[PD01] 情報生態学的人格発達論の試み
放送大学大学院「研究指導」を事例にして
Keywords:大学院教育, 研究, 情報生態学
問題と目的
本研究は,高橋(2016・2017b)と同じ,放送大学大学院での「研究指導」のあり方について,高橋(2016)と同じ方法でインタビュー調査を追加して実施した結果を報告するものである。大学院生の「研究」概念やその活動について興味深い結果が得られ,情報生態学的人格発達論(高橋, 2017a)の観点から考察を行うことが可能となった。
方 法
参加者 放送大学大学院修士課程を2017年度に終了見込みの学生3名(以下学生F・G・H)が参加した。いずれも男性で,学生Fと学生Gとは有職者であった。インタビュー時,学生Fは44才,学生Gは40才,学生Hは57才であった。
高橋(2016)の参加者3名(以下学生A・B・C)の属性は以下の通りである。学生A・Bは同課程を2014年度に,学生Cは2015年度に終了した。いずれも有職者であり,学生Cのみ女性である。インタビュー時,学生Aは52才,学生Bは60才,学生Cは42才であった。
高橋(2017b)の参加者2名(以下学生D・E)の属性は,いずれも有職者,男性,インタビュー時38才であった。
材料 インタビューでの回答の手掛かりとして,「研究線表」を用意した。横軸に時間軸(願書提出から修士課程修了後まで)を月単位で示し,縦軸に,全体として,動機づけ,調査量,データ収集,システム開発,論文執筆,その他の基準を設け,それぞれで「絶好調+3から絶不調-3」の7段階で,どのように変化したのかを曲線の波で示すことができるようにしている。同様に,「人生線表」も用意した。横軸に時間軸(現在から生年0才まで)を年単位で,縦軸に,全体として,家族,仕事,研究,勉強,趣味,その他の基準を設け,それぞれで「絶好調+3から絶不調-3」の7段階で,どのように変化したのかを曲線の波で示すことができるようにしている。
手続き 参加者が所属する学習センターにおいて約2時間の半構造化インタビューを実施した。インタビューでは,学歴,就業歴,放送大学入学,同大学院受験について話すことを求めた後,「研究指導」の開始から終了まで,「研究線表」を参照しながら話すことを求めた。「研究指導」では,おおよそ半年毎にレポート提出を求めており,最後のレポート4が修士論文完成版に相当する。その後,口頭試問(発表会)に合格して「研究指導」の単位を修得することができる。そこで,インタビューにおいても,4つのレポート提出に向けての研究および学習活動について話すことを求めた。インタビューの後半では「人生線表」も提示して,「研究線表」とあわせて,1週間程度で記入して提出するように求めて,インタビューを終了した。
データ分析 インタビューは書き起こしを作成後,内容分析を行った。
結果と考察
学生Fは,高橋(2016・2017b)と同じ結果であるが,経済的に自立しておりキャリアアップの必要性が高いわけではなく,純粋な知的好奇心によって,大学院に出願,合格し,修士課程の研究を実践したと言える。すなわち,学生Fは大学卒業後,IT系の企業に就職し技術者としての経験を積んできたが,管理職になり,自分の技術者としての知識や技能が過去のものになったことに危機感を感じるとともに,IT系の企業業界でほとんど取り組まれていない活動があることに気づき,放送大学修士課程に進学し,自分の知識や技能をブラッシュアップするとともに,研究テーマを設定し,研究を実践した。
学生Gと学生Hとについては,高橋(2016・2017b)の枠組みでは解釈することができない事例となった。
学生Gは大学に進学するも,個人的な事情と勧誘もあり大学2年で退学し,精密機械の製造会社に就職した。しかし製造部門から営業部門に移動したことに伴い退社し,IT系のコンサルタントとして個人事業活動を開始した。その後,放送大学に入学し4.5年で卒業した。結婚を機に,妻の実家の法人に勤務し,IT部門を担当している。その後子供を授かったことを機に,放送大学大学院修士課程へ進学したが,将来は博士課程への進学を希望している。
学生Hは国立大学大学院修士課程を修了後,地理情報システム関連の企業に就職し技術者として経験を積むとともに,省庁からの委託業務にも携わってきた。2011.3.11に発生した東日本大震災を機に,緊急時・危機時のITインフラやサービスの在り方について思索を深めるために,2013.2には退職し,その後定職には就かずに,2013.4には放送大学大学院修士課程に入学し研究活動を実践しており,将来も学籍を残して同じ活動を実践し続ける予定である。修士論文を提出するまでに,在学年限の5年を有したが,その間,研究テーマに関連する学協会などの行事に,放送大学大学院学生の身分で参加して,研究活動を実践し続けてきた。
情報生態学的人格発達論の構築へ向けて コンテンツ,メディア,受信者の関係の中で人間の活動とその発達を捉える森(2003)の論考と,高橋(2007)による情報生態学の枠組みから,高橋(2017a)は情報生態学的人格発達論を提示した。学生Gの「子供に父親の姿を見せる」という事例,学生Hの「過去の蓄えを切り崩しながら研究活動を実践する」「研究活動を実践するために放送大学(大学院)学生という身分でいる」という事例は,自らを「メディア」と見なして,研究という「コンテンツ」の実践活動をしていく,と捉えることができるだろう。
付 記
