[PD29] 説明場面における説明目的の違いが話者自身の理解促進効果に与える影響
教授場面と理解確認場面の比較
Keywords:説明, 理解促進
目 的
学習者に説明を生成させると理解が促進されることが指摘されている。伊藤・垣花(2009)では,手続きの意味づけや解釈を含む発言が多いほど理解促進効果が得られること示された。では,そうした発言を引き出すにはどのように説明を促す必要があるのだろうか。教育場面で説明を促す際には主に二つの方法がある。一つは相手に教えるための説明である。たとえば,教え合いなどである。もう一つが自分の理解を確認するための説明である。たとえば,学習内容を隣の人に説明してみるような活動場面である。この二つの違いは,説明者が抱く説明目的にある。本研究は説明目的の違いが説明内容および話者自身の理解促進効果に与える影響について検討することである。
本研究では,説明目的を操作するため,聞き手が内容について何も知らない状態で説明する場面(教授群)と,聞き手も内容を学習しており,理解確認のために説明する場面(理解確認群)を設けた。この2群を比較することで,どちらの説明状況のほうがより理解促進効果を生み出すのかを検討することが目的である。
方 法
参加者:首都圏の私立大学に通う大学生62名(教授群16組,理解確認群15組)。
材料:統計学の「カイ二乗検定」に関する説明文(3161字)および事後テストとして全20問(途中式含め24点満点)を作成した。
手続き:2人1組の友人同士で参加した。教授群では,説明者に割り振られた参加者に,説明文とメモ用紙を渡し,説明文の読解後に聞き手に説明させた。理解確認群では,参加者の両方に説明文とメモ用紙を渡し,説明文の読解後に説明者と聞き手に割り振り,説明させた。いずれの群においても説明の際に聞き手には,「はい,いいえ」以外の発話をしないよう教示した。説明終了後,説明者および聞き手に対して事後テストを実施した。
分析:伊藤・垣花(2009)と同様に発話をカテゴリーに分類し,事後テストとの関係を分析した。
結果と考察
(1)事後テストの結果
教授群および理解確認群の事後テストの平均得点は,それぞれ18.63点(SD = 3.07),14.73点(SD = 5.30)であった。分散分析の結果,平均得点に有意差が見られた(F(1,29)=6.36, p<.05)。また,効果量を求めたところd=.91となった。したがって,話者自身の理解を促進させる効果は,教授群のほうが理解確認群よりも上回っているということが示された。
(2)発話カテゴリー分析の結果
まず,事後テストと発話カテゴリーの関係について相関分析を実施したところ,「式・手続きの意味づけ」と事後テストの間で,r=.356 ( p<.05, n=31)の有意な相関が検出された。つまり,説明時の発話の中に「なぜ2乗する必要があるのか」などといった手続きの根拠をより多く述べるものほど,事後テストの得点が高いことが示された。
次に,教授群と理解確認群の発話頻度の平均値を比較したところ,「式・手続きの意味づけ」(教授群26.3回(SD=10.6),理解確認群12.8回(SD=10.6),F(1,29)=12.5,p<.01),「指示」(教授群0.9回(SD=1.50),理解確認群0回(SD=0.00),F(1,29)=5.09,p<.05)において有意差が検出された(Figure 1)。教授群の発話には「式・手続きの意味づけ」がより多く含まれており,それが説明者の理解促進効果に影響を及ぼしていることが示唆される。
以上のことから,説明によって理解を促進させるためには,聞き手が内容について未知であり,説明者が聞き手に対して「理解させる」ための説明を促す状況づくりが求められることが示唆された。
付 記
本研究はJSPS科研費JP 17K04374の助成を受けたものです。
学習者に説明を生成させると理解が促進されることが指摘されている。伊藤・垣花(2009)では,手続きの意味づけや解釈を含む発言が多いほど理解促進効果が得られること示された。では,そうした発言を引き出すにはどのように説明を促す必要があるのだろうか。教育場面で説明を促す際には主に二つの方法がある。一つは相手に教えるための説明である。たとえば,教え合いなどである。もう一つが自分の理解を確認するための説明である。たとえば,学習内容を隣の人に説明してみるような活動場面である。この二つの違いは,説明者が抱く説明目的にある。本研究は説明目的の違いが説明内容および話者自身の理解促進効果に与える影響について検討することである。
本研究では,説明目的を操作するため,聞き手が内容について何も知らない状態で説明する場面(教授群)と,聞き手も内容を学習しており,理解確認のために説明する場面(理解確認群)を設けた。この2群を比較することで,どちらの説明状況のほうがより理解促進効果を生み出すのかを検討することが目的である。
方 法
参加者:首都圏の私立大学に通う大学生62名(教授群16組,理解確認群15組)。
材料:統計学の「カイ二乗検定」に関する説明文(3161字)および事後テストとして全20問(途中式含め24点満点)を作成した。
手続き:2人1組の友人同士で参加した。教授群では,説明者に割り振られた参加者に,説明文とメモ用紙を渡し,説明文の読解後に聞き手に説明させた。理解確認群では,参加者の両方に説明文とメモ用紙を渡し,説明文の読解後に説明者と聞き手に割り振り,説明させた。いずれの群においても説明の際に聞き手には,「はい,いいえ」以外の発話をしないよう教示した。説明終了後,説明者および聞き手に対して事後テストを実施した。
分析:伊藤・垣花(2009)と同様に発話をカテゴリーに分類し,事後テストとの関係を分析した。
結果と考察
(1)事後テストの結果
教授群および理解確認群の事後テストの平均得点は,それぞれ18.63点(SD = 3.07),14.73点(SD = 5.30)であった。分散分析の結果,平均得点に有意差が見られた(F(1,29)=6.36, p<.05)。また,効果量を求めたところd=.91となった。したがって,話者自身の理解を促進させる効果は,教授群のほうが理解確認群よりも上回っているということが示された。
(2)発話カテゴリー分析の結果
まず,事後テストと発話カテゴリーの関係について相関分析を実施したところ,「式・手続きの意味づけ」と事後テストの間で,r=.356 ( p<.05, n=31)の有意な相関が検出された。つまり,説明時の発話の中に「なぜ2乗する必要があるのか」などといった手続きの根拠をより多く述べるものほど,事後テストの得点が高いことが示された。
次に,教授群と理解確認群の発話頻度の平均値を比較したところ,「式・手続きの意味づけ」(教授群26.3回(SD=10.6),理解確認群12.8回(SD=10.6),F(1,29)=12.5,p<.01),「指示」(教授群0.9回(SD=1.50),理解確認群0回(SD=0.00),F(1,29)=5.09,p<.05)において有意差が検出された(Figure 1)。教授群の発話には「式・手続きの意味づけ」がより多く含まれており,それが説明者の理解促進効果に影響を及ぼしていることが示唆される。
以上のことから,説明によって理解を促進させるためには,聞き手が内容について未知であり,説明者が聞き手に対して「理解させる」ための説明を促す状況づくりが求められることが示唆された。
付 記
本研究はJSPS科研費JP 17K04374の助成を受けたものです。