[PC63] 小学校における運動会での傾倒体験と心理的適応
その効果の大きさは担任教師の性格によって異なるのか
Keywords:学校行事, 発達, マルチレベルSEM
問題と目的
運動会や学芸会といった学校行事は,年中行われており,学習指導要領において,全ての学校で実施すべき活動と定められている(文部科学省, 2008)。しかし,その教育的機能については,未だ十分に実証的な検討が蓄積されているとはいえず,検討が必要である(河本, 2012)。学校行事のうち,小学校における運動会は,多くの学校で行われる学校行事の一つである。学校行事における傾倒は,その後の発達上,有用な意味を有すると報告されているが(河本, 2014),集団単位での活動の多い運動会においては,その発達上,個人として運動系に傾倒することよりも,集団全体で傾倒する風土のほうが重要である可能性もあり,個人と集団のレベルを分離した上で,その効果を検討することは重要と考えられる。また,小学校の運動会においては,少なからぬ担任教師の支援があり,その支援の仕方には,広範な個人差があると想定される。そして,その支援には教師の性格が一定の影響を及ぼしていると考えられるが,教師の性格特性によって,運動会への傾倒体験の効果は異なるのだろうか。以上より本研究では,小学校の運動会での傾倒体験が,いかにその後の心理的適応に関連するのか,さらに,その関連の大きさに教師の性格特性が関わるかの検討を行う。
方 法
国立教育政策研究所H27-28年度プロジェクト研究 「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法について」 で2015年度1-3月に収集されたデータを用いて分析を行った。そのうち,本研究では,関東圏の小学校15校の4・5年生(95学級,3,066名)を対象としたデータのうち,一番思い出に残っている行事として「運動会・体育祭」を選択し,その行事でクラスと最も深く関与したと回答した小学生247名と,その担任教師を対象とした分析結果の報告を行う。分析に用いた項目内容は以下の通りである。
印象的な学校行事の活動内容 児童を対象に,「今年行った学校行事の中で,頑張って関わったかどうかに関わらず一番思い出に残っている学校行事を1つ選んでください」という教示の基,「学芸会・文化祭」,「合唱コンクール」,「運動会・体育祭」,「遠足(校外学習)」,「宿泊行事(修学旅行・林間学校等)」,「その他の学校行事」の中から一つ,活動内容を選択させた。
学校行事で最も関わった集団 児童を対象に,「その学校行事であなたが一番関わった人たちは誰ですか」という教示の基,「同じクラスの人たち」,「同じ学年の人たち」,「実行委員の人たち」,「別の学年の人たち(たて割り)」,「その他の人たち」の中からの一つ,選択させた。
学校行事への参加 児童を対象に,自身が行事に対して,どの程度,傾倒していたかを測定した(河本, 2014)。5件法で回答を求めた。
幸福感 児童を対象に,日本語版WHO-5精神健康状態表を用いて,幸福感を測定した(WHO-5-J: Bech, Gudex, & Staehr Johansen, 1996; 日本語版Awata et al., 2007)。(0)まったくない-(5)いつも の6件法で回答を求めた。
担任教師のパーソナリティ特性 担任教師のパーソナリティ特性を測定するため,担任教師を対象に,日本語版Ten Item Personality Inventory を用いた(TIPI-J; Gosling, Rentfrow, & Swann, 2003; 日本語版 小塩・阿部・カトローニ, 2012)。7件法で回答を求めた。
結果と考察
Mplus ver.7(Muthén & Muthén, 2012)を用いてマルチレベルSEMを行った結果,個人レベルの運動会への傾倒が,幸福感に関連しており,集団レベルの運動会への傾倒は,幸福感に関連していなかった。さらに,担任教師の性格特性のうち,誠実性についてのみ,個人レベルの運動会への傾倒から幸福感に対する交互作用が認められ,担任教師の誠実性が高いほど,個人レベルの運動会への傾倒と幸福感との関連の大きさが大きいことが明らかになった。
ここから,小学校の運動会において,クラスと最も深く関わった児童については,児童個人が運動会に傾倒することが,その後の幸福感の高さに対して有用である可能性が示唆された。さらに,担任教師の誠実性が高い場合には,学校行事に傾倒することの効果が,よりいっそう大きくなる可能性が示唆された。
付 記
本研究は,国立教育政策研究所プロジェクト研究 「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法について」において収集されたデータを活用しております。また,分析は,公益財団法人博報児童教育振興会第11回児童教育実践についての研究の助成を受けて行われました。
