[PD42] 欲求支援・阻害行動の受領がwell-being,ill-beingに及ぼす影響
基本的心理欲求の充足・挫折を通して
Keywords:自己決定理論, 基本的心理欲求, 対人行動
問題と目的
自己決定理論は,人には3つの基本的心理欲求(それぞれ,自律性,有能感,関係性への欲求)を生得的に持つことを提唱した(Deci & Ryan, 2000)。これまでの研究の多くは,欲求の充足につながる行動(欲求支援行動)に着目しており,欲求の挫折につながる行動(欲求阻害行動)の機能に関する検討が少ない。本研究は,欲求支援・阻害行動を包括的に捉えるInterpersonal Behaviors Questionnaire(IBQ: Rocchi et al., 2017)の日本語版(IBQ‐J)を使用し,欲求支援・阻害行動の受領がwell-being,ill-beingに及ぼす影響を同時に検討する。
方 法
調査対象・調査時期 2017年10月から2018年1月にかけ,関東圏内の国立大学の学生を対象に質問紙調査を実施した。調査対象者名のうち,全体および部分有効回答者は267名であった(男性136名,女性131名,不明2名,平均年齢20.22±1.39歳)。
質問紙の構成 ①原版の第一著者から翻訳権を得た上で,バックトランスレーション法を使用し,IBQの日本語版(IBQ-J)原案を作成した(24項目,7件法)。②BPNSF日本語版(西村・鈴木,2016,24項目,5件法)③SWLS日本語版(大石,2009,5項目,7件法)④PANAS日本語版(川人他,2011,20項目,6件法)⑤SVS日本語版(高山,2015,7項目,7件法)
結果と考察
欲求支援・阻害行動の受領が対応する欲求の充足・挫折を予測し,さらに,欲求の充足・挫折がwell-being,ill-beingの各指標を予測するモデルを仮定し,共分散構造分析を行った。その結果,適合度はおおむねに良好であった(χ2 =178.72, df =60, CFI =.95, RMSEA =.08, TLI =.88, AIC =398.72)。結果をFigure1に示す。また,欲求支援・阻害行動の受領が欲求の充足・挫折に影響を及ぼすという理論上の仮説を検証するために,行動の受領から欲求の充足・挫折へのパスの方向を逆転した後のモデルにおいて共分散構造分析を行った。その結果,適合度はχ2 =506.91, df =60, CFI =.82, RMSEA =.15, TLI =.53, AIC =726.91へと大幅に下がり,理論上の仮説と整合した。3種類の欲求支援行動は,それぞれに対応する基本的心理欲求の充足に影響を及ぼし(βs=.17~.54, ps < .05),さらに,欲求の充足はwell-beingの各指標(ポジティブ感情,主観的幸福感,活力)に正の影響を及ぼした(βs=.16~.34, ps < .05)。なかでも,自律性欲求の充足はもっとも多くのwell-beingの指標へ影響を及ぼすということであった。また,欲求の充足からill-beingの指標であるネガティブ感情へのパスはすべて有意ではなかった。一方,3種類の欲求阻害行動は,それぞれに対応する基本的心理欲求の挫折に影響を及ぼし(βs=.15~.38, ps < .05),さらに,ill-beingのみならず(βs=.15~.33, ps < .05),well-beingの指標にも影響を及ぼした(βs=‐.17~‐.32, ps < .05)。中でも特筆すべきは,有能感欲求の挫折が全般的に多くの指標において影響力を持つことであった。具体的に,有能感欲求の挫折は,ill-beingの指標に正の影響を及ぼすだけでなく,well-beingの指標である主観的幸福感及び活力に負の影響を及ぼした。
以上の結果から,well-beingにおける欲求支援行動の受領の役割が再確認された。一方,欲求阻害行動の受領はill-beingにおいて独立な効果を持つのみならず,well-beingにおいても欲求支援行動の受領と同程度に,もしくはより大きい影響力を持つことが示唆された。人間の心的機能の全体像を掴むために,今後は,欲求阻害行動に関する検討が求められるであろう。
