The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PD] ポスター発表 PD(01-70)

Sun. Sep 16, 2018 10:00 AM - 12:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号10:00~11:00 偶数番号11:00~12:00

[PD57] 「SOSの出し方教育」の授業実践の開発と検討

自尊感情とメンタルヘルスに関する心理教育に着目して

井門正美#1, 梅村武仁#2, 川俣智路3 (1.北海道教育大学, 2.北海道教育大学, 3.北海道教育大学)

Keywords:命の教育, SOSの出し方教育, 自尊感情

問  題
 日本では自殺者数の増減率は,他の年代が減少しているのに対し,19歳以下の年代のみ減少が認められない。文部科学省の自殺予防に関する検討委員会では,教師向けの自殺予防プログラムを公表するなど対策を実施してきたが,自殺という繊細な問題を取り扱うことに対する教員の不安感,保護者にプログラム実施の了承をとることが難しい等の課題が存在し,文部科学省と厚生労働省によると自殺予防教育プログラムの実施率は1.8%に留まっている。
 先の通知では,こうした状況を踏まえより学校において実施することが容易い「SOSの出し方に関する教育」の実施を推進している。「SOSの出し方に関する教育」はこれまでも各教科の中で実施されているが,今後は地域のリソースとも連携しながら定期的に実施されることが望まれている。

研究目的
 本研究の目的は,「SOSの出し方に関する教育」の授業実践を開発・実践し,その効果について質的,量的に検討することである。そして,学校現場で実施することが可能な「SOSの出し方に関する教育」の授業実践ついて検討したい。

研究方法
 授業実践は,1時限(50分)で実施することを前提として,自尊感情に働きかけるワークと,SOSの出し方を教えるレクチャーの2つの内容から構成した。これはSOSの出し方に関する教育に取り組んでいる東京都足立区の方針を参考にしている。自尊感情に働きかけるワークは,近藤(2013),望月(2014)の内容を参照して,共有体験を思い起こすワークを実施した。近藤(2013)は体験と感情を共有することで形成されていく無条件の感情である基本的自尊感情を育むためには他人と感情や経験を共有する「共有体験」が重要であると述べており,このワークはその知見に基づいている。SOSの出し方に関するレクチャーは,東京都足立区の取り組みを参照しつつ,筆者が基本的なメンタルヘルスの心理教育の内容を参照しながら作成した。
 授業前後の参加者の変化を測定するため,近藤(2013)が開発した自尊感情の測定尺度「そばセット(SOBA-SET)」を使用した。さらにSOSの出し方に関する心理教育が定着したかを確認するために「こころの調子が悪くなっても,助けを求めることができれば回復することができると思います」など心理教育の内容に則した3つの質問を4件法(とてもそう思う,そう思う,そう思わない,全然そう思わない)で尋ねた。
 実践はA市の市立B中学校の1年生を対象に,筆者らが授業者として実施した。参加者には事前に担任教員から「SOSの出し方に関する教育」の出前授業があることが伝えられ参加の同意を得た。今後,別の中学校でも同様の取り組みを実施予定である。

結果と考察
 実践前のアンケートは回答者が121名(有効回答数106名),実践後のアンケートは回答者が127名(有効回答数113名)であった。自尊感情に関しては社会的自尊感情,基本的自尊感情ともに実施戦後でほとんど変化は見られなかった。
 SOSの出し方についての知識が定着したかについて,実践前後で回答傾向に差があるかどうかカイ二乗分析を実施したところ,「こころの調子が悪くなっても,助けを求めることができれば回復することができると思います」の設問のみ,とてもそう思うと答えた生徒が実践前後で有意に増加した(χ2(3, N=243)=8.74, p<.05 )。
 実践後に「今日の講座で新しく学んだこと,印象に残ったことがあったら教えてください」という設問で自由記述式で回答を求めたところ,55名の生徒から,「辛いときもまわりの人に相談すれば,少し心がかるくなることを知った」,「命は大切だと知った」,「何かあったら相談することが大切だと思った」,「今日の講座でSOSの時の対処方法とかがわかったので良かったです。」といった講座の目的を理解できたという内容の感想が記入された。
 本研究の結果,1時限の授業実践の中で自尊感情を高めるワークについてはほとんど効果がなかったが,SOSの出し方に関する心理教育については一定の効果があったことが示唆された。当日は他の中学校で実施した結果の分析も踏まえて,授業実践の内容について検討したい。

付  記
 本研究は厚生労働科学研究費政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)「地域の実情に応じた自殺対策推進のための包括的支援モデルの構築と展開方策に関する研究(研究代表者:本橋豊)」の助成を受けて,北海道教育大学教職大学院命の教育プロジェクトチームが実施している