[PE21] フィードバックによる作文の改善に及ぼす適性要因の影響
制御焦点,達成目標,学習観,認知スタイルの比較
Keywords:フィードバック, 作文, 制御焦点
問題と目的
作文指導に関する研究の多くは,学習者の自己調整能力の育成を目的の1つとしているが,その学習過程ではフィードバック(以下,FB)が重要な役割を果たすとされる(Graham et al., 1998など)。さらに,そのような自己調整能力の学習過程には,学習者の適性による差が生じると考えられている(Efklides, 2011など)。それにも関わらず,FBと作文に関する研究では,そうした適性による改善過程の差を検討した研究は少ない。したがって,本研究の目的は,制御焦点,達成目標,学習観,認知スタイルといった適性が,FBによる作文の改善過程に及ぼす影響を検討することである。
方 法
分析対象者 全調査参加者157名のうち,最後まで調査に参加した東北地方のA短期大学生84名(女性75名)と,関西地方のB大学生52名(全て女性)を分析対象者とした。
課題 「これまでにした苦労体験と,そこから学んだことは何ですか?」というテーマで文章を書く課題を実施した。
手続き 集団を対象に,2回に分けて課題を行った。ただし,2回目では,最初に1回目の課題に関するコメントが記されたシートを渡した後に,課題を実施した。シートには,作文の「良かったところ」と「直した方がよいところ」がそれぞれ1点ずつ記されていた。
制御焦点適性 尾崎・唐沢(2011)のPPFS邦訳版を使用した。下位尺度は,(1)利得接近志向:肯定的な結果や進歩などへの関心,(2)損失回避志向:否定的な結果や安全などへの関心である。
達成目標志向性 田中・山内(2000)の目標志向性尺度を使用した。下位尺度は,(1)マスタリー志向:学習によって能力を高めることへの志向,(2)遂行接近志向:自分の有能さを誇示し肯定的な評価を得ようとする志向。(3)遂行回避志向:自分の無能さが明らかになる事態を避け否定的な評価を回避しようとする志向である。
学習観 瀬尾(2007)などを参考に,学習に対する信念を測定する尺度を作成した。下位尺度は,(1)失敗活用志向:失敗を学習改善の材料と捉える考え方,(2)結果重視志向:学習過程よりも結果を重視する考え方である。
認知的熟慮性 滝聞・坂元(1991)の熟慮性-衝動性尺度を使用した。得点が高いほど,情報を分析的に処理し,論理的に問題解決をする傾向にあることを示す。
従属変数 主なものは,(1)不安:課題遂行中の不安,(2)直感的方略:自由に直感的に文章を書く方略,(3)熟慮的方略:じっくり考えながら文章を書く方略,(4)修正:文字を線で消した回数である。
結果と考察
重回帰分析の結果,利得接近志向と熟慮的方略,損失回避志向と直感的方略および不安には正の関連が示され,結果重視志向と修正には負の関連が示された(Figure1)。一方,達成目標志向性および認知的熟慮性とは関連が示されなかった。
進歩に関心がある利得接近志向の人は,より良い文章を書くために熟慮する一方で,安全に関心がある損失回避志向の人は,不安を感じながらも,最低限度の文章を書くために直感的な方略を使用したと考えられる。また,結果重視志向の人は,作文の完成を重視するため,より良い文章にするための修正を行いにくい傾向にあると思われる。それに対して,達成目標志向性と認知的熟慮性は,改善過程には影響していなかった。達成という学習結果に関する適性や,問題解決に関する適性は,直近の学習行動との関係が希薄である可能性がある。以上のことから,作文の学習行動に働きかける指導方法の1つとして,学習者の制御焦点や学習観に適合した介入が考えられるだろう。今後は,作文課題のパフォーマンス指標との関連を含めた,総合的な改善モデルが示される必要がある。
作文指導に関する研究の多くは,学習者の自己調整能力の育成を目的の1つとしているが,その学習過程ではフィードバック(以下,FB)が重要な役割を果たすとされる(Graham et al., 1998など)。さらに,そのような自己調整能力の学習過程には,学習者の適性による差が生じると考えられている(Efklides, 2011など)。それにも関わらず,FBと作文に関する研究では,そうした適性による改善過程の差を検討した研究は少ない。したがって,本研究の目的は,制御焦点,達成目標,学習観,認知スタイルといった適性が,FBによる作文の改善過程に及ぼす影響を検討することである。
方 法
分析対象者 全調査参加者157名のうち,最後まで調査に参加した東北地方のA短期大学生84名(女性75名)と,関西地方のB大学生52名(全て女性)を分析対象者とした。
課題 「これまでにした苦労体験と,そこから学んだことは何ですか?」というテーマで文章を書く課題を実施した。
手続き 集団を対象に,2回に分けて課題を行った。ただし,2回目では,最初に1回目の課題に関するコメントが記されたシートを渡した後に,課題を実施した。シートには,作文の「良かったところ」と「直した方がよいところ」がそれぞれ1点ずつ記されていた。
制御焦点適性 尾崎・唐沢(2011)のPPFS邦訳版を使用した。下位尺度は,(1)利得接近志向:肯定的な結果や進歩などへの関心,(2)損失回避志向:否定的な結果や安全などへの関心である。
達成目標志向性 田中・山内(2000)の目標志向性尺度を使用した。下位尺度は,(1)マスタリー志向:学習によって能力を高めることへの志向,(2)遂行接近志向:自分の有能さを誇示し肯定的な評価を得ようとする志向。(3)遂行回避志向:自分の無能さが明らかになる事態を避け否定的な評価を回避しようとする志向である。
学習観 瀬尾(2007)などを参考に,学習に対する信念を測定する尺度を作成した。下位尺度は,(1)失敗活用志向:失敗を学習改善の材料と捉える考え方,(2)結果重視志向:学習過程よりも結果を重視する考え方である。
認知的熟慮性 滝聞・坂元(1991)の熟慮性-衝動性尺度を使用した。得点が高いほど,情報を分析的に処理し,論理的に問題解決をする傾向にあることを示す。
従属変数 主なものは,(1)不安:課題遂行中の不安,(2)直感的方略:自由に直感的に文章を書く方略,(3)熟慮的方略:じっくり考えながら文章を書く方略,(4)修正:文字を線で消した回数である。
結果と考察
重回帰分析の結果,利得接近志向と熟慮的方略,損失回避志向と直感的方略および不安には正の関連が示され,結果重視志向と修正には負の関連が示された(Figure1)。一方,達成目標志向性および認知的熟慮性とは関連が示されなかった。
進歩に関心がある利得接近志向の人は,より良い文章を書くために熟慮する一方で,安全に関心がある損失回避志向の人は,不安を感じながらも,最低限度の文章を書くために直感的な方略を使用したと考えられる。また,結果重視志向の人は,作文の完成を重視するため,より良い文章にするための修正を行いにくい傾向にあると思われる。それに対して,達成目標志向性と認知的熟慮性は,改善過程には影響していなかった。達成という学習結果に関する適性や,問題解決に関する適性は,直近の学習行動との関係が希薄である可能性がある。以上のことから,作文の学習行動に働きかける指導方法の1つとして,学習者の制御焦点や学習観に適合した介入が考えられるだろう。今後は,作文課題のパフォーマンス指標との関連を含めた,総合的な改善モデルが示される必要がある。