The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

Sun. Sep 16, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD45] 就職活動を通してのキャリア発達におけるキャリアレジリエンスの働き

就職活動維持過程モデルに着目して

児玉真樹子 (広島大学)

Keywords:キャリアレジリエンス, 就職活動維持過程モデル, キャリア発達

問  題
 就職活動は一種のキャリア形成上の危機となりうる。危機の克服という観点で見たとき,キャリアレジリエンスが有効な働きを示すであろう。児玉(2015)はキャリアレジリエンスを“キャリア形成を脅かすリスクに直面した時,それに対処してキャリア形成を促す働きをする心理的特性”と定義し,問題対応力,ソーシャルスキル,新奇・多様性,未来志向,援助志向の5つの構成要素から成ることを明らかにした。その定義を踏まえ,キャリアレジリエンスは就職活動を通してキャリア形成を促進する働きを示すであろう。
 また輕部・佐藤・杉江(2014)は就職活動時の不採用経験を乗り越え就職活動を維持する過程のモデルを提唱し,それを踏まえ輕部・佐藤・杉江(2015)はその尺度を開発した。それらによると就職活動を維持する過程では輕部他(2015)の尺度の下位尺度のうち模索的行動,不採用経験の振り返り,他者への自己開示,認知的切り替えから成る一次的過程を経験した後,自分らしい就職活動態度の確立,目標の明確化の下位尺度から成る二次的過程を経験する。本研究ではこのモデルに着目し,キャリアレジリエンスが就職活動維持過程においてどのような働きを担ってキャリア発達(職業的アイデンティティとキャリア成熟を指標)を促進するのかを明らかにすることを目的とする。

方  法
 2018年入社のための一般企業への就職活動をした学生を対象に,就職活動開始前の2017年1月に第1回目の,就職活動の終盤時期の2017年10月に第2回目のWeb調査を実施した。2回の調査に回答し,かつ就職活動中に不採用の経験をした回答者は127名(男子41名,女子86名;第1回調査時に短大1年生1名,大学3年生114名,大学院1年生12名)であった。調査内容は,1回目はキャリアレジリエンス尺度(児玉,2017)と職業的アイデンティティ尺度(児玉,2017)と成人キャリア成熟尺度の職業キャリア成熟(坂柳,1999を一部修正),2回目は1回目の内容に加え就職活動維持過程尺度(輕部他,2015)であった。

結果と考察
 就職活動前(1回目調査時)のキャリアレジリエンスおよびキャリア発達度合(職業的アイデンティティ,キャリア成熟)が就職活動維持の一次的過程,二次的過程を介して就職活動終盤(2回目調査時)のキャリア発達度合に影響を及ぼすというプロセスを想定し,パス解析を行った(GFI=.92, AGFI=.83,RMSEA=.03)。
 キャリアレジリエンスのうち問題対応力は就職活動維持の一次的過程の認知的切り替えを促し,これがさらに二次的過程の目標の明確化を促して職業的アイデンティティおよびキャリア成熟の全因子の形成促進を促す働きを示すとともに,一次的過程の認知的切り替えが直接職業的アイデンティティの有能感,キャリア成熟の関心性と自律性の形成を促す働きを示した。それと同時に問題対応力が就職活動維持の二次的過程の目標の明確化を抑制する働きも示した。これらの結果から,問題対応力によって認知的な切り替えが生じればキャリア発達が促進されるが,認知的な切り替えが生じないと自身の目標を明確にすることができずキャリア発達が促進されないことが読み取れる。
 キャリアレジリエンスのうちソーシャルスキル及び新奇・多様性は,就職活動維持の一次的過程の他者への自己開示を促し,それが二次的過程の目標の明確化を促して職業的アイデンティティおよびキャリア成熟の全因子の形成を促進する働きが見られた。自己開示には自己概念の明確化を促す機能があるため(藤原,1995),このような働きを示したのであろう。ただし自己開示がキャリア成熟の計画性を直接抑制する働きも見られた。
 またキャリアレジリエンスのうち未来志向が就職活動維持の二次的過程の目標の明確化を直接促し,キャリア発達につながるというプロセスが見られた。同時に未来志向が他者への自己開示に負の影響を示したが,これは他者への自己開示の質問項目に愚痴などのネガティブな内容の吐露が含まれているため未来志向の高い者はこのような傾向が見られないことを示した結果と解釈できよう。
 以上より,キャリアレジリエンスのうち援助志向を除く4つの構成要素が,就職活動中に不採用の経験といった辛い状況に直面しても,キャリア発達を促進する働きを示すことが判明した。また問題対応力は認知的切り替えを介し,ソーシャルスキルと新奇・多様性は他者への自己開示を介し,未来志向は直接的に,目標の明確化を促し,それがキャリア発達を促すことが判明した。

付  記
本研究は科学研究費助成事業 基盤研究(C)課題番号26380887の助成を受けています