The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

Sun. Sep 16, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD51] 親の育児ストレスと認知的特徴が養育行動に及ぼす影響

吉田遥菜1, 齋藤彩乃2, 野中俊介3, 嶋田洋徳4 (1.早稲田大学, 2.所沢市立教育センター, 3.東京未来大学, 4.早稲田大学)

Keywords:育児ストレス, 育児信念, 随伴性知覚

問題と目的
 従来,「子どもを叩く」のような否定的な養育行動を改善するにあたりその行動の「形態」に焦点を当てた研究が多く行われてきた(伊藤他,2014など)。そして,育児に関する価値観や考え方である育児信念(清水,2003)や,養育行動の結果(子どもの行動)を親自身が俯瞰的に理解できるかという随伴性知覚(野口,2003)といった要因が養育行動に影響を及ぼすことが明らかにされている。一方で,認知行動療法的観点から適切な養育行動の獲得を目指す際には,養育行動の「形態」というよりは,養育行動の結果である子どもの適応行動の増減に着目する「機能的側面」に焦点を当てる必要があると考えられる。
 また,これまで養育行動に大きな影響を及ぼす要因として育児ストレスがあげられているが(足達他,2000),育児ストレスの低減そのものに加えて,たとえ育児ストレスが生じていても機能的な養育行動を維持することができる親の要因を明らかにすることが重要であると考えられる。
 しかしながら,親の育児ストレスとこれらの要因が養育行動に及ぼす影響は必ずしも体系的に示されているとは言いがたい。そこで本研究においては,親の育児ストレスと認知的特徴が養育行動に及ぼす影響を検討した。

方  法
調査対象者:関東の幼稚園および保育園に在籍する3歳から6歳の幼児の母親379名(平均年齢37.0±4.7歳)を分析対象とした(有効回答率71.91%)。
調査材料:(a)育児ストレス反応尺度(日下部・坂野,2001),(b)育児信念尺度(清水,2003)を本研究にて一部改変,(c)機能的養育行動:養育スキル尺度(立元他,2001)を本研究にて一部改変,(d)随伴性知覚:養育スキル尺度(立元他,2001)における養育行動の頻度得点と,子どもの反応得点の差分値を指標として用いた。なお,本研究は早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」の承認を得て実施された(承認番号:2017-067)。

結果と考察
 機能的養育行動における下位尺度得点を目的変数,Step1に育児ストレスにおける下位尺度得点,Step2に各認知的要因,Step3に交互作用項をそれ
ぞれ説明変数として,階層的重回帰分析を行った。その結果,機能的養育行動の下位因子における「機能的コミュニケーション」得点に対して交互作用項の投入によるR2の増分が有意であり(ΔR2 = .12,p < .01),随伴性知覚と育児ストレスの下位尺度である「不機嫌・集中困難」の交互作用項が有意であった(β = -.31,p < .01)。そこで,単純傾斜分析を行った結果,随伴性知覚が平均値-1SDの場合,「不機嫌・集中困難」は,「機能的コミュニケーション」への有意な正の影響性を示し(β = .31,p < .01;Figure 1),「不機嫌・集中困難」が平均値+1SDの場合,随伴性知覚は,「機能的コミュニケーション」への有意な負の影響を示した(β = -.38,p < .01;Figure 1)。したがって,不機嫌・集中困難に関する親の育児ストレスが高い場合でも,随伴性知覚が高ければ,機能的なコミュニケーションに関する養育行動が遂行できていることが示された。
 このことから,育児支援においては,育児ストレスを下げることに加えて,親が適切な随伴性のモニタリングを獲得できるような支援にも焦点を当てる必要があると考えられる。