The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

Sun. Sep 16, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD23] 大学入試センター試験数学の解決プロセスの検討

思考発話法を用いて

河崎美保1, 白水始2 (1.静岡大学, 2.東京大学)

Keywords:センター試験, 思考発話, 数学

問題と目的
 大学入学者選抜改革の中で,センター試験に代わる新しい大学共通テストの在り方が検討されている。そこでは選択式か記述式かというテストの形式や問題の文脈などが注目される一方,小問間の関係性といった問題構造の要因は,十分検討されていない。こうした点を吟味するには,現行のセンター試験問題が生徒のどのような思考を引き出しているのかの実証研究が必要だろう。そこで本研究は,高校生を対象としてセンター試験の問題を解きながら考えていることを説明してもらう思考発話法を用いて,現行の試験がどのような思考を引き出し評価しているのか,その思考が本来,測りたい教科の思考なのかについて検討することとした。対象には数学を選び,特に,出題者としては最後の小問にそれまでの小問の解決結果を活用すれば容易に解ける問題を用意したと推測できる問題を用いて,高校生がその点に気づくか否かを検証した。

方  法
対象
 関東圏内の公立高等学校3校の3年生10名を対象に実施した。内容を未習の生徒が1名いたため分析から除外した。3つの高校はセンター試験受験率が1%未満,約50%,約80%と異なる学校を選定した(分析対象者は順に4名,2名,3名)。
材料
 平成27年度本試験問題数学ⅠA第4問「場合の数」を題材とした(Table 1)。
 問(6)は,問(1)から問(3)(4)(5)の場合の数を除いた余事象を求めれば解決可能である。「掲示板の塗り分けという具体的な問題において,様々な場合の数を計算することを通じて,『順列・組合せ』の理解度と運用力をみる」もので,実施後の高校からの意見・評価として「適切であるが,⑴が全ての塗り方を考える問題であったため,最初に解法を迷った受験者がいたと思われる」とのコメントがなされている(大学入試センター, 2016)。なお,実験に参加した生徒は誰も解いたことがなかった。
手続き
 授業外の時間40分間で思考発話法を用いた調査を行なった。初めに思考発話の練習を行なった後,約20分で当該問題に解答を求めた。原則生徒ごとに実験者が1人つき,思考プロセスなど質問し記録した。実験者は生徒が沈黙した際や解決の方針を決める際に問いかけ,小問解決後などに解法についてインタビューした。解答終了後には正誤をチェックし,生徒の希望に応じて解き直しを行なわせた。ICレコーダによる録音とビデオによる録画を行なった。

 結果と考察
各小問の正答者数は順に,5,4,9,6,6,6,5,2名であった。問(3)は全員が正答したのに対し,問(6)は2名のみ正答でいずれも余事象は使わなかった。正答数は,8問中8問1名,7問2名,6問1名,4問2名,3問2名,1問1名とばらつきがあった。
 【解答順】は,5名が問(1)から順に解き,3名が問(3)から解き始めた(1名不明)。全体の傾向として,問題文を読んだ後,小問全体を見て,どこから解くかを判断していた。多くは,「すぐに答えが出そうなもの,解きやすそうなものから解く」という基準であり,1名のみ「全事象を求めるものから解く」という生徒がいた。
 【解決方略】には機械的に数字を公式に当てはめて解くという事例は見られず全員が問題状況理解をもとに解こうとしていた。ただし,解答中に小問(6)が余事象を使って求められることに気づいたのは9名中2名(正答数上位者)のみであった。1名は余事象を使わずに正答し,1名は何らかの形で使おうとしたが小問(5)が誤っていたこともあり正答できなかった。前者は余事象の可能性を考えたが,記述式の問題で考えたことをなるべく書くとよいと指導を受けていることもあり全ての場合を書き出す方略を優先したと説明した。テストワイズネスとして,解答の桁数がわかることを利用して解答の誤りに気づき考え直した事例が2件見られた。また(1)のように2桁であることがわかることで解答に時間がかかると予測し,後回しにすると考えると答えた生徒も見られた。
 以上,小問ごとに思考が分断され,構造的理解をもとに解決する数学的思考は評価し難いことが示唆された。