The 60th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-71)

Sun. Sep 16, 2018 4:00 PM - 6:00 PM D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号16:00~17:00 偶数番号17:00~18:00

[PF14] 直観に反する仮説的判断の強制導入が自己完結的推論の抑制に及ぼす効果

工藤与志文1, 佐藤誠子2 (1.東北大学, 2.石巻専修大学)

Keywords:直観, 仮説的判断, 自己完結的推論

問  題
 佐藤・工藤(2014)はFigure 1のように3頂点が一直線上にならんだ特異な四角形(三角型四角形)の分類課題に対する大学生の推論過程を分析したところ,「四角形でない」という直観を前提とした推論が優勢であり,「四角形である」という結論に到達することが著しく困難であることを見出した。この事実は,直観に反する仮説的判断(仮に四角形だと考えてみる)から推論を展開することが困難であるため,推論が自己完結的になり,当初の直観的判断に合致した形でしか進まないためであると解釈された。そこで工藤・佐藤(2015)は,同様に特異な四角形である「くさび形四角形」を題材に,仮説的判断に基づく推論の重要性を教授する授業を行った。授業では,「四角形である」と仮定することから「内角の和が360°である」という予測が導かれ,それが確認されることにより四角形であると結論づけられる点を教示した。授業前後を比較すると,くさび型四角形を四角形に分類した者は48%から88%に上昇したのに対し,三角型四角形では授業後でも21%にとどまり,転移効果は認められなかった。本研究は,仮説的判断を強制的に導入する(「四角形であることを証明せよ」という課題を課す)ことで自己完結的推論の抑制が生じるか検討する。

方  法
対象者:私立大学の「心理学」受講生178名。
方法の概要:事前調査では,授業で事例として用いるくさび型四角形の分類について尋ねた。授業の内容は工藤・佐藤(2015)と同様であった。実験条件は,事後調査の内容によって操作された。「証明群(92名)」ではくさび型四角形の分類課題に続いて,三角型四角形が四角形であることを証明する課題が与えられ,その後分類課題の解答が求められた。「通常群(86名)」は証明課題が与えられない点以外は同一であった。なお授業と事後調査は同時に行い,両群の割り付けは無作為になされた。

結果と考察
事前調査の結果:くさび型四角形を四角形に分類すると回答した者は,証明群60%,通常群66%であり,両群に違いはなかった。
事後調査の結果:くさび型四角形を四角形に分類すると回答した者は,証明群96%,通常群97%であり,授業内容はほぼ全員が理解したと考えられる。一方,三角型四角形を四角形に分類すると回答した者は,証明群23%,通常群11%であり,全体として低率にとどまった。ただし,証明群の中には実際に妥当な証明をした者としなかった者(証明の拒否,不十分な証明,無答)が混在している。そこで「証明可群(49名)」と「証明不可群(43名)」に二分し,通常群と比較した結果がFigure 2である。四角形に分類した者の割合は「証明可群」で有意に高かったが43%にとどまった。仮説的判断の強制導入には効果が認められるものの,限定的であると言わざるをえない。また,直前の授業で教示された証明方法はそのまま三角型四角形にも適用可能である点を考慮すれば,証明不可群の多さも注目すべきである。あえて直観に反する仮説を立てて自己完結的推論から脱却することは極めて困難な作業であることが伺える。