The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

Sun. Sep 16, 2018 1:30 PM - 3:30 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE70] 高校教育での相関係数と心理学

データサイエンスとしての心理学をアピールするチャンスか?

椎名乾平1, 久保沙織2 (1.早稲田大学, 2.東京女子医科大学)

Keywords:相関係数, 評定尺度, 高大接続

高校教育と相関係数
 相関係数は平成元年度学習指導要領で高校数学教育の題材となり,また平成21年度学習指導要領(施行は平成25年より)で必修化されたので(数学Ⅰの「データの分析」),大学新入生はほとんど全員学習済みという良い状況になった。ただし,筆者が受け持つ新入生の統計クラスの初回の講義で聞いたところ,45人中20人が,「知らない・よくわからない」,と回答したので,定着率は高くないものと思われる。いずれにせよ,高校数学教育と大学の心理学教育の高大接続を具体的に考えなければならない時期となったと言えよう。またこの学習指導要領では「課題学習」が重視され「生活と関連付けたり発展させたりするなどして,生徒の関心や意欲を高める課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識できるようにする。」ことになっている。そこで,データサイエンスとしての心理学を高校生にアピールし,心理学の実像を知ってもらうチャンスも訪れたと考える。

心理学の歴史をアピール
 心理学にとって相関係数は単なる統計指標ではない。相関係数のルーツがそもそも心理学にあると言うのは妥当な主張だろうし(Denis, 2001 ; 椎名, 2016),また相関係数を用いた「差異心理学」は,心理学のメインストリームの一つと言える。従って,相関係数がGalton, Pearson, Spearmanといった人々により,遺伝や知能の研究のための道具として19世紀末に考案されたという歴史的事実を伝えるのは,心理学に興味を持つ高校生に有用であろう。また,「課題学習」において,Galtonの相関表を題材にして遺伝・環境問題,優生学問題を論じる,あるいはSpearmanの相関行列を用いて知能について論じる,といったことも可能かもしれない。因子分析まで行ければ最高である。

データサイエンスとしての心理学
 相関係数は「課題学習」の題材として好都合であろうから,授業において評定尺度を用いたアンケート調査や,各種集計データの相関係数を求める場合がでてくるだろう。あるいは,元々の連続データをいくつかの階級に分けてから,相関係数を求める場合もあるかもしれない。このような活動を通じて高校生が「ミニ心理学」を体験できるような機会を設けるのは有意義と思われる。

心理学での相関係数の留意点
 ただし,心理学での相関係数の使用法には独特の癖がある。それは変数に,「荒いカテゴリー」(Broad-CategoryあるいはCoarse-Category)が用いられる傾向が強いと言うことである。「荒いカテゴリー」とは相関係数を計算する元となる変数の段階数が少ない場合を指し,相関係数にバイアスを与える。この問題は相関係数の開発者であるKarl Pearson自身によってごく初期の頃(1913)に検討されているが(椎名, 2017も参照されたい),その時点では解決されなかったし今でも完全解決されたわけではない。
 荒いカテゴリーを用いると,相関表(コンティンジェンシーテーブルあるいはクロス表)が出てくるが,これは測定精度が非常に低い散布図と解釈することが可能である。また,相関表では数値でなく記号ラベルや言語ラベルが用いられることも多い。元来「順序尺度」としか言いようがない記号ラベルや言語ラベルに1,2,3等の整数値を無理やり当てはめ,さらに間隔尺度と無理やり仮定すれば,心理学で良く用いられる評定尺度(Likert尺度)のデータと形式的に同じになる。
 「課題学習」等で,「ミニ心理学体験」目指し,荒いカテゴリー用いたデータを得た場合の相関計算の留意点は以下のとおりとなろう。
 1)散布図の点は格子状になる。さらに重なる点が多くなるので,連続量を用いた散布図と比べてスカスカの印象を与えることになる。2)相関係数の値は小さくなる。連続変量や細かいカテゴリーを用いた場合と比較して相関係数の絶対値は小さくなる。3)カテゴリーの数が異なると相関係数は±1になり得ない。あるいは相関係数の絶対値は2)と同様に小さくなる。あまり知られていない現象であるが,証明は簡単である(Shiina et al, 2012)。4)そもそも順序尺度のデータで相関係数を計算していいのか? これは未解決の問題である。5)カテゴリー数がいくつあれば「荒くない」と言えるのか? これも未解決の問題である。ではあるが,未解決の問題を気にしないで突き進むのも心理学の実像の一つであろう。

文  献
Shiina et al, 2012, https://psych.or.jp/meeting/
proceedings/76/contents/pdf/1EVA14.pdf
椎名(2016) 心理学評論
椎名(2017) 知られざるPearson(1913)のBroad-Category補正式について