運動会や学芸会といった学校行事は,年中行われており,学習指導要領において,全ての学校で実施すべき活動と定められている(文部科学省, 2008)。しかし,その教育的機能については,未だ十分に実証的な検討が蓄積されているとはいえず,検討が必要である(河本, 2012)。学校行事のうち,小学校における運動会は,多くの学校で行われる学校行事の一つである。学校行事における傾倒は,その後の発達上,有用な意味を有すると報告されているが(河本, 2014),集団単位での活動の多い運動会においては,その発達上,個人として運動系に傾倒することよりも,集団全体で傾倒する風土のほうが重要である可能性もあり,個人と集団のレベルを分離した上で,その効果を検討することは重要と考えられる。また,小学校の運動会においては,少なからぬ担任教師の支援があり,その支援の仕方には,広範な個人差があると想定される。そして,その支援には教師の性格が一定の影響を及ぼしていると考えられるが,教師の性格特性によって,運動会への傾倒体験の効果は異なるのだろうか。以上より本研究では,小学校の運動会での傾倒体験が,いかにその後の心理的適応に関連するのか,さらに,その関連の大きさに教師の性格特性が関わるかの検討を行う。
方 法
国立教育政策研究所H27-28年度プロジェクト研究 「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法について」 で2015年度1-3月に収集されたデータを用いて分析を行った。そのうち,本研究では,関東圏の小学校15校の4・5年生(95学級,3,066名)を対象としたデータのうち,一番思い出に残っている行事として「運動会・体育祭」を選択し,その行事でクラスと最も深く関与したと回答した小学生247名と,その担任教師を対象とした分析結果の報告を行う。分析に用いた項目内容は以下の通りである。
印象的な学校行事の活動内容 児童を対象に,「今年行った学校行事の中で,頑張って関わったかどうかに関わらず一番思い出に残っている学校行事を1つ選んでください」という教示の基,「学芸会・文化祭」,「合唱コンクール」,「運動会・体育祭」,「遠足(校外学習)」,「宿泊行事(修学旅行・林間学校等)」,「その他の学校行事」の中から一つ,活動内容を選択させた。
学校行事で最も関わった集団 児童を対象に,「その学校行事であなたが一番関わった人たちは誰ですか」という教示の基,「同じクラスの人たち」,「同じ学年の人たち」,「実行委員の人たち」,「別の学年の人たち(たて割り)」,「その他の人たち」の中からの一つ,選択させた。
学校行事への参加 児童を対象に,自身が行事に対して,どの程度,傾倒していたかを測定した(河本, 2014)。5件法で回答を求めた。
幸福感 児童を対象に,日本語版WHO-5精神健康状態表を用いて,幸福感を測定した(WHO-5-J: Bech, Gudex, & Staehr Johansen, 1996; 日本語版Awata et al., 2007)。(0)まったくない-(5)いつも の6件法で回答を求めた。
担任教師のパーソナリティ特性 担任教師のパーソナリティ特性を測定するため,担任教師を対象に,日本語版Ten Item Personality Inventory を用いた(TIPI-J; Gosling, Rentfrow, & Swann, 2003; 日本語版 小塩・阿部・カトローニ, 2012)。7件法で回答を求めた。
結果と考察
Mplus ver.7(Muthén & Muthén, 2012)を用いてマルチレベルSEMを行った結果,個人レベルの運動会への傾倒が,幸福感に関連しており,集団レベルの運動会への傾倒は,幸福感に関連していなかった。さらに,担任教師の性格特性のうち,誠実性についてのみ,個人レベルの運動会への傾倒から幸福感に対する交互作用が認められ,担任教師の誠実性が高いほど,個人レベルの運動会への傾倒と幸福感との関連の大きさが大きいことが明らかになった。
ここから,小学校の運動会において,クラスと最も深く関わった児童については,児童個人が運動会に傾倒することが,その後の幸福感の高さに対して有用である可能性が示唆された。さらに,担任教師の誠実性が高い場合には,学校行事に傾倒することの効果が,よりいっそう大きくなる可能性が示唆された。
付 記
本研究は,国立教育政策研究所プロジェクト研究 「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法について」において収集されたデータを活用しております。また,分析は,公益財団法人博報児童教育振興会第11回児童教育実践についての研究の助成を受けて行われました。