The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

Sun. Sep 16, 2018 1:30 PM - 3:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE04] 園での仲間遊びにおける葛藤調整

〈意図的ではないとみられる行動〉から生じた4歳クラス児の葛藤状況に着目して

岩田美保 (千葉大学)

Keywords:葛藤調整, 感情, 仲間遊び

問題と目的
 幼児期の仲間間の葛藤調整は,感情発達や,学童期に向けたレディネスの形成においても重要といえる(Blair,2002)。これまで,葛藤状況の検討にあたり,その原因としては,物や場所の取り合いによって起こるものに主に焦点が当てられてきた(倉持,1992,等)。一方で,やりとりにみられる葛藤の原因はさまざまであり,その原因が必ずしも明確でないものもあると考えられる。こうしたことをふまえ,本研究では,ある子どもの〈意図的ではないとみられる行動〉が原因で生じた(原因がわかりにくい)葛藤状況に対して,幼児がどのような対処的やりとりを行っていくのかに着目する。本稿では,筆者のこれまでの検討(発心大会,2018)から,その調整のあり方が多様化することが窺われた4歳クラス児間のやりとりに着目し,葛藤調整がどのようになされるかについて,さらに検討を行う。

方  法
研究協力者:首都圏の大学附属幼稚園に通う4歳クラス児。
観察内容:朝の自由遊び時間(約2時間)において,概ね1か月に2回の割合で,室内及び屋外(一部の遊具)での3~5歳児の仲間遊びを対象に定期的な参与観察を行った。本稿では,これまでの検討(発心大会,2018)に引き続き,201X年以降3年間の観察記録(筆記記録を中心とし,補助的に音声記録を併用)のうち,意図的ではないとみられる行動が原因で生じた4歳クラス児間の葛藤状況(不満の表明やいざこざ)に対して,仲間内で一定の対処(状況が一旦おさまる,等)がみられた未分析の6事例(うち1事例は一部保育者の介入含む)について分析対象とした。

結果と考察
葛藤状況の原因:今回の分析事例にみられた葛藤状況に関わる原因として,①ある子どもが相手に対して合意なく攻撃するように見える行動をとった(棒を相手に向ける,手作りの「剣」で「戦う」,等)状況(事例1,2),②ある子どもが相手をたまたま押した等からもみあいが生じ,仲間同士の仲裁によってさらに広がる(事例3),③遊びの役割やそのための準備(電車の全面に工作したものをつける,等)の設定に関わるアイディアがかみ合わない(事例4),④遊びのイメージやルール共有がなされないまま遊びがスタートする(事例5),⑤状況理解(ある子どもが砂場に集めたスコップの置き場所)が共有されていない中で仲間にそれを乱されたと捉える(事例6),といったことが挙げられた。これらの葛藤状況は,総じて子ども間の状況や感情状態の把握のずれが原因であると考えられ,これまでの検討(岩田,2018発心大会)とも概ね重なる結果であった。
葛藤状況の解決:上記の葛藤状況の対処や解決方略としては,以下の通りであった。①仲間による積極的・直接的な仲裁(「やだっていうことはやめなさい」(事例1),「何もやってないんだからAちゃん(を)たたかないで」(事例2)),及び,そうした仲間の介入方略を当事者が自らの方略として同様に用いて対処する(「何もやってないよ,私」と言って冷静に立ち去る(事例2))②当事者が自ら対処して,自らを不利な状況に置くことを避けるために,仲裁を第三者に依頼して対処することを仲間が当事者に忠言する(「やっつけるとやりかえしになる」,「困ったときは○○に言いな(言って)」(事例3)),③葛藤状況のやりとりから,話が脱線し,当該の遊びの設定(電車ごっこ)に関わるやりとりが挟まれることにより解決(一人の子どもが八つ当たりのようにテープカッターをはじいて鳴らした「キー」という音を別の子どもが「それ,電車の音に使おう」等)(事例4)),④葛藤状況の当事者間で,悪意の有無の確認や,イメージ(ベンチに囲まれたところが「海」)やルール(ベンチから落とされると「海」に落ちる)の認識のずれの修正を通じた解決(一部保育者の介入(「うしろから押すのはやめよう」等)含む(事例5)),⑤葛藤状況の当事者間のやりとりから話が脱線,軽口が挟まれることで解決(事例6)。
 総じて,意図的ではないとみられることに端を発した(原因がわかりにくい)4歳クラス児間の葛藤状況の解決において,仲間の直接的,間接的関与が重要な役割を担ってくることや,当事者間の話題の転換や軽口が葛藤解決のきっかけとなっていくことが窺えた。これらは,社会情緒的な発達の深まる同時期の葛藤解決のありようの一端を示唆するものとして興味深いものといえる。一方,イメージやルール等の認識のずれの修正については,当事者間の解決に一定の困難さも窺え,今後注視していく必要があるといえた。

付  記
科学研究費(基盤研究(C),課題番号17K04343,研究代表者 岩田美保)の助成を受けた.