[PD16] 偶発学習における分散効果
生存処理と快-不快処理の比較
Keywords:偶発学習, 分散効果
問題と目的
Nairneら(2007) は単語の指示する対象に対して生存に必要か否かの判断を求める生存処理が他の処理(e.g.快-不快処理)よりも高い記憶成績を示した。彼らはこの結果を人間の記憶システムは生存のために必要な情報を保持する機能をもつ適応記憶(adaptive memory)によって解釈した。学習内容を集中提示するよりも,分散提示する場合が記憶成績の良いという現象は分散効果と呼ばれているが,それは符号化の豊富さによって解釈されることが多い。適応記憶システムが有効に機能するならば,生存処理を行った方が快-不快処理を行う場合よりも符号化が豊富になり,分散効果量(分散と集中提示間の差)が大きくなると予想される。豊田(2017)はこの予想を支持する結果を見いだしたが,リスト構成において統制できていない点があった。そこで,本研究の目的はその点を改善して上記の予想を検討することである。
方 法
実験計画 2 (提示形式;集中提示,分散提示) × 2(処理型;生存,快-不快)の要因計画であり,いずれも参加者内要因。参加者 看護学校の学生37名(男子10,女子27)。平均年齢20.5歳。材料 a)方向づけ課題リスト 提示される単語は,北尾ら (1977) から選択された漢字1文字単語16語。要因計画による4つの条件に4語ずつを割り当てる。各字は2回提示されるので,合計32語となり,リストの最初と最後にバッファー語を1語ずつ追加し,34語からなるリストとなる。条件と割り当てる語をカウンターバランスして4つのリストを作成。これらのリストはB6判の小冊子にされる(Figure 1)。方向づけ質問 (生存処理では「生きるために必要ですか?」,快-不快処理では「どんな印象ですか?」)及び6段階評定尺度 (生存欲求処理尺度では「必要でない~必要である」,快-不快処理では「感じが悪い~感じが良い」)が単語の下に表示される。b)自由再生テスト 書記再生してもらうための枡目が印刷されたA4用紙。
手続 偶発記憶手続きを用いた集団実験。1)方向づけ課題 参加者は小冊子の各ページに示された漢字が示す対象に対して「生きるために必要か?」という質問がある場合(生存処理)はどの程度必要かを,「どんな印象ですか」という質問がある場合(快-不快処理) はどのように感じるのかを評定するように教示された。また,同じ漢字が2回提示されるが,続けて提示される場合も,間をおいて提示される場合もあることも教示された。参加者が課題内容を理解したことを確認した後,本試行に入り,参加者は実験者の合図に従って,10秒ごとにページをめくり,該当する数字に○印を記入。2)自由再生テスト 書記自由再生 3分。3)実験の採点と解説 参加者は採点票に基づき採点し,研究目的に関する解説を受け,了承して評定用紙等を提出してくれた。
結果と考察
全体の再生率(全体%; Table 1の上欄)に関する分散分析の結果,提示形式(p<.001)の主効果のみが有意。また,評定段階5及び6の再生率(適合%; Table 1の下欄)に関する分散分析の結果,提示形式及び処理型の主効果(p<.01)及び交互作用が有意傾向。下位検定の結果,生存処理では提示形式による差はなく,快-不快処理では分散提示が集中提示よりも再生率が高かった(p<.01)。
全体%では豊田(2017)とは異なり,分散効果量に処理型による差はなかった。また,適合%に関しては予想とは反対に,快-不快処理における分散効果量が生存処理におけるそれよりも大きかった。この結果は,Nairneらの主張する適応記憶システムを背景にした生存処理により豊富な符号化がなされ,集中提示においても検索手がかりが豊富になった可能性を示唆した。
Nairneら(2007) は単語の指示する対象に対して生存に必要か否かの判断を求める生存処理が他の処理(e.g.快-不快処理)よりも高い記憶成績を示した。彼らはこの結果を人間の記憶システムは生存のために必要な情報を保持する機能をもつ適応記憶(adaptive memory)によって解釈した。学習内容を集中提示するよりも,分散提示する場合が記憶成績の良いという現象は分散効果と呼ばれているが,それは符号化の豊富さによって解釈されることが多い。適応記憶システムが有効に機能するならば,生存処理を行った方が快-不快処理を行う場合よりも符号化が豊富になり,分散効果量(分散と集中提示間の差)が大きくなると予想される。豊田(2017)はこの予想を支持する結果を見いだしたが,リスト構成において統制できていない点があった。そこで,本研究の目的はその点を改善して上記の予想を検討することである。
方 法
実験計画 2 (提示形式;集中提示,分散提示) × 2(処理型;生存,快-不快)の要因計画であり,いずれも参加者内要因。参加者 看護学校の学生37名(男子10,女子27)。平均年齢20.5歳。材料 a)方向づけ課題リスト 提示される単語は,北尾ら (1977) から選択された漢字1文字単語16語。要因計画による4つの条件に4語ずつを割り当てる。各字は2回提示されるので,合計32語となり,リストの最初と最後にバッファー語を1語ずつ追加し,34語からなるリストとなる。条件と割り当てる語をカウンターバランスして4つのリストを作成。これらのリストはB6判の小冊子にされる(Figure 1)。方向づけ質問 (生存処理では「生きるために必要ですか?」,快-不快処理では「どんな印象ですか?」)及び6段階評定尺度 (生存欲求処理尺度では「必要でない~必要である」,快-不快処理では「感じが悪い~感じが良い」)が単語の下に表示される。b)自由再生テスト 書記再生してもらうための枡目が印刷されたA4用紙。
手続 偶発記憶手続きを用いた集団実験。1)方向づけ課題 参加者は小冊子の各ページに示された漢字が示す対象に対して「生きるために必要か?」という質問がある場合(生存処理)はどの程度必要かを,「どんな印象ですか」という質問がある場合(快-不快処理) はどのように感じるのかを評定するように教示された。また,同じ漢字が2回提示されるが,続けて提示される場合も,間をおいて提示される場合もあることも教示された。参加者が課題内容を理解したことを確認した後,本試行に入り,参加者は実験者の合図に従って,10秒ごとにページをめくり,該当する数字に○印を記入。2)自由再生テスト 書記自由再生 3分。3)実験の採点と解説 参加者は採点票に基づき採点し,研究目的に関する解説を受け,了承して評定用紙等を提出してくれた。
結果と考察
全体の再生率(全体%; Table 1の上欄)に関する分散分析の結果,提示形式(p<.001)の主効果のみが有意。また,評定段階5及び6の再生率(適合%; Table 1の下欄)に関する分散分析の結果,提示形式及び処理型の主効果(p<.01)及び交互作用が有意傾向。下位検定の結果,生存処理では提示形式による差はなく,快-不快処理では分散提示が集中提示よりも再生率が高かった(p<.01)。
全体%では豊田(2017)とは異なり,分散効果量に処理型による差はなかった。また,適合%に関しては予想とは反対に,快-不快処理における分散効果量が生存処理におけるそれよりも大きかった。この結果は,Nairneらの主張する適応記憶システムを背景にした生存処理により豊富な符号化がなされ,集中提示においても検索手がかりが豊富になった可能性を示唆した。