(広瀬2016)や「わー恐竜だ!」(黒川1990)は,指で辿りながら読む様子がみられた。仕掛け絵本の「きょうりゅうじまだいぼうけん」(間瀬2011)や同じ恐竜を探す「さがそう!マイゴノサウルス」(やました2015)は,恐竜の姿形を確認しながら読む姿がみられた。普段自発的な読書が難しい児童達が読み慣れない内容やイラストであるにも関わらず,教師の誘い応じて読むことができた。このように発達段階に応じた絵本による読み聞かせが恐竜への興味関心を高め,実践内容の受容にも影響があったと考えられる。引き続き,絵本を活用し,動物概念に焦点を当てた恐竜実物大図の実践を検討する。
討 論
本研究は,特別支援学校における授業実践を通して,実物大恐竜図に全身で安全に触れることができる工夫を取り入れた支援を開発し,恐竜への興味喚起と恐竜の大きさへの理解が実感を伴って可能となる過程を解明しようとする探索的研究に位置づく。小林・吉國・棚倉による高等部での実践発表では,体育館上部から俯瞰した映像を1階TVに映す工夫とマット上に実物大恐竜図を敷く工夫という2つの支援の工夫により,恐竜の好きな部位を自ら選び触れたり寝ころんだりする生徒の活動が導かれた。新たに本研究では,事前に恐竜に関する絵本の読み聞かせを行い,絵本に登場する恐竜が学校へ遊びにきたという文脈を創出して実物大恐竜図を提示する工夫により,児童らが拒否せず注視することができた。児童らの反応の細やかな変化の把握が,今後の課題である。
特別支援学校において,大昔の動物である恐竜を取り上げた授業実践例に着目し検討を行う。
新たに小学部の児童を対象に1)大昔に生きていた動物として,恐竜に興味を持つことができるようにすること,2)自分たち人間よりも大きな動物として恐竜の大きさを体感しつつわかることの実現を目指した授業を開発することを目的とする。
小学部における実践
方 法
学習者:単一の知的障害又は先天性の重複障害があり,特別支援学校小学部に在籍する6名。認知能力等が1歳半から4歳程度と幅がある異年齢集団で,言語による対話が可能である児童は3名,手話やサイン,ジェスチャーを用いる児童が3名である。全員簡単な口頭指示を理解でき,友達や物への興味関心が高まっている児童と自閉的な児童が一緒に活動することが可能である。
手続き:実践は,主指導1名を含めたクラス担任3名が共同で行う。恐竜について知る方法として,日頃から取り組んでいる絵本の読み聞かせで恐竜を題材としたものを扱う。大きさを体感するトリケラトプスの実物恐竜図を用いる際には,危険回避のルールを徹底し安全に配慮することを目的として,児童が在籍する教室で授業を行う。
結果と考察
実物恐竜図を見せる流れとして,絵本「ぼくきょうりゅうになったんだ」(ブラックストーン・ビートン2007)の読み聞かせを行い,本作品に登場する「トリケラトプスのジョンが遊びにきた」と設定した。すると,全児童が拒否することなく実物恐竜図を注視できた。これは,絵本を通して実物恐竜図を見る流れについて見通しを持ち,初見のものに対する恐怖感や不安感を軽減することができたためと考えられる。「お名前は?」「何が好き?」等の児童の質問に,恐竜の鳴き声の音声を流してやりとりをする演出では,驚きつつも興奮して声を出す様子や笑顔がみられた。また,慣れたHR教室で行ったことで「走らない・待つ」のルールを守り,肢体不自由の児童と多動性・衝動性が強い児童が共に落ち着いて実物恐竜図の上に乗り,寝転ぶことができた。各児童が自由に動き回りながら,教師とのやりとりを通してからだの部位を見たり,移動して触ったりすることができた。その中で「僕のほうが大きい」と大きさに関する発言もあった。この児童は大小について学習中で比較内容は間違っていたが,教師が児童よりジョンが大きいことを伝えると復唱することができた。
実物恐竜図を片付ける際には「また来てね」と児童が自発的に声をかける様子がみられ,次回への期待感を持つことができたと考えられる。
事前に行った絵本の読み聞かせは,授業実践前の4日間行い,内容や対象年齢を3段階に分けた絵本を3冊ずつ用意して休み時間に児童が自由に閲覧できるようにした。徐々に知った恐竜の名前を言う,恐竜の鳴き声のセリフをオウム返しする場面がみられ,恐竜に対する興味関心を高める効果があったと考えられる。特に,擬音語や鳴き声が多い「きょうりゅうどーん」(広瀬2016)や「わー恐竜だ!」(黒川1990)は,指で辿りながら読む様子がみられた。仕掛け絵本の「きょうりゅうじまだいぼうけん」(間瀬2011)や同じ恐竜を探す「さがそう!マイゴノサウルス」(やました2015)は,恐竜の姿形を確認しながら読む姿がみられた。普段自発的な読書が難しい児童達が読み慣れない内容やイラストであるにも関わらず,教師の誘い応じて読むことができた。このように発達段階に応じた絵本による読み聞かせが恐竜への興味関心を高め,実践内容の受容にも影響があったと考えられる。引き続き,絵本を活用し,動物概念に焦点を当てた恐竜実物大図の実践を検討する。
討 論
本研究は,特別支援学校における授業実践を通して,実物大恐竜図に全身で安全に触れることができる工夫を取り入れた支援を開発し,恐竜への興味喚起と恐竜の大きさへの理解が実感を伴って可能となる過程を解明しようとする探索的研究に位置づく。小林・吉國・棚倉による高等部での実践発表では,体育館上部から俯瞰した映像を1階TVに映す工夫とマット上に実物大恐竜図を敷く工夫という2つの支援の工夫により,恐竜の好きな部位を自ら選び触れたり寝ころんだりする生徒の活動が導かれた。新たに本研究では,事前に恐竜に関する絵本の読み聞かせを行い,絵本に登場する恐竜が学校へ遊びにきたという文脈を創出して実物大恐竜図を提示する工夫により,児童らが拒否せず注視することができた。児童らの反応の細やかな変化の把握が,今後の課題である。