[PF03] 母親の不安特性が幼児の不安特性に与える影響
Keywords:母親, 幼児, 不安
問題と目的
子どもが示す様々な問題の背景には不安があるといわれている。しかし,幼い子どもは不安を感じたときに言葉で上手に表現することは難しく,行動や身体症状で表現することも多い。また乳幼児期の子どもは,大人の感情に大きく影響を受けるといわれている。子どもの感情面を探る際に,特に“母親”との関係が重要視され,子どもの感情特性は母親の感情特性によって影響を受けると考えられる。益子 (2013) は,母親の悪口を聞いている子どもは自己肯定感・安心感に否定的な判断傾向がみられることを示している。このことから,母親が子どもの前で感情を表現する程度によって子どもの感情特性への影響に違いがあると考える。本研究では,幼児の不安に焦点を当て,幼児の不安特性に影響を与えている要因について,母親の不安特性と母親が子どもの前で見せる不安表現の2つから明らかにすることを目的とする。
方 法
A県内5か所の私立幼稚園・認定こども園に在籍する3~6歳の子ども429名の保護者を対象に質問紙調査を行い,そのうちの3~6歳の子どもの母親208名(平均月齢 60.01ヶ月, SD = 10.93)を分析対象とした。質問紙の内容は,フェイスシート,母親の不安・喜び特性尺度,子どもの不安特性尺度,母親の不安・喜び抑制尺度の3つの尺度で構成された。
結 果
母親の不安特性・不安抑制得点それぞれのうち,1/2標準偏差以上の得点を高群,1/2標準偏差以下の得点を低群として抽出した。母親の不安特性高群・低群と母親の不安抑制高群・低群を独立変数,子どもの不安特性尺度の下位因子「社会不安」「全般性不安」「分離不安」「特定の恐怖」を従属変数として2要因分散分析を行った。その結果,「分離不安」と「特定の恐怖」で母親の不安特性の主効果が有意であり(分離不安:F (1,77) = 3.51,
p < .10 特定の恐怖:F (1,77) = 4.15,p < .05),母親の不安特性が高いと子どもの「分離不安」と「特定の恐怖」が高いことが示された。しかし,母親の不安抑制の主効果は有意ではなく,母親の不安特性と母親の不安抑制との交互作用の効果も有意ではなかった。
考 察
母親の不安特性が高い子どもは母親の不安特性が低い子どもと比較して,「分離不安」「特定の恐怖」が高いことが明らかになった。しかし,子どもの不安特性に母親の不安表現は影響を与えているとはいえず,母親の不安特性そのものが影響を与えていることが示唆された。母親の不安特性が高い場合には,子どもの前で不安を見せないように意識していたとしても,実際には抑制できていない可能性が考えられる。一方で母親の不安特性が低い場合には,子どもの前で不安を見せたとしても不安そのものが低いため,子どもの不安特性に影響することはないと考えられる。また,不安特性が高い母親の子どもは「分離不安」が高くなり,母親から離れることに対して不安を訴えるようになると思われる。そのため,母親と子どもが一緒に過ごす時間が多くなり,母親も無意識のうちに子どもの前で不安を見せることで母親の不安特性が子どもの不安特性に影響を与えるのではないだろうか。「特定の恐怖」は,子どもが恐怖を感じる状況であるにも関わらず母親も側にいない場合に生じる不安であると推察され,「分離不安」と同じ要素がある不安とも考えられる。
今後の課題として,母親の不安表現を客観的に測定することや,母親の不安特性が影響を及ぼす養育態度に注目する必要があることが挙げられる。
付 記
本研究は,平成29年度鳴門教育大学大学院学校教育研究に提出した修士論文を加筆修正したものである。
子どもが示す様々な問題の背景には不安があるといわれている。しかし,幼い子どもは不安を感じたときに言葉で上手に表現することは難しく,行動や身体症状で表現することも多い。また乳幼児期の子どもは,大人の感情に大きく影響を受けるといわれている。子どもの感情面を探る際に,特に“母親”との関係が重要視され,子どもの感情特性は母親の感情特性によって影響を受けると考えられる。益子 (2013) は,母親の悪口を聞いている子どもは自己肯定感・安心感に否定的な判断傾向がみられることを示している。このことから,母親が子どもの前で感情を表現する程度によって子どもの感情特性への影響に違いがあると考える。本研究では,幼児の不安に焦点を当て,幼児の不安特性に影響を与えている要因について,母親の不安特性と母親が子どもの前で見せる不安表現の2つから明らかにすることを目的とする。
方 法
A県内5か所の私立幼稚園・認定こども園に在籍する3~6歳の子ども429名の保護者を対象に質問紙調査を行い,そのうちの3~6歳の子どもの母親208名(平均月齢 60.01ヶ月, SD = 10.93)を分析対象とした。質問紙の内容は,フェイスシート,母親の不安・喜び特性尺度,子どもの不安特性尺度,母親の不安・喜び抑制尺度の3つの尺度で構成された。
結 果
母親の不安特性・不安抑制得点それぞれのうち,1/2標準偏差以上の得点を高群,1/2標準偏差以下の得点を低群として抽出した。母親の不安特性高群・低群と母親の不安抑制高群・低群を独立変数,子どもの不安特性尺度の下位因子「社会不安」「全般性不安」「分離不安」「特定の恐怖」を従属変数として2要因分散分析を行った。その結果,「分離不安」と「特定の恐怖」で母親の不安特性の主効果が有意であり(分離不安:F (1,77) = 3.51,
p < .10 特定の恐怖:F (1,77) = 4.15,p < .05),母親の不安特性が高いと子どもの「分離不安」と「特定の恐怖」が高いことが示された。しかし,母親の不安抑制の主効果は有意ではなく,母親の不安特性と母親の不安抑制との交互作用の効果も有意ではなかった。
考 察
母親の不安特性が高い子どもは母親の不安特性が低い子どもと比較して,「分離不安」「特定の恐怖」が高いことが明らかになった。しかし,子どもの不安特性に母親の不安表現は影響を与えているとはいえず,母親の不安特性そのものが影響を与えていることが示唆された。母親の不安特性が高い場合には,子どもの前で不安を見せないように意識していたとしても,実際には抑制できていない可能性が考えられる。一方で母親の不安特性が低い場合には,子どもの前で不安を見せたとしても不安そのものが低いため,子どもの不安特性に影響することはないと考えられる。また,不安特性が高い母親の子どもは「分離不安」が高くなり,母親から離れることに対して不安を訴えるようになると思われる。そのため,母親と子どもが一緒に過ごす時間が多くなり,母親も無意識のうちに子どもの前で不安を見せることで母親の不安特性が子どもの不安特性に影響を与えるのではないだろうか。「特定の恐怖」は,子どもが恐怖を感じる状況であるにも関わらず母親も側にいない場合に生じる不安であると推察され,「分離不安」と同じ要素がある不安とも考えられる。
今後の課題として,母親の不安表現を客観的に測定することや,母親の不安特性が影響を及ぼす養育態度に注目する必要があることが挙げられる。
付 記
本研究は,平成29年度鳴門教育大学大学院学校教育研究に提出した修士論文を加筆修正したものである。