自己決定理論は,人には3つの基本的心理欲求(それぞれ,自律性,有能感,関係性への欲求)を生得的に持つことを提唱した(Deci & Ryan, 2000)。これまでの研究の多くは,欲求の充足につながる行動(欲求支援行動)に着目しており,欲求の挫折につながる行動(欲求阻害行動)の機能に関する検討が少ない。本研究は,欲求支援・阻害行動を包括的に捉えるInterpersonal Behaviors Questionnaire(IBQ: Rocchi et al., 2017)の日本語版(IBQ‐J)を使用し,欲求支援・阻害行動の受領がwell-being,ill-beingに及ぼす影響を同時に検討する。
方 法
調査対象・調査時期 2017年10月から2018年1月にかけ,関東圏内の国立大学の学生を対象に質問紙調査を実施した。調査対象者名のうち,全体および部分有効回答者は267名であった(男性136名,女性131名,不明2名,平均年齢20.22±1.39歳)。
質問紙の構成 ①原版の第一著者から翻訳権を得た上で,バックトランスレーション法を使用し,IBQの日本語版(IBQ-J)原案を作成した(24項目,7件法)。②BPNSF日本語版(西村・鈴木,2016,24項目,5件法)③SWLS日本語版(大石,2009,5項目,7件法)④PANAS日本語版(川人他,2011,20項目,6件法)⑤SVS日本語版(高山,2015,7項目,7件法)
結果と考察
欲求支援・阻害行動の受領が対応する欲求の充足・挫折を予測し,さらに,欲求の充足・挫折がwell-being,ill-beingの各指標を予測するモデルを仮定し,共分散構造分析を行った。その結果,適合度はおおむねに良好であった(χ2 =178.72, df =60, CFI =.95, RMSEA =.08, TLI =.88, AIC =398.72)。結果をFigure1に示す。また,欲求支援・阻害行動の受領が欲求の充足・挫折に影響を及ぼすという理論上の仮説を検証するために,行動の受領から欲求の充足・挫折へのパスの方向を逆転した後のモデルにおいて共分散構造分析を行った。その結果,適合度はχ2 =506.91, df =60, CFI =.82, RMSEA =.15, TLI =.53, AIC =726.91へと大幅に下がり,理論上の仮説と整合した。3種類の欲求支援行動は,それぞれに対応する基本的心理欲求の充足に影響を及ぼし(βs=.17~.54, ps < .05),さらに,欲求の充足はwell-beingの各指標(ポジティブ感情,主観的幸福感,活力)に正の影響を及ぼした(βs=.16~.34, ps < .05)。なかでも,自律性欲求の充足はもっとも多くのwell-beingの指標へ影響を及ぼすということであった。また,欲求の充足からill-beingの指標であるネガティブ感情へのパスはすべて有意ではなかった。一方,3種類の欲求阻害行動は,それぞれに対応する基本的心理欲求の挫折に影響を及ぼし(βs=.15~.38, ps < .05),さらに,ill-beingのみならず(βs=.15~.33, ps < .05),well-beingの指標にも影響を及ぼした(βs=‐.17~‐.32, ps < .05)。中でも特筆すべきは,有能感欲求の挫折が全般的に多くの指標において影響力を持つことであった。具体的に,有能感欲求の挫折は,ill-beingの指標に正の影響を及ぼすだけでなく,well-beingの指標である主観的幸福感及び活力に負の影響を及ぼした。
以上の結果から,well-beingにおける欲求支援行動の受領の役割が再確認された。一方,欲求阻害行動の受領はill-beingにおいて独立な効果を持つのみならず,well-beingにおいても欲求支援行動の受領と同程度に,もしくはより大きい影響力を持つことが示唆された。人間の心的機能の全体像を掴むために,今後は,欲求阻害行動に関する検討が求められるであろう。