本研究の一部は,平成29年度放送大学学長裁量経費ならびに平成29年度放送大学教育振興会の助成を得て実施したものである。
本研究は,高橋(2016・2017b)と同じ,放送大学大学院での「研究指導」のあり方について,高橋(2016)と同じ方法でインタビュー調査を追加して実施した結果を報告するものである。大学院生の「研究」概念やその活動について興味深い結果が得られ,情報生態学的人格発達論(高橋, 2017a)の観点から考察を行うことが可能となった。
方 法
参加者 放送大学大学院修士課程を2017年度に終了見込みの学生3名(以下学生F・G・H)が参加した。いずれも男性で,学生Fと学生Gとは有職者であった。インタビュー時,学生Fは44才,学生Gは40才,学生Hは57才であった。
高橋(2016)の参加者3名(以下学生A・B・C)の属性は以下の通りである。学生A・Bは同課程を2014年度に,学生Cは2015年度に終了した。いずれも有職者であり,学生Cのみ女性である。インタビュー時,学生Aは52才,学生Bは60才,学生Cは42才であった。
高橋(2017b)の参加者2名(以下学生D・E)の属性は,いずれも有職者,男性,インタビュー時38才であった。
材料 インタビューでの回答の手掛かりとして,「研究線表」を用意した。横軸に時間軸(願書提出から修士課程修了後まで)を月単位で示し,縦軸に,全体として,動機づけ,調査量,データ収集,システム開発,論文執筆,その他の基準を設け,それぞれで「絶好調+3から絶不調-3」の7段階で,どのように変化したのかを曲線の波で示すことができるようにしている。同様に,「人生線表」も用意した。横軸に時間軸(現在から生年0才まで)を年単位で,縦軸に,全体として,家族,仕事,研究,勉強,趣味,その他の基準を設け,それぞれで「絶好調+3から絶不調-3」の7段階で,どのように変化したのかを曲線の波で示すことができるようにしている。
手続き 参加者が所属する学習センターにおいて約2時間の半構造化インタビューを実施した。インタビューでは,学歴,就業歴,放送大学入学,同大学院受験について話すことを求めた後,「研究指導」の開始から終了まで,「研究線表」を参照しながら話すことを求めた。「研究指導」では,おおよそ半年毎にレポート提出を求めており,最後のレポート4が修士論文完成版に相当する。その後,口頭試問(発表会)に合格して「研究指導」の単位を修得することができる。そこで,インタビューにおいても,4つのレポート提出に向けての研究および学習活動について話すことを求めた。インタビューの後半では「人生線表」も提示して,「研究線表」とあわせて,1週間程度で記入して提出するように求めて,インタビューを終了した。
データ分析 インタビューは書き起こしを作成後,内容分析を行った。
結果と考察
学生Fは,高橋(2016・2017b)と同じ結果であるが,経済的に自立しておりキャリアアップの必要性が高いわけではなく,純粋な知的好奇心によって,大学院に出願,合格し,修士課程の研究を実践したと言える。すなわち,学生Fは大学卒業後,IT系の企業に就職し技術者としての経験を積んできたが,管理職になり,自分の技術者としての知識や技能が過去のものになったことに危機感を感じるとともに,IT系の企業業界でほとんど取り組まれていない活動があることに気づき,放送大学修士課程に進学し,自分の知識や技能をブラッシュアップするとともに,研究テーマを設定し,研究を実践した。
学生Gと学生Hとについては,高橋(2016・2017b)の枠組みでは解釈することができない事例となった。
学生Gは大学に進学するも,個人的な事情と勧誘もあり大学2年で退学し,精密機械の製造会社に就職した。しかし製造部門から営業部門に移動したことに伴い退社し,IT系のコンサルタントとして個人事業活動を開始した。その後,放送大学に入学し4.5年で卒業した。結婚を機に,妻の実家の法人に勤務し,IT部門を担当している。その後子供を授かったことを機に,放送大学大学院修士課程へ進学したが,将来は博士課程への進学を希望している。
学生Hは国立大学大学院修士課程を修了後,地理情報システム関連の企業に就職し技術者として経験を積むとともに,省庁からの委託業務にも携わってきた。2011.3.11に発生した東日本大震災を機に,緊急時・危機時のITインフラやサービスの在り方について思索を深めるために,2013.2には退職し,その後定職には就かずに,2013.4には放送大学大学院修士課程に入学し研究活動を実践しており,将来も学籍を残して同じ活動を実践し続ける予定である。修士論文を提出するまでに,在学年限の5年を有したが,その間,研究テーマに関連する学協会などの行事に,放送大学大学院学生の身分で参加して,研究活動を実践し続けてきた。
情報生態学的人格発達論の構築へ向けて コンテンツ,メディア,受信者の関係の中で人間の活動とその発達を捉える森(2003)の論考と,高橋(2007)による情報生態学の枠組みから,高橋(2017a)は情報生態学的人格発達論を提示した。学生Gの「子供に父親の姿を見せる」という事例,学生Hの「過去の蓄えを切り崩しながら研究活動を実践する」「研究活動を実践するために放送大学(大学院)学生という身分でいる」という事例は,自らを「メディア」と見なして,研究という「コンテンツ」の実践活動をしていく,と捉えることができるだろう。
付 記
本研究の一部は,平成29年度放送大学学長裁量経費ならびに平成29年度放送大学教育振興会の助成を得て実施したものである。