The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-71)

Sun. Sep 16, 2018 4:00 PM - 6:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号16:00~17:00 偶数番号17:00~18:00

[PF04] 文字表記の発生に及ぼす環境要因の分析

プリントエピソードとの関連を中心に

山形恭子1, 古池若葉2 (1.京都ノートルダム女子大学, 2.京都女子大学)

Keywords:文字, プリント, 発生過程

目  的
 表記システムの獲得は認知発達・シンボル発達に重要な役割を果たしているが,筆者らはこれまで文字・数字表記を取り上げ,年少・年長幼児においてその獲得に影響する要因を解明してきた(山形・古池,2014~2018;古池・山形,2014~2018)。これらの研究では表記システムの獲得に影響する要因として対人的やりとりや周囲の事物に記されているプリントが検討されてきた。山形・古池(2018)では数・数表記の発生に及ぼす環境要因を事例観察から調べたが,本稿では文字表記の発生に影響する環境要因に焦点を当てて分析する。リテラシー研究では文字表記の獲得に関する多数の研究が蓄積されているが,環境要因に注目した研究は少ない。また,文字表記の獲得に及ぼすプリント知識の影響を調べた研究も海外で見られるものの(Levy et al. 2006; Neumann et al,2013),日本では皆無である。そこで,本報告では文字表記の獲得に影響する環境要因を環境中に記されたプリントに注目して検討する。

方  法
調査対象児:7名(A~G児)。男児3名,女児4名。対象児の養育者(母親)に調査を依頼し,質問紙による縦断観察をおこなった。
手続:毎月初めに養育者に質問票を送り,前月の家庭で見られた文字・数に関連するエピソード報告を依頼した。質問紙では「どのような文字に関するエピソードが見られましたか」と尋ねて筆記を求めた。本調査は参加月齢が対象児で若干異なるが,約1歳~3歳の約2年間実施した。Table 1に観察月数とエピソード数を示す。なお,C児は母親の都合で1年間のみの参加であった。
エピソード分析:報告されたエピソードは転記をし,対象児別にエピソードに番号を付して整理した。次にエピソード内容から発生過程を捉えるカテゴリを決定した。さらに,文字エピソードがどのような環境中の事物に記されたプリントかを調べるためにプリント出現事物カテゴリを設定した。これらのカテゴリは後述するが,研究目的を知らない評定者1名と筆者の2名でカテゴリの出現時期とプリント出現事物を評定して特定した。

結  果
(1) エピソード数
 Table 1に対象児の観察月数と文字エピソード(Ep)数,プリント出現事物エピソード(P Ep)数,文字Ep数に占めるその割合(%)の結果を挙げた。結果から文字Ep数ならびにP Ep数において対象児間の個人差が大きいことが窺われた。P Ep数の文字Ep数に占める割合は各対象児で50%から80%と高率であった。また,年齢にともない文字Ep数の出現に違いがあり,1歳代はほとんど見られなかったが,2歳中期から増加傾向が認められた。
(2) 発生過程の分析
 文字表記の発生過程を分析するために,教示・一緒にいう(模倣)・文字を指す・文字認知・読む・書く・名前関連・絵本のカテゴリを設定し,出現時期を評定によって決定した。その結果,個人差が見られたが,出現年齢は教示1:0~2:4, 一緒にいう1:9~2:8,文字認知1:10~2:4, 読む2:6~3:2, 書く2:11~4:1であり,年齢幅が見られた。
(3) プリントの内容分析
 対象児が文字を環境中の事物に記されたプリントから捉えた場合に如何なる事物に記されたプリントであるのかを分析した。カテゴリとP Epに占める割合をTable 2に示す。結果からプリント出現事物では絵本図鑑が, 次いで看板や教育材が多かった。その他に対象児の「他者に名前を書いてもらう」,「字を読む,読もうとする」,「字を書く,書こうとする」行動が見られ,それぞれの文字Ep数に占める割合は8.8%, 9.3%, 9.8%であった。

考  察
 結果から文字表記の発生に教示・模倣・本を読んでもらう・名前を書いてもらう等の養育者との対人的やりとりが関連し,また,環境中の事物に記されたプリントも影響することが示された。表記システムの獲得にはこれらの環境要因の寄与が窺われ,社会的構成の観点から捉える必要性が示唆された。今後の検討課題としては養育者の観察報告に依拠するのでなく,調査・実験を通じて実証的に検証することが必要である。

引用文献
山形・古池 (2018). 数・数表記の発生に及ぼす環境要因の分析 日発心論文集,351. 

付  記
本研究はJSPS科研費基盤研究Cの助成を受